現在では、六五歳以上を高齢者とよんでいる。老人とはよばないで、あえて高齢者という表現をとっているのは、老人というと、いかにも人生の終末に向かって衰退していく年寄りというマイナスの響きがあるかららしい。だが、本来、老人とは単に年齢が高いというだけではなく、尊敬されるべき人間という意味が込められていた。たしかに、戦前までの伝統社会では三世代同居がふつうであり、老人は生活の智恵の伝承者として、ほかの者では肩代わりすることができない役割を担っていた。ところが、戦後の資本主義社会の発展とともに、それまでの老人像は大きく変わることになった。