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ニューヨークで暮らすということ
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雑学
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1 白人って誰のこと?

『ニューヨークで暮らすということ』
[著]堀川哲 [発行]PHP研究所


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アングロ・サクソンがマジョリティではない

 ニューヨークの街を歩く。この街には世界中の人種が暮らしている。

 アメリカには、毎年、85万人以上の移民が入ってくる。しかし、これは公式の数字であって、膨大な数の不法移民を正確に捉えることは不可能である。普通には、この3倍、250万人ほどの移民が毎年入ってくるとみられている。移民の多くはニューヨーク、ロサンゼルスといった大都会をめざす。そこにはすでに仲間のコミュニティがあるからだ。こういうわけで、いまニューヨークに暮らしている人々の40%は、外国生まれの人間たちである。

 いま私がこれを書いているのは、マンハッタンのアッパー・イースト・サイドの東の端、ヨークビルと呼ばれる地区にあるオンボロ・アパートの一室である(地図参照)。

 アッパー・イースト・サイドは、おおざっぱに言ってミドルあるいはアッパー・ミドルの白人の街である。大学院の学位を持っている住民は30%を超えるという。

 セントラル・パークに近い地域、つまり、マジソン・アベニューやパーク・アベニューあたりは、ニューヨークでも指折りのブルジョア階級の住宅地域だ。古く由緒ある豪華なアパートが林立し、制服に身をかためたガードマンが人の出入りを監視している。玄関口には、リムジンカーが待機し、ボスたちが出てくるのを待っている。黒人のメイドが乳母車を押して、彼らの子供を散歩に出している。彼らのペット、犬のお散歩は、主に東欧系移民の仕事だ。


 こういうところに住んでいる人々は、平日はここで過ごし、週末は郊外の邸宅で過ごす。彼らはほぼ間違いなく、白人であり、一般の人間とは別の世界で生きる。

 この超高級地区を東に歩くと、ミドル階層の地区に入る。住人の多くは白人である。

 しかし、白人とは誰か? これは単純な問題ではない。イタリア人、アイルランド人、そしてユダヤ人は、少し前まで「特別な白人」であった。イタリア人は、その昔、南部では黒人とみなされ、「白人」によってリンチにあったこともある(色のダークなイタリア人も多いのである)。アイルランド人は、かつては公式統計をとる際には、特別なカテゴリーで整理されていた。彼らは「白人」ではなく、「アイルランド人」だったのである。ユダヤ人については言うまでもない。彼らは、いまでも「特別な存在」である。

 「誰が白人であるか」は、ケース・バイ・ケースによって変化する。生物学的な分類ではない。いまでも、南ヨーロッパ出身の人々、ギリシア人やアルバニア人は白人ではないであろうし、また、ポーランド人、ロシア人もそうである。しかし、白人の概念は流動的というか、いい加減なところがあって、こうした人々も、「対アジア人」「対ヒスパニック」との関係では、ときに「白人」となる。しかし、「白人」種族のなかでは「普通の白人」ではない、ということになる(友人のイタリア系アメリカ人に聞いてみると、「イタリア系、アイルランド系、ユダヤ系は、それぞれ違うけどつきあえないことはない。それに、〈対黒人〉ということになれば一致団結してきたよ」と言っていた)。

 同じことは、「ヒスパニック」(Hispanic)というカテゴリーについても言える(最近では、ラティーノ Latino と呼ばれる場合も多いが、ここではヒスパニックという言葉を使用する)。

 ヒスパニックとは誰のことか? 答えは「ラテン・アメリカからきた人々」である。しかし、ラテン・アメリカには様々な人種がいる。白人、黒人、インディオ系、様々な人種のミックスがいる。これらは一括して「ヒスパニック」とされる。しかし、これまたケース・バイ・ケースで、扱いかたは変化する。ヒスパニックの白人は、ヒスパニックの黒人に対してよりも、アメリカの「白人」に対して連帯感を持っているであろう。こういう場合には、「ヒスパニック系ホワイト」と「ヒスパニック系ブラック」あるいは「ダーク・スキン」とが適当に区別され、社会的文脈のなかにはめこまれる。

 もっとも、では「普通の白人」とはなにか、と言えば、これまた答えはそう単純ではない。ステレオタイプ的には、いわゆるワスプ(ホワイト+アングロ・サクソン+プロテスタント)ということになるが、しかし、いざ厳密にアングロ・サクソンをとらえようとすると、境界線はしばしばあいまいとなる。

 T・ソウェルの本からひろえば、アメリカ社会の人種構成は、「白人」関連では、表1のようになっている。


 このデータは1973年と1980年の統計から整理したもので、いまでは変わっているであろうが(いまではドイツ系アメリカ人が最大の人種グループと言われている)、大まかなイメージを作るには参考になる。この表からも、〈ブリティッシュ=アングロ・サクソン〉がマジョリティであるとは言えないことがわかる。それに、人種間結婚は白人の間では普通であるから、ブリティッシュといっても、非ブリティッシュの血が多かれ少なかれ入っている。表1での「ブリティッシュ」とは、調査官に「私はブリティッシュです」と答えた人の数なのである。

 このように「誰が白人であるか」は、すこぶるデリケートな問いである。しかし、ここではこの問題は曖昧にしたまま、話を進めていこう。

ニューヨークの人種構成

 私の近所の住人の多くは白人だ。私にはこまかい区別をつけることはできないので、「白人である」と言うしかない。しかし、この街で働いている人々の人種構成はきわめて多種多様、まさにニューヨーク的である。

 いつもいく仕立屋のおじさんはロシア人だ。いつもロシア語の新聞を読んでいる。近所の新聞スタンドで働いているのは、たいていインド人だ。近くのたばこ屋の兄ちゃんはアラブ人である。スーパーに買い物にいくと、そこで働いているのは黒人かヒスパニックだ。ミドル・クラスの人々のペット犬を散歩させる仕事は東欧系白人のなわばりで、子供のおもりは黒人かヒスパニックの仕事である。私のアパートの管理人はアルバニアからきたアフリムさんだ。角の文房具屋は中国人、タクシーの運転手はインド人、バングラディッシュ人、黒人が多く、白人に会うことはめったにない。このあたりのクリーニング屋や「ネイル」(ツメのケア)は韓国人のなわばりであるが、コインランドリーはヒスパニックのおばさんが仕切っている。ニューヨークの古いアパートでは、どこでも洗濯機の使用は禁止されているので、そこの住人はみなコインランドリーを利用するのである。というのも、配管が信用できないから、水浸しになるのを恐れて、洗濯機を使わせないのである。家賃、月20万円を超えるアパートでもこうである。



 レストラン、テイク・アウトの店となると多種多様。ギリシア、インド、メキシコ、中華、イタリア、ハンガリー、ドイツ、アイリッシュ、スペイン、ベトナムなどのレストランが軒を並べ、ユダヤ人専用のスーパーやレストランもある。このあたりは、ロシア料理やバングラディッシュ、カンボジア、マレーシア、ブラジル、ポーランド料理の店はないようだ。しかし、マンハッタンの別の人種地区にいけば、こういう店が密集している。

 マンハッタンのおとなり、クイーンズ地区をみれば、そこでは世界167の国々からきた人々が生活し、(なんと!)116の異なった言語が話されているのである。

 これがニューヨークという街である。これだけ多種多様な人種とその文化とが出会うとき、なにが発生するか、ニューヨークはその巨大な実験室なのである。

白人は4割にすぎない

 しかし、勘違いしてはいけない。ニューヨークはアメリカという国家のひとつの都市である。アメリカ最大の都市であるが、しかし、ニューヨークのイメージでアメリカを考えると、私たちはアメリカを誤解することになる。

 ニューヨーク市は人口、約800万人、そのうち人種構成は、表2のようになっている。


 ニューヨークの人口800万人のうち488万人(61%)は非白人である。白人は約320万人で、人口の割合は39%というところである。ニューヨークでは白人は5割をはるかに切っている。

 しかも、ニューヨークの「白人」は特殊である。ニューヨークの人口のほぼ14%(114万人)はユダヤ人である(人口の25%をしめた時期もある)。「ニューヨーク」ではなく、「ジューヨーク」(Jew York)と(小声で)呼ばれる理由である。ニューヨークはファッションで有名な街であるが、こういう業界を支配しているのはユダヤ人である。そして、ニューヨークの医者の55%、歯医者の64%、弁護士の65%はユダヤ人であると言われている。

 しかも、ニューヨークにはロシア人(ウクライナ人を含む)、イタリア人、ギリシア人、アルバニア人、ポーランド人、アイルランド人が、アメリカの他の地域に比べると、異常に多い。こうした人々を、表2の「その他、白人」のなかで考えてみれば、ニューヨークには「普通の白人」はきわめて少ないということになる。

 彼らはどこにいるのか?

 ニューヨーク市を離れ、郊外に車を走らせれば、答えは簡単にみつかる。

「普通の白人」は郊外に住む

 ニューヨーク市はニューヨーク州という大きな州のなかのひとつの町である。ニューヨーク州の州都は、ニューヨーク市からかなり遠方の、オルバニー(Albany)という人口10万人ほどの小さな町にある。ニューヨークから上院議員が選出されるときは、「ニューヨーク州選出」であって、「ニューヨーク市選出」ではない。

 ニューヨーク州の人口はざっと1800万人である。そのうち、1400万人(77%)は白人である。この数字にすべてが表現されている。

 ニューヨーク市での白人人口は、ユダヤ人を含めて322万人程度であった。しかし、ニューヨーク州のレベルでみれば、白人は1400万人もいる。つまり、ニューヨーク州では、1000万人を超える圧倒的多数の白人は、ニューヨーク市の外部で暮らしているということである。ニューヨーク市ではマジョリティとは言い難い「普通の白人」は、ニューヨーク州では圧倒的多数派なのである。

 ニューヨーク州は広い。北の端にはナイアガラの滝があり、その向こうはカナダである。ニューヨーク市を出れば、そこには人口10万人以下の小さな町が点在している。「普通の白人」はそういうところに住んでいる。そうした町はどこも、「白人ばかり」の町なのである。


 同じことは、アメリカ全体についても言える。

 アメリカの総人口は約2億7000万人である。人種構成は表3のようになっている(インド人、トルコ人、イラン人もアジア人である。2000年の国勢調査のデータでは、白人比率は少し下がっている。しかし、ここでは2000年調査以前のデータに従う。趨勢(すうせい)をみるには支障はない。以下、同じに処理する。なお、ヒスパニックの一部は白人として二重に計算されているとみられる)。



 これをみてもわかるように、アメリカは「白人国家」なのである。人口の80%は白人なのである。ここを勘違いしてはいけない。彼ら、圧倒的多数派白人は、大都会を離れた郊外、あるいは地方の小さな町で静かに暮らしている。彼らは、人種的・性的・宗教的マイノリティのように声高に叫ぶことはない。黒人やゲイ・ピープルのように、権利の擁護・拡大を叫んで街頭を行進することはない。ニューヨークやハリウッドのインテリや有名人のように、マスメディアを騒がすこともない。彼らは「サイレント・マジョリティ」なのである。

 しかし、実際にアメリカ社会のベースを作り、アメリカ社会の方向を左右しているのは、こうした(静かな)白人たちなのである。ハーバード大の高名な黒人哲学者、C・ウエストに言わせれば、「現在では、アメリカの白人の86%は小都市に住み、そういう町では黒人は町の人口の1%以下である。つまり、この国の将来はそうした地方都市の白人有権者たちの態度にかかっているわけだ」(Cornel West, Race Matters; New York, Vintage Books, 1994, p.8.)

1000万都市はわずか

 もともと、アメリカには、人口100万を超える都会は数少ない。ざっとみると、最大の都会はニューヨークで人口は約800万人、次はロサンゼルスで、350万人、そして、シカゴが280万人、これ以外に100万人クラスの都市といえば、1990年のデータでは、ほかに5つある、というか5つしかない(南部のダラス、ヒューストン、中西部のデトロイト、西部のサン・ディエゴ、東部のフィラデルフィアである)。

 こうした大都会の外部に、人口5万〜10万規模の町が無数にあり、「普通の白人」たちは主にそうしたコミュニティで暮らしている。

 参考までに、ニューヨーク以外の大都会での人種構成を表4に示しておこう。大都会では、白人が住民の半数以下であることがわかるであろう。


共和党、民主党支持者の違い

 去年(2000年)は選挙の年であった。ニューヨーク州では、民主党からヒラリーさんが立候補した。ニューヨーク市は圧倒的に民主党が強い。大統領候補のブッシュさんも、選挙運動中、ニューヨークには一度もこなかったし、テレビでのコマーシャルも流さなかった。「ニューヨークでカネつぎ込んで、選挙運動しても無駄である、あそこではゴアに勝てるわけない」というわけである。そして、ゴア陣営もニューヨークではまったく選挙運動なしである。なにもしなくても勝てる地区、なのである。一般に、東部は民主党が強いのだ。

 しかし、上院議員選挙となると話は別である。郊外の白人は、こういうときは、ニューヨーク市の人々とは同じようには動かないのだ。

 ヒラリーさんがニューヨーク市で圧勝することは、最初から誰もが知っていた。黒人は絶対的に民主党に忠実であるし、ヒスパニック、ユダヤ人、アジア系の圧倒的多数も民主党なのである。マイノリティとユダヤ人の街では、勝利は間違いないのである。

 問題は、ニューヨーク市以外の郊外都市、小都市に住む人々である。ここは、伝統的に共和党が強い。こういう「普通の白人」は、ニューヨークの白人とは違って、相対的には保守的で、日曜にはまじめに教会に集い、中絶や同性愛を肯定するニューヨークの白人インテリを嫌悪し、マイノリティのご機嫌をとるリベラリストに懐疑的な人々がけっこういるのである。

 ヒラリーさんの対抗馬はラジオさんという若い白人で、彼はニューヨーク郊外の白人票をベースに奮戦したのであったが、やはり知名度において劣り、かつまた、郊外白人のうち女性票の多くがヒラリーさんに流れ、敗北したのであった。

 ニューヨーク州知事は共和党のパタキさんであり、また、いまのニューヨーク市長も共和党のジュリアーニさんである。ジュリアーニになる前は、ニューヨーク市長は民主党の縄張りであった。しかし、ニューヨーク市長を選ぶとき、ニューヨーク市民が考えることは、政治的イデオロギーではない。治安である。普通に、レイプや強盗殺人にあうことなく、街を歩けるかどうか、が決定的な選択項目となる。ジュリアーニさんはこの希望に答えたから、民主党候補者を粉砕したのである。これについては、またあとでふれる。

ブッシュに投票したのはどういう人?

 さて、今回の大統領選挙で、どういう人々がゴアとブッシュに投票したのか、それを示すデータとして表5がある。参考までに、示しておく。


 所得階層別では、年収5万ドルを境にはっきりと分かれる。5万ドル以下の層では、ゴアが優勢であり、それ以上ではブッシュである。これは当然であろう。しかし、たとえば、年収1万5000ドル以下(超貧困層)でも、ゴア支持が57%であるのに対して、ブッシュ支持も37%ある。また、年収10万ドル以上の階層でも、ブッシュ支持が54%であるが、ゴア支持も42%ある。リッチなユダヤ人はかならずしも共和党を支持するわけではないし、中西部の貧乏な白人は、かならずしも、民主党を選ぶわけでもない。

 既婚・未婚の区別でみれば、既婚者はブッシュ支持が優勢であり(ブッシュ53%、ゴア44%)、未婚者はゴアに流れる傾向がある(ブッシュ38%、ゴア57%)。但し、未婚者=若い人、というわけでもない。ニューヨークのような大都会では、(カップルであっても)「結婚しない女性・男性」が多い。

 年齢別でみれば、18歳から59歳の層では、ブッシュ・ゴアは互角であり、顕著な差異はない。若者は民主党というわけではない。ただ、60歳以上層では、ブッシュ47%であるのに対して、ゴアは51%となり、少し違いが出る。

 男性・女性別では、男性の53%はブッシュであり、女性の54%はゴアである。

 ユニオンに所属する人は、圧倒的にゴア。銃を所有する人はブッシュ派である。


 おおざっぱにみれば、「白人・男性・プロテスタント」は(どちらかと言えば)共和党的である。ニューヨークなど、アメリカの大都会の外側に暮らしているのはこういう人々である。


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