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京都府立医大のがん「温熱・免疫療法」
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なぜ「温熱・免疫療法」なのか

『京都府立医大のがん「温熱・免疫療法」』
[著]吉川敏一 [発行]PHP研究所


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がん標準治療の限界を打破する療法


 温熱療法や免疫療法が、今なぜがん治療に必要とされているのか。それは、がん治療の現状をみれば、明らかです。

 ここ十数年の間に、がんの治療は(いちじる)しい進歩をみせています。放射線はよりがんに集中して照射できるようになり、これまであまり効果が期待できなかったがんにも、効果のある抗がん剤が開発されています。分子レベルでがん細胞を狙い撃ちする分子標的治療薬の登場も画期的でした。手術も神経を温存したり、腹腔鏡(ふくくうきよう)などを使ったりして、より患者さんに負担の少ない方法で行えるようになりました。

 その結果、たとえば胃がんはこの20年の間に、5年生存率がおよそ2倍にも伸びています。早期発見が増えていることも一因ですが、がん治療の進歩が大きく貢献していることは間違いありません。

 しかし、それでもなお2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで命を落とすのが、今の日本の実情です。確かに、治るがんはよりよい形で治るようになりましたが、進行した段階で見つかったがんに関しては、残念ながら「20年前に治せなかったがんは、今も治せない」というのが、正直なところなのです。再発を繰り返したがんも同じです。つまり、手術・化学療法・放射線療法という、現在のがん治療の三本柱では限界があることがはっきりしています。

 こうした状況を何とか打破したい、治る人はより確実に治し、転移や再発を防ぎ、進行がんの治療効果をより高めたい。そう考えて、私たちが注目したのが、温熱療法と免疫療法だったのです。

京都府立医大の「温熱・免疫療法」とは


 がんの温熱療法や免疫療法といっても、一般にはまだあまり正確な情報が伝わっていません。医師の中にさえ、岩盤浴や湯治(とうじ)を温熱療法だと思っている人もいるくらいですから、一般の人に誤解があっても当然です。

 がんの温熱療法は、電磁波を使ってがんの病巣を4243度に加温する治療法です。がん細胞が熱に弱いことは昔から経験的に知られていました。がん患者が、感染症などで生死の境をさまようほど高熱を出した後、がんが治ることがあったからです。医学的には、放射線療法の効果を高めることがわかり、最初は放射線療法の補助(増感療法)として利用されるようになりました。

 私たち京都府立医大消化器内科では、20年以上前から温熱療法の研究に取り組んできました。内科医ですから、温熱療法によって抗がん剤などの治療効果を高められないかと考えたのです。その当時から、温熱療法がなぜ放射線療法や抗がん剤の効果を高めるのか、がんに効果があるのか、研究されてはいたのですが、その多彩な作用がわかってきたのは最近のことです。

 温熱療法は、単に熱でがん細胞を攻撃するだけではなく、血流を高めてより多くの抗がん剤ががん細胞に到達するようにしたり、熱によって生まれたヒート・ショック・プロテインというタンパクが、抗がん剤の効果を高めたりすることがわかったのです。こうした温熱療法の作用は、本書の中で詳しく説明しています。

 さらに、私たちが注目したのは、温熱療法が免疫の作用も高めることでした。免疫とは、体内に侵入した病原菌などの外敵を駆逐(くちく)し、体を病気から守る防衛システムです。がん細胞も異物として免疫細胞に認識され、免疫細胞の攻撃を受けます。ところが、がん細胞はもともとその人の体内にある細胞が変化したものです。その上、がん細胞に変貌すると、免疫細胞の目を逃れる手段を身につけるようになっていきます。そのため、うまく攻撃を逃れて、がん細胞は成長していくのです。

 ところが、温熱療法は免疫細胞ががんを異物として認識しやすくするのです。つまり、免疫細胞ががんを攻撃しやすくするのです。

 それならば、温熱療法と一緒に免疫の働きを高める免疫療法を行えば、よりがんの治療効果を上げられるはずです。

 こうして世界でも初めて、京都府立医大の私たちのグループは、標準治療に加えて温熱療法と免疫療法を併用するがんの治療法を考案したのです。

 ここで、大切なのは次の2点です。

 ひとつは、標準治療と併用することです。標準治療は、がん治療の基本です。何千人という患者さんが参加して行う臨床試験の結果、現状で最もがんに効果があると科学的に立証された治療法が標準治療です。「温熱・免疫療法」は、この標準治療と併用してその効果を強力に高める治療法です。標準治療を受けないで、「温熱・免疫療法」を受けても、意味はありません。

 もうひとつは、温熱療法も免疫療法も体に負担が少なく、ほとんど副作用の心配のない治療法である、という点です。温熱療法は、本書でお話する通り、電極板で体を上下からはさみ、電磁波によってがんの病巣を4243度に加温します。

 一方、免疫療法には、手術で摘出したがん細胞をワクチンに加工して体内に注射し、免疫細胞に攻撃するべき敵として認識させる「自家がんワクチン療法」や、血液からリンパ球を取り出して培養し、敵を攻撃する兵士に育てあげて体内に戻す「LAK療法」などがあります。

 こうした免疫療法は、すでに何十年も前から研究されてきた方法です。つまり、全く新しい治療法ではなく、手法もある程度確立されているのです。

 したがって、温熱療法と免疫療法を標準治療に併用した場合、プラスの効果はあっても、マイナスになることはひとつもないのです。

 すでに、抗がん剤による治療に耐えられるだけの体力がなくなった人にも行える体にやさしい治療法です。これが、私たちが積極的にがん治療に、「温熱・免疫療法」を併用している大きな理由でもあります。

 そして、「温熱・免疫療法」を併用することで、現在の医療の常識では考えられないような効果が得られているのです。

常識では考えられない効果が続々


 30年近く基礎研究を重ねた上で、私たちは6年ほど前から古倉聡准教授を中心に、京都府立医大とその関連病院である、たけだ免疫・遺伝子クリニックや医聖会百万遍(ひやくまんべん)クリニックで「温熱・免疫療法」を開始しました。すでに免疫療法だけでも、8000回以上実施していますが、その効果は予想を上回るものでした。

 たとえば、C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変をベースに起こる肝臓がんは、がんを切除してもほとんどの人が再発してしまいます。今は、ラジオ波焼灼(はしようしやく)療法やエタノール注入療法によって、再発のたびにがんを潰すのですが、やがてがんは多発し、こうした治療ではコントロールできなくなっていきます。

 ところが、再発しては治療を繰り返していた人が、自家がんワクチン療法を行ってからピタリと再発が治まっているのです。肝臓がんで、再発のたびにラジオ波焼灼療法を繰り返していた10代の女性も、自家がんワクチン療法を行って以来、再発しなくなり3年が過ぎました。



 海外のデータでは、2年にわたる追跡調査の結果、自家がんワクチン療法を行うと肝臓がんの再発率が81%も低下することがわかったのです。

 膵臓(すいぞう)がんも治療の難しいがんのひとつです。ある50代の男性は、二期(2センチ以上で膵臓に限局したがん。リンパ節転移はないか、あっても近くのリンパ節のみ)の膵臓がんで手術を受けたのですが、がんの進行度でいうと二期の5年生存率が36%足らずであると知り、「温熱・免疫療法」を求めて私たちの病院を受診されました。そこで、「ジェムザール」という抗がん剤による再発予防治療と並行して、温熱療法を実施。この人も手術から現在まで再発をしていません。ジェムザールは、温熱療法と相性がよく、併用すると抗がん剤単独よりはるかに生存期間が延びることがわかりました。

 腹膜(ふくまく)にがん細胞が散らばる腹膜播種(はしゆ)は、がんの末期状態です。60代のある女性は、胃がんの手術で腹膜播種が見つかりました。胃がんは切除しましたが、腹膜播種があるので、一般的には余命数カ月というところです。そこで、飲み薬(経口抗がん剤)を使いながら、免疫療法を実施しました。それから1年半、画像診断では何と腹膜播種が消えてしまったのです。この女性は、手術から3年になりますが、今も再発はなく、以前と同じような生活を送り、娘さんと旅行にも出かけている、とお手紙をいただいています。これらは、これまでの現代医療の常識では考えられない出来事です。

温熱療法に加え、強力な効果をもつ免疫療法が登場


 これは、私たちが経験した患者さんのほんの一部の例です。「温熱・免疫療法」を行っていると、こうした医学の常識では考えられないような例や、奇跡的な回復をみせる患者さんが続々と現れるのです。

 これまで温熱療法や免疫療法には、あまり科学的なデータがありませんでした。それが民間療法などと誤解される原因でもあったのですが、古倉聡准教授をはじめ、京都府立医大の研究者や多くのスタッフの力で、ようやくデータも集まってきました。

 中でも特筆すべきことは、最近がんと戦う強力なリンパ球(ナイーブT細胞)を増殖する方法が見つかったことです。

 このリンパ球を使った免疫療法の安全性をみるための臨床試験で、進行がんの患者さん9人中、1人でがんが消滅、1人はがんが縮小しました。標準治療が効かなくなった進行がん患者を対象とした試験で、7割近くがんの勢いをコントロールできるという驚異的な効果が示されたのです。

 まだ研究は始まったばかりですが「温熱・免疫療法」の併用によって、標準治療の効果が著しく高まることを示す新たなデータです。この結果に自信を深めたことも本書を執筆するきっかけとなりました。

 多くのがん患者さんに私たちの研究成果を知っていただき、それを一刻も早く今受けている治療に生かしていただきたい、というのが研究者として、また医者としての私たちの心からの願いです。

 治るがんはより確実に治し、治療後の転移や再発を防ぎ、進行がんは標準治療の効果を高めて完治にもっていく。もう有効な治療法がないと言われた人でも、副作用の心配をしないでQOL(Quality of Life = 生活の質)を高める。それが「温熱・免疫療法」の目指すところなのです。

 そのために、私たち京都府立医大のグループは一丸となって努力を重ねています。本書にその成果の全貌をまとめていますので、「温熱・免疫療法」に関する正しい情報を得て、一人でも多くの患者さんががんを克服されることを願ってやみません。
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