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うつもボケも寄せつけない 脳とこころがホッとする健康学
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くらし
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1 ことばは心を、心は体を調える

『うつもボケも寄せつけない 脳とこころがホッとする健康学』
[著]高田明和 [発行]すばる舎


読了目安時間:16分
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◆医師のことばは〈天の声〉

 私たちは病気になると、医師の〈ことば〉を心待ちにします。そのちょっとしたひとことにも耳をそばだてて、

▪自分が今かかっているのはどんな病気か
▪その状態や程度はどうなのか
▪治る可能性はあるのか


 ……など、細大(さいだい)もらさず聞き取ろうとします。


 「先生の〈大丈夫ですよ〉ということばに救われました」


 と安堵(あんど)の表情でおっしゃる人がいる一方で、「しばらく様子を見ましょうか」という経過観察のひとことにさえ不安を(つの)らせてしまう人もいます。

 日ごろ思いもかけなかった心身の不調を受けとめなければいけない側にとってみれば、医師のことばは、いわば〈天の声〉に等しいものなのでしょう。

 実際、外来の患者さんたちと日々接する立場にいる後輩の若い医師たちに聞いてみると、自分たちがさほど深い意味もなく発したことばによって、患者さんがまさに一喜一憂してしまうという現実に直面し、自らに課せられた責任の重さに少なからず悩んだ経験があるようです。

 とくに若い駆け出しの医師であれば、その傾向はますます強くなります。


 「患者さんの立場で考えて、もっと適切なことばで語りたい」

 「医師である前に、人として、もっと患者さんの心に寄り添おう」

 「決して〈患者の心、医者知らず〉であってはならない。それでは医師として失格だ」


 このような真摯(しんし)な態度で患者に向き合おうと、日々心を(くだ)くわけです。

 しかも、伝わるのは、ことばを介しての情報だけではありません。

 ことば以外のやりとり、たとえば、知らず知らずのうちに表れてしまう態度やしぐさ、表情など〈非言語的(ノンバーバル)な〉コミュニケーションによっても、患者さんは敏感に医師の本音を読み取ろうとしているのです。

 こうしたやりとりの重大さが、若い彼らにとって逆にプレッシャーになってしまって、思いつめたすえに「自分を外来の担当からはずしてほしい」と申し出る者さえいるほどです。

◆診察室で〈すれ違う〉ことばと思い

 しかし、じつは、診察室でかわされたことばのやりとりを、患者さんの側が逐一、言われたあともずっと覚えているかどうかは、その後の病気の経過で大きく異なります。

 多くの場合、人は自分にとって〈都合のよい〉ことよりも〈都合の悪い〉ことをよく記憶しているものです。

 先ほど「医師の声は〈天の声〉である」と申し上げましたが、病状が快復することをお伝えして、事実そのとおりになった場合には、医師から何と言われたか、はっきりと覚えていないという人もけっこう多いのです。

 前述のとおり「先生のことばに救われました」と医者冥利(みょうり)()きることばをおっしゃってくださる患者さんがいる一方で、

 「あのときは気が動転していて、先生のことばも、周囲の励ましも、全部うわの空でした」

 と正直におっしゃる人もいます。天の声として重く受け止めている人もいれば、うわの空で〈()けども()こえず〉の人もいるわけです。

 医師としてみれば快方に向かった患者さんには、「ほうら、言ったとおり、よくなったでしょ?」と胸を張りたいような気持ちもなきにしもあらず。

 しかし、それは医師の側の勝手な〈片思い〉なのでしょう。

 もちろん、快復を喜ぶ患者さんと喜びを共有できるのですから、それもうれしい片思いではあるわけですが……。

 さて、問題は逆のパターン。

 医師のひとことを受けて、患者さんの病状が悪化してしまった場合です。

 すなわち、医師側の何気ないひとことによって患者さんがひどく傷ついたり、悩んでしまったりして、それが結果的に快復の遅れにつながってしまうケース。

 このような場合、患者さんから医師が恨まれたり、非難されたりして、あとあと深刻なトラブルに発展してしまうこともあります。

◆病は気から、快復は心から

 「病は気から」ということばがあります。これがあながちウソではないことを、私たちは体感的に何となく知っています。

 気のもちようや心のあり方で、病気の経過が変わってくる。

 いわば「病は気から」ならぬ、「(いや)しも気から」「快復は心から」という現実を、身近な人の闘病体験を見聞きしたり、それとなく肌で感じたりしているのです。

 そもそも、医師のことばが患者の心のありようを変え、その病状に影響を与える。そんな〈非科学的〉なことがなぜ起こるのでしょうか。

 結論を先に言ってしまうと、これは、


 「ことばによる〈プラセボ効果〉である」


 と説明できます。

 このプラセボ(Placebo)ということばは、もともとはラテン語です。

 英語読みの「プラシーボ」と表記されることもあり、英語でいえば“I shall please”にあたります。直訳すると「私は喜ばせる」とか「私は安心する」という意味になります。

 日本語ではこれを「偽薬(ぎやく)」と訳すこともあります。

 偽薬、すなわち、ウソのクスリ。薬でもないのに薬のような働きをするもの、ということです。

 本書でも、薬以外のものの効果、たとえば医師のことばなども含めるというニュアンスから、あえて訳さずにプラセボという語を用います。

 このプラセボ効果が、どれほどのものか、また、どうしてそれが起こるのかについて、いくつかの研究やエピソードを紹介しながら以下、考えていきます。

◆プラセボ効果でガンから快復

 まずはじめに紹介するのは、プラセボ効果について語られるときにしばしば登場する有名な逸話です。

 1957年、米国でのこと。米国心理投影法学会の会長に就任したブルーノ・クロッファー教授は、就任演説で次のような話を披露しました。それはカリフォルニア州のロングビーチにある病院で実際にあったことでした。

 治療を受けていた末期の悪性リンパ腫の患者は、大きいものではオレンジほどの腫瘍が体のいたるところにできていて、診察したウエスト医師は「余命は数日」という診断を下しました。

 当時、その病院では新しく開発された抗ガン剤「クレビオゼン」の臨床試験を行っていました。この話を聞きつけた患者は、クレビオゼンを注射してほしいと医師に懇願します。しかし、医師はこの患者の願いを断ります。クレビオゼンの臨床試験に参加できるのは〈余命3か月以上の人に限る〉とされていたからです。

 いったんは(こば)んだものの、患者からのたっての希望ということでウエスト医師は、ある金曜日の午後、クレビオゼンを投与します。

 その結果はすぐに現れました。

 週末をはさんだ翌週の月曜日、その患者はベッドを離れて看護師と雑談ができるまでに快復していました。しかも驚くべきことに、腫瘍がまるで溶けてしまったかのように半分くらいの大きさになっていたというのです。

 さらに、その10日後、ガンの症状はまったく消えてなくなり、患者は自家用飛行機を運転できるまでに快復しました。

◆ことばに翻弄される患者

 ところが、その後、事態は急展開します。新聞に〈クレビオゼンに薬効なし〉という記事が出たのです。これを読んだ患者はしだいに元気を失っていき、うつ状態になります。そして、その2か月後にはガンがその勢いをとりもどしてしまうのです。その結果、病状は、患者が最初に病院を訪れたときと同じレベルに逆もどりしてしまいました。

 そこでウエスト医師は患者に「そんな話を信じてはいけない」と諭します。さらに、

 「これはスーパークレビオゼンで、効き目は2倍になっている」

 と言って、ただの食塩水を注射しました。

 すると、ふたたび〈奇跡〉が起こります。

 ほどなく腫瘍が消え、ふたたび歩けるまでに快復したのです。また自家用飛行機にも乗れるまでになりました。

 それこそ(わら)にもすがる思いで治療を受ける立場にある人の心と体を(もてあそ)ぶような話ですが、話はここで終わりません。

 その2か月後、全米医学会によって行われた大規模なクレビオゼンの治療効果の調査を新聞が報じたのです。ふたたび〈効果なし〉と。

 一度ならず二度までも、この患者は〈期待を裏切られた〉わけです。この記事を読んだ患者は、その数日後に入院し、そのさらに2日後に亡くなりました。

◆肯定的なことばがプラセボ効果を増す

 この事例を発表したクロッファー教授の専門は心理学です。教授は、医師と新聞報道と食い違う両者のあいだで二転三転した患者の心と病状の問題を、広く世に提起したわけです。

 にわかに信じられないかもしれませんが、このような〈ことば〉による暗示効果を実際に調べた報告はほかにもあります。英国の医療専門誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」の1987年5月9日号で報告された研究です。

 K.B.トーマス医師は、自覚症状はあるのに検査しても悪いところが見つからない患者に「薬」と称して、効果がないはずのプラセボを与えました。

 具体的には、患者200人を100人のグループに二分します。

 まず一方のグループには「2、3日でよくなります」と肯定的な診断を告げます。そのうちの半数の50人には「この薬は必ず効きます」と説明して、効果のないプラセボを与えます。残りの50人には何も与えませんでした。

 これに対して、もうひとつのグループには「いろいろ調べましたが、原因がわかりませんでした」と否定的な見方を述べ、そのうちの半数の50人には「この薬は効くかどうかわかりませんが」と言ってプラセボを投与し、残りの50人にはやはり何も与えませんでした。すなわち、

①「肯定的」なことばと、プラセボ「あり」……50
②「肯定的」なことばと、プラセボ「なし」……50
③「否定的」なことばと、プラセボ「あり」……50
④「否定的」なことばと、プラセボ「なし」……50


 これら4グループで比較したのです。

 2週間後、病院からそれぞれの患者の家に質問票が送られます。

 患者が回答したところによると、「効きます」「よくなります」と言われてプラセボを投与された人の64%に症状改善がみられました。

 これに対し、「効くかどうかわかりませんが」と言って投与された人の場合は、改善がみられたのは39%にとどまりました。

 このように、医師が肯定的に述べたときにのみプラセボの効果があり、快復もしたという結果が得られたわけです。

 病は気のもちようで変わり、心のありようで薬の効果も左右されるというこの事例は、人間の心の潜在力を考えるうえで非常に興味深い結果と言えるでしょう。

◆薬の効果もことばに左右される

 一般的にプラセボ効果の有無は、効果が期待される薬に対して、効果がない物質を被験者に与え、その効果を比較することによって示されます。しかし、実際には薬そのものの効果が医師のことばに左右され、増えたり減ったりします。

 これを「プラセボなきプラセボ効果」と呼んでいます。

 ここでまたいくつかの研究事例を紹介します。

 米国のダラスにあるテキサス・サウスウエスタン医科大学の麻酔科のエグバート博士らは、臨床医学専門誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」の1964年4月号に、次のような論文を出しました。

 まず、さまざまな病気で腹部の手術を受けることになっていた97人の患者を2つのグループに分けます。そのうえで、手術前の説明や心理的なケアに関してグループ間で〈差〉をつけます。

 具体的には、一方のグループの被験者に対しては、医師からの事前説明を簡単なものにとどめ、被験者の不安を軽減するような対策もとくに行いませんでした。

 これに対して、もう一方のグループは、医師が事前に病気や治療法について事細かく説明し、被験者の不安を和らげるため、「強い痛み止めの薬を用意していますから、どうしても耐えられないときは遠慮なくおっしゃってください」と伝えました。

 実際の手術は、立ち会う医師にも看護師にも、どの被験者がどちらの説明を受けていたかは知らされない状態にしたうえで行われました。

 このような対応の〈格差〉をつけられたそれぞれの被験者が、手術時にどれほど痛みを訴えたか、あるいは痛み止めを欲したかについて、それぞれの被験者が退院したのちに検証が行われました。

 手術時に使われた痛み止めの薬の平均使用量を比較すると、〈よく説明された〉グループが用いられた痛み止めは、〈簡単な説明のみ〉のグループの約半分でした。また、術後の入院期間も平均で2日ほど短いことがわかりました。

◆少ない薬量でも痛み止めが効く

 別の研究も紹介します。ニューヨーク州立大学のルパレロ博士らは、気管支ぜんそくの患者について調べました。ぜんそくの発作では気管が収縮します。その際に医師が、

①「気管支拡張剤」と言って、気管支収縮剤を与えた場合
②「気管支収縮剤」と言って、気管支拡張剤を与えた場合
③「気管支収縮剤」と言って、気管支収縮剤を与えた場合


 それぞれを比較しました。すると、「拡張剤」と言って収縮剤を与えられた場合、収縮剤はあまり気管支を収縮させませんでした。すなわち、医師のことばに沿うような効果を示したわけです。

 さらに、過敏性腸症候群という病気に関する別の研究もあります。

 過敏性腸症候群は腹部に痛みをともない、下痢などを起こす原因不明の病気で、この病気の診断には、肛門からバルーンを入れてふくらませ、その痛みの程度を調べます。

 正真正銘の過敏性腸症候群である場合、ふつうの人が痛いと思わない程度のバルーンのふくらみであっても強い痛みを感じます。

 研究では、複数の患者に痛み止めとして合成モルヒネを注入します。このとき、本人に気づかれないように薬剤を点滴するよりも、本人にあらかじめ「これから痛み止めを注射します」と言ってから点滴するほうが痛みの軽減効果は大きくなるのです。

 また、本人が痛み止めを注入されていると自覚している場合には、同じ鎮痛効果を出すのに6割くらいの薬量でよく、さらに時間を追って調べると、痛みの程度は本人が注入を知っているほうが弱くなるのです。これらも「プラセボなきプラセボ効果」と言えるでしょう。

◆信じることで力を発揮することば

 では、もし〈正直に〉医師が「プラセボ」すなわち「偽薬」であることを被験者に知らせたときはどうなるのでしょうか。プラセボの効果はまったくなくなってしまうのでしょうか。

 必ずしもそうではないということがさまざまな調査からわかっています。

 一例をあげましょう。米国のジョンズ・ホプキンス大学のパーク博士らは、精神科の外来患者に対して、次のような調査を行いました。対象になったのは15人です。

 それぞれの患者に対して医師は、次のように告げて薬瓶を渡します。


 「これはまったく活性作用をもたない砂糖の錠剤だが、これを飲んで多くの人が〈よくなった〉と言っている」


 ここで言う「活性作用をもたない」は「薬としては効果がない」という意味です。

 そのことも十分に説明したうえで、「1日3回、毎回1錠ずつ飲みつづけること」を患者に告げ、さらに「1週間たったらチェックのために再来院してほしい」と伝えます。

 結果はどうなったか。

 再来院したのは14人。そのうち13人に症状の改善がみられました。しかも、興味深いことに、医師のことばを信じ、砂糖の錠剤であることも十分に納得していた人に、より顕著な改善がみられました。

 調査対象は15人(再来院したのは14人)ですから数としては多くありませんが、そのうち13人に改善がみられたことは、かなりの高確率であることがわかります。

 ここで注意すべきは、医師が薬瓶を渡す際に、プラスの情報もマイナスの情報も、すべて同時に伝えている点です。


 「これを飲んで多くの人が〈よくなった〉と言っている」


 というのはプラス情報です。それだけを告げたのではなく、その前置きとして、


 「まったく活性作用をもたない砂糖の錠剤だが……」


 とマイナス情報も伝えています。

 プラス情報のみの提示であったら、はたして、どのような結果になったのか、ぜひあわせて調べてほしかったところですが、おそらく患者たちは「薬としては効果がない」というマイナス情報を〈正直に〉伝えてくれた医師の態度に、


 「このドクターは信頼できる」


 と受けとめたのではないでしょうか。そのうえで、


 「この錠剤は砂糖らしいが、きっと特別で、だからこそ多くの人にも効果があったのだ」


 と〈好意的〉に解釈したのだと思われます。

 これが事実だとすると、医師のことばを患者が信頼することで、プラセボ効果がよりいっそう高まるということになります。

 この研究事例からわかるのは、情報の属人性です。

 すなわち、医師から提示される情報の真偽よりも、そのことばを使っている医師が〈信じられるかどうか〉のほうが、患者にとって(あるいは患者の症状改善にとって)より重要であるということです。

◆奇跡はすべて心が起こす

 ことばによって患者の〈心〉が変わり、その影響で病状、すなわち体の状態が変わっている事例をみてきました。インターネットなどでさまざまな情報を〈瞬時に、大量に、簡単に〉入手できる現代では、専門家である医師も顔負けの医学的知識を、患者さん自身がもっていることがあります。

 たしかに情報はないよりあったほうがよいでしょうが、そのために、かつてのような医師と患者が強い信頼で結ばれるということが、かえって難しくなってきているとの見方もあります。〈知らぬが仏〉でいたほうが救われるという意味で、まことに皮肉なことですが、目の前のドクターが言っていることを信じるしかなかったころの患者さんのほうが〈恵まれていた〉と言えるかもしれません。

 しかし、どういう時代であれ、ことばの力で心も体も変わるという事実は、変わらずにあるわけです。そのことに私たちは、もう少し思いを向けるべきではないでしょうか。

 そもそも、痛みや症状を感じるのは脳です。脳の働きや仕組みが〈ことば〉というプラセボなきプラセボの影響を受けることで、痛みを感じなくなったり、逆に強く感じたりもしているわけです。

 もっと言えば、プラセボ効果がその力を発揮するのは、人に〈心〉があるからです。

 心が関与しないところにはプラセボ効果はありませんし、この世の「奇跡」と称されるものはすべて、心の働きがある場合に見られる現象です。

 ことばを信じることで病気の治癒および予防の効果が出るということに関連して、次節以降では医学の歴史とからめながら、さらにプラセボ効果についてみていきたいと思います。

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