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ヨーロッパの戦略思考
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政治・社会
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まえがき

『ヨーロッパの戦略思考』
[著]古森義久 [発行]PHP研究所


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 ソ連は脅威なのか、脅威ではないのか――。

 日本の安全保障を考えるときに、最大の要因となるのはやはりソ連をどうみるかであろう。日本に限らず、西側の自由主義陣営の国ならそれはいずれも同様である。

 ソ連は、いうまでもなく西側の拠って立つ資本主義が必然的に倒れる、という教義を掲げるマルクス・レーニン主義の政治体制である。そのうえに強大な軍事力を持つ。ソ連をどんな角度からながめるにせよ、この二点を否定することはできないだろう。問題はそのさきである。
「資本主義は倒れる」という政治理念、そして強大な軍事力と、この二つだけでも資本主義の国にとってソ連は潜在脅威となるのか。それとも潜在どころか、能力と機会さえあれば資本主義を必ずや倒し、全世界に共産主義支配をうち立てようとする明確な脅威なのか。

 あるいは世界の共産化というイデオロギー上の純粋目標などは実際にはもう捨て去ってしまったのか。西側とはただ現状を維持しながら進もうとしているのか。平和共存以上にはなにも求めようとしないのか。

 ソ連の意図や能力、体質をどうみるかで西側の防衛や外交のあり方が根本から変わってくる。日本の場合でも、ソ連をどうとらえ、それにどう対応するかが最大の課題となる。

 が、日本ほどソ連をみる眼が幅が広く、さまざまにゆれ動く国も珍しいだろう。一方にソ連の北海道侵攻論があれば、他方にはソ連を脅威とすることのほうが脅威だとする主張までがある。ソ連こそ平和勢力だという主張も、最近は後退したとはいえ永年あった。ソ連をたとえ潜在的にせよ脅威とみることには、いまでも異論は多い。

 ソ連はただ自国の体制の保持のみに専念する平和志向国家なのか。それとも世界革命をめざす膨張国家なのか。脅威なのか。脅威ではないのか。「脅威」という言葉をどう定義づけるかにもよるが、このへんの見方は日本で極端に論議が割れる。

 見方のいかんにより日本の防衛や外交へのアプローチが大きく左右される。いくら総合安全保障とか平和外交とかいっても、ソ連がひとたびアフガニスタン侵攻のような軍事行動を大胆にとると、国際環境はがらりと変わり、日本の対外姿勢も基盤から変質せざるをえない。

 アメリカの例をみてもソ連の動きによっていまの保守化、軍備増強がもたらされたという側面も少なくない。ことほどソ連が投げるインパクトは大である。とくに軍事行動からの余波が大きい。そしてそのソ連をどうみるかが西側の外交や防衛の決め手となる。

 ソ連が脅威かどうかを考えるときに、まず焦点をあわせるべきなのはその軍事力であろう。軍事力の背後にあるドクトリンであり、戦略だろう。

 ソ連がそもそもどんな体質の国で、なにをめざすのかは、政治体制を分析し、それを支えるイデオロギーを検証し、イデオロギーの歴史的な変遷に、いまの世界情勢に対する指導部の認識を加味しての綿密な探索がまず必要である。軍事力とか戦略とかをみるのは、その探索の単なる枝葉かもしれない。

 だがその一方、政治理念を形に表わしたのが軍事のあり方と受けとることもできる。イデオロギーとか政治理念はきわめて抽象のレベルの高い、いわばとらえにくい対象であるのに対し、軍事力とか軍事行動は具体的な形をとる実体である。秘密のベールが厚いとはいえ、ソ連の軍事力は明確に形として実在する。軍事力を支える戦略も、イデオロギーそのものにくらべればずっと具体性は高い。

 政治路線から軍事のあり方が決まるのであれば、逆に軍事のあり方から政治路線の実体を手さぐりすることもできるといえよう。「脅威」についてもまず問題になるのは、軍事力のあり方であり、それを動かすドクトリンだろう。

 総兵力五百万と推定されるソ連が軍事超大国であることは疑いない。いったいなんのためにこれだけの兵力を保つのか。アメリカの脅威にそなえるためか。単に自国あるいは共産主義防衛のためか。平和維持をめざす抑止のためか。それとも自国の政治意思を貫くための道具としてか。あるいはいつの日にかは可能かもしれない全世界の共産化のためか。

 このへんの見方も日本では、おそらく他の西側諸国のどこよりも激しい振幅があるようである。ソ連の軍事力や戦略に対する正確な認識が、日本の外交や防衛の政策を組み立てるうえできわめて重要なことは、繰りかえすまでもない。とくに現在のようにソ連が日本への外交姿勢を微妙に変えつつあるようにみえるときなど、その背後にある従来の戦略の把握がさらに肝要になってくる。

 従来、日本での「ソ連の脅威」に対する見方は、アメリカに影響されるところがもっとも大だった。アメリカの情報や分析に頼るか、あるいはそれを排するか。まずアメリカの見方があって、ただそれを受けいれるか拒むか、という構図がほとんどだった。でなければアメリカの見方をどこまで受けいれるか、である。ソ連の軍事力とか戦略への認識については、とくにその傾向が強かった。

 こうしたアメリカ一辺倒の単一に走りがちなパターンに陥らないためのアプローチとして、ヨーロッパの専門家たちに「ソ連の脅威」についてくわしく尋ねてみた。ソ連をみるアメリカの視点があるならば、当然、欧州独自の視点もあるはずである。

 それを知るためにスウェーデン、西ドイツ、オランダ、イギリス、フランスの学者、官僚、軍人、言論人らにインタビューした。大多数はソ連の軍事や戦略を研究する専門家である。ヨーロッパの戦略頭脳と言えよう。官僚や軍人でもソ連をまず念頭においての国際安全保障と取り組んでいる第一線の実務家を選んだ。ソ連の軍事面での動きを日ごろつかみ、それを考慮して自国の防衛政策を組み立てる、という実際の責任ある立場の人たちが多かった。アプローチをより立体的にするために、反核運動の指導者や野党寄り専門家も含めた。

 インタビューの相手は三十人近くにのぼった。質問のテーマはおもにソ連の軍事、戦略面にしぼりこむよう努めた。政治よりむしろ軍事面により多くの光をあてたのは、前述のように軍事の方が形としてつかみやすいことが第一である。第二には、われわれが「ソ連の脅威」といった場合、まず問題となるのは軍事力だから、という単純な理由からである。

 インタビューの相手の官僚のなかには、発言内容はすべて公表しても名前だけは伏せる、という約束で会見に応じてくれた人たちもあった。名前をイニシアルのみで記してあるのは、そのためである。インタビューの時期は八四年七月から八月にかけて約一カ月だった。欧州各国を歴訪し、私自身がすべて直接、英語でインタビューした。

 ここで紹介する人のほとんどは、ソ連の動きについてなまの情報をなんらかの形で得ている専門家である。ソ連を実際に学問あるいは実務の対象として研究し、知っている人たちである。

 その意味で彼らが語るのは、単にソ連をどう思うか、という次元の印象論ではない。実態はよく知らないがこう感じる、という認識論ではない。ソ連が好きですか嫌いですか、恐いですか恐くないですかという調子のアンケートとは基本的に異なるといえる。

 なお、本書に登場するこれら専門家のうち、おもな人物は、次の通りである。

〔スウェーデン〕
インゲマル・ドルフェル 「国家防衛研究所」主任研究員
デビッド・バートン 「ストックホルム国際平和研究所」(SIPRI)研究員
トーマス・ハート 「スウェーデン国際問題研究所」主任研究員
ミルトン・ライテンバーグ 同研究所主任研究員
ドラガン・ヨビウス ソ連諜報戦略研究家
〔オランダ〕
J・M・ビック 「NRCハンデルスブラッド」紙政治評論員(核問題専門)
G・C・ベルクホフ 「オランダ国際関係研究所」主任研究員
L・ホーゲンブリンク IKV(反核団体)幹部
〔フランス〕
ドミニク・モイシー 「フランス国際関係研究所」副所長
ミッシェル・タテュ 「ル・モンド」紙論説委員
フランソワー・デローズ 元駐NATOフランス大使
〔イギリス〕
リチャード・ルース 外務次官(外務担当国務大臣)
ロバート・オニール 「国際戦略研究所」所長
J・アルフォード 同研究所副所長
フィル・ウィリアムス 「王立国際問題研究所」主任研究員
〔西ドイツ〕
エーベルハルト・シュルツ 「ドイツ外交政策協会」副会長
ハンス・ペーター・タンデッキ 国防省軍政局長
クラウス・リッテル 「国際問題研究所」所長
ウーベ・ネウリッヒ 同研究所主任研究員
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