約束の五月十六日、小野寺が留守中に、エリクソンが武官事務所兼自宅を訪れ、百合子夫人に伝えた。
「マダム、例の件は首尾よしです。オーソリティーの手に移されたから、必ずよい結果が期待できます」
戦後判明したところによると、OSSのエージェントだったエリクソンは、小野寺とのやりとりを全て在ストックホルム米国公使のジョンソンに報告していた。この記録がアメリカ国立公文書館に残されている。五月十一日発でジョンソンからワシントンのステチニアス国務長官に送った報告電報は次の通りだった。
「公使館の要請により、公使館の関係筋(エリクソン)が五月七日の晩、小野寺少将、本間らと会談した。