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ことしの大宅賞は『ワシントンの街から』(ハロラン芙美子)『にっぽん音吉漂流記』(春名徹)の二作に決定した。手許に送られてきたその他の候補作品は『徳川夢声の世界』(三国一朗)『空白の五分間』(三輪和雄)『横浜事件の人々』(中村智子)『原発ジプシー』(堀江邦夫)『棄民の群島――ミクロネシヤ被爆民の記録』(前田哲夫)『星降る印度』(後藤亜紀)の六篇で、計八篇であった。
十一年目をむかえた大宅賞も、今年あたりは、曲り角にさしかかっているような感じがした。それは、一つは作品の多様性ということである。読者もこの八篇をながめてもオヤオヤと思われるであろう。
海外の書評欄では大別してフィクション(こしらえもの=小説)とノン・フィクション(非小説)とわけているが、トルーマン・カポーティの『冷血』以来、フィクシアス・ノンフィクション(小説風な実録)という新しいジャンルが増えてきている。