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あけて、私は六十八歳になる。さまざまな人生をながめてきた。そして、いつも心に思い浮ぶのは、高見順氏の「この人生は、神が萬人に与え給うた、ただ一枚の招待券である」ということばである。
若いころは、このことばに反撥を感じた。人生を音楽会か何かの切符みたいに取り扱っている、たとえば、そういう気持だったが、このごろは、反対に、いいことばだなと思うようになってきた。
第一、近代的である。「人の一生は、重い荷物を背負って遠き道を行くが如し、急ぐべからず」といったのは、家康だが、このことば、自戒のことばとしては、うなずけても、私は、あまり好きではない。