会談が終わった直後の二月半ば。午後八時から始まる夕食前だった。アパート五階にある小野寺の自宅郵便受けに物音がした。手紙の差出人はストックホルム駐在ポーランド武官、ブルジェスクウィンスキーだった。
手紙の封を開いた小野寺は驚愕した。それは日本の敗北を決定づける不吉な報せ──すなわち「ヤルタ密約」の情報だった。
「ソ連はドイツの降伏より、三カ月を準備期間として、対日参戦する」
危惧していた最悪の事態が起きた。あのスターリンがついに日本に刃を向けてくることを正式に表明したのだ。当時有効だった日ソ中立条約を侵犯して参戦するのは日本を裏切る驚天動地の行為であり、ソ連に領土を奪われ、祖国が世界地図から消える危険さえ孕んでいた。