小野寺は返事を心待ちにしていたが、プリンス・カール・ジュニアらから何の連絡もなかった。エリクソンが百合子夫人に、「オーソリティーに回りました」と告げてから、およそ一カ月後の六月二十四日、日本の梅津参謀総長から意外な電報が届いた。
「帝国は必勝の信念をもって戦争を続行する決意を有することは、貴官も承知のはずなり。しかるところ最近ストックホルムにおいて、中央の方針に反し、和平工作をするものあるやの情報なり。貴官において真相を調査の上一報ありたし」
小野寺は情報が参謀総長まで漏れていたことに驚いた。電報は、「和平工作などするな」との叱責だった。