なぜソ連が潜水艦でのスウェーデン領海侵入を執拗につづけるのか。スウェーデンの超党派の調査委員会は八三年に発表した報告書のなかで、いくつかの説を打ち出している。
第一は軍事情報収集である。
バルト海はソ連海軍バルト艦隊の拠点である。そのバルト海の西北におおいかぶさるようにスウェーデンの長い海岸線が延びている。中立国とはいえスウェーデンの軍事動向は、ソ連のバルト艦隊に重大な影響を及ぼす。バルト艦隊だけでなく、ソ連軍全体にとって戦略の要衝に位置するスウェーデンの動きはくまなくつかんでおく必要がある。だから潜水艦でスウェーデンの内海奥深く、とくに主要軍事基地の周辺に忍びこんで情報を集める、というわけだ。
第二は新しい軍事作戦計画のテストである。
潜水艦侵入のパターンをみると、ソ連は一定の軍事計画にもとづき新しい作戦の展開を試みているようにみえる。その作戦には新しいテクノロジーの活用をも含む。バルト海だけでなく北欧全域を舞台とする新しい軍事対応の方法を開発中で、その準備の一環として潜水艦を他国の領海内にもぐりこませている。