『きょうも、せんべろ 千円で酔える酒場の旅』
[著]さくらいよしえ
[著] 河井克夫
[発行]イースト・プレス
「いいせんべろ酒場ってどんな店?」と聞かれることがある。
お酒が1杯300円前後から飲めること(200円前後ならなお上等)、冷やしトマトがちゃんと1個分出てくること(ケチじゃないこと)、大瓶ビールが500円程度なこと(400円台だと最高!)、二日酔いするワルい激安焼酎をつかっていないこと。
それに大きなチェーン店みたいに、マニュアル作業になっていないこと。安いぞ!って全面的にうたっているけど、料理をしている音や匂い、つくってる人の顔や呼吸、お店がこれまでつむいできた日々のあしあとみたいなものが見えないと、つまらない。
わしは、小さな劇場のようなものを求めて酒場に行く。
そのいちばんわかりやすい記号のひとつが「せんべろ」という値段設定だ。
たったひとつだけ名物の安くてうまい料理があるとかでもいい。
店主の性格で、ついついどんぶり勘定で安くなっちゃってる、とかもますますいい。食べたもの、飲んだものが自己申告制だったりすると、この“信頼関係”を絶対裏切っちゃいけない、と客が全員几帳面になるのもおもしろい。
せんべろ酒場で見つけたいのは、安いだけじゃない、その奥に広がるバックストーリーだ。
アル中で生死を彷徨ったあるじは世間への恩返し(罪ほろぼし)で安価設定にしていたり、老舗の蕎麦屋だけど代々下戸で酒は置かないからアルコールは持ち込み自由にしちゃいましたとか、女性客だけだと入れない立ち飲み屋は、女性の酔態を見たくない、という娘を持つ店主の父親心がそのもとにあったとか。
そんな物語がプカプカ浮遊して発酵している場所に、可笑しみみたいなあったかさを感じるのだ。
沁みる話はせんべろどころかプライスレス。
あなたのハートに届く名店(迷店)が見つかりますように。