ヤルタ会談から一カ月余りたった三月二十八日のことである。小野寺は突然、ベルリンの日本大使館に呼び出された。
小野寺は空港からティアガルテン通りの日本大使館に向かうと、大島浩大使はじめ、河原

一郎参事官、内田藤雄一等書記官、小松光彦陸軍武官、甲谷悦男補佐官が待ち構えていた。会議の冒頭、大島大使が切り出した。
「ドイツのリッベントロップ外相から、小野寺武官に要請が来ている。『一九三九年の秘密協定に戻すことでソ連と至急、休戦してドイツを救いたい。これをやるのは外相として政治家としての義務である。ついては、ストックホルム在勤のソ連公使マダム・コロンタイを通じて、モロトフと会談の斡旋をお願いしたい』とのことだ」