『世界一わかりやすい哲学の授業』
[著]小川仁志
[発行]PHP研究所
ノージックってどんな人?
先生:今日はノージックですね。この授業の中では一番名前を聞いたことがない人なのではないでしょうか?
C吾郎:不勉強でお恥ずかしいのですが、初耳です。
B夫:僕も初めてです。
A子:リバタリアンの代表格ですよね?
先生:さすが、A子さん。そうです。ノージックはアメリカの政治哲学者で、今日扱う『アナーキー・国家・ユートピア』は、一九七四年に出版されています。当時は前回紹介したロールズが『正義論』を刊行したばかりで、国家が国民の福祉、生活の面倒を見るのが当たり前であるというようなコンセンサスが形成されつつある時期でした。そこにこのノージックがリバタリアニズムの立場から異議を唱えたのです。
B夫:ちょ、ちょっといいですか。そのリバタリアンとかリバタリアニズムって何ですか?
先生:そうですね、リバタリアニズムの説明が必要ですね。これは失礼しました。リバタリアニズムにも種類があるのですが、一言でいうなら個人の自由を最大に、国家の強制を最小にというのが共通するスローガンです。ですから「自由至上主義」などとも訳されます。そしてリバタリアンというのは、こうした思想を支持する人たちのことです。
C吾郎:やはりそういう思想が出てきたのには時代背景があるんでしょうか?
先生:十九世紀末以来拡大してきた福祉国家の思想によって、国家が肥大化してきていたという事情はあります。インフレや財政赤字といった「政府の失敗」に対する非難の表れでしょう。
A子:先ほどリバタリアニズムにも種類があるといわれたんですが、ノージックはどのへんに位置づけられるんでしょうか?
B夫:A子ちゃんは質問のレベルが違うなぁ…。
先生:許容される国家の規模がどの程度なのかというのが問題になります。完全な撤廃を唱えるのが「無政府資本主義」です。D・フリードマンという経済学者が有名な論者です。そして治安・防衛・司法といった最小限の国家機能はもちろんのこと、貨幣や公共財の供給まで認めるのが「古典的自由主義」です。F・A・ハイエクなどが有名です。これに対して、そこまで認めるのではなく、あくまで治安・防衛・司法といった最小限の国家機能にとどめるべきだという中間の立場が「最小国家論」です。これがノージックの立場になります。彼の表現を見てみましょう。「国家についての本書の主な結論は次の諸点にある。暴力・盗み・詐欺からの保護、契約の執行などに限定される最小国家は正当とみなされる。