私の考えでは、金日成がはじめたとされる北朝鮮のチュチェ思想(主体思想)は、まさしく儒教の考え方の社会主義版である。
その第一は、何よりもその内容が儒教と同じく「自然の頂点に立つ人間中心の世界観」に満ちていることである。
儒教(朱子学)では、古くからの天命思想を受けて、天命とは「天があたえた自然の秩序(規範)=命」のことであるとする。この自然の秩序は、人間を頂点とするさまざまな生き物たちの階層秩序としてあり、人間界の秩序もまたそのようにあるのが天命にかなったことである。その人間界の秩序の頂点にあるのが天子であり、人々はその下に階層や身分や役割をもって序列づけられる──。