ストックホルム市内のリネガータンにある日本陸武官事務所にプリンス・カール・ベルナドッテが仲介者のスタンダード石油会社スウェーデン総代理店支配人、エリック・エリクソンとともに小野寺を訪ねてきたのは、ナチス・ドイツが降伏した翌五月九日のことだった。
カール・ベルナドッテは、当時のスウェーデン国王グスタフ五世の甥で、故ベルギー女王アストッドの兄弟にあたり、父親はスウェーデン赤十字社の総裁を務めていた。王室では皇太子に次ぐ重要メンバーだった。だが、平民と結婚したプリンス・カールは、王族の称号も王位継承権も失っていた。しかし、国王は、甥のプリンス・カールを愛され、よくお手許に招かれていた。