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(2021/11/26 追記)

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日本語の建築 空間にひらがなの流動感を生む
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政治・社会
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はじめに

『日本語の建築 空間にひらがなの流動感を生む』
[著]伊東豊雄 [発行]PHP研究所


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 壁、壁、壁……。前を向いても後ろを振り返っても、右も左も壁ばかり。渡る世間は壁ばかりです。


 壁は本来、人を守ってくれるために発明されたはずなのに、今や壁は人の前に立ちはだかって、自由な活動を妨げる厄介な存在になってしまいました。しかもどの壁も厚くて堅固、少しばかり押しても引いても身動きしない壁ばかりです。


 たとえば、いちばん具体的でわかりやすい壁は津波に襲われた町につくられている防潮堤。高くて強大な壁です。この壁によってわざわざ海辺を選んで暮らしてきた人が海を見られなくなってしまう。こんな矛盾があるでしょうか。いくら海辺で海を見ながら暮らしたいと思っても、「安全・安心」のためだから、と言われてしまうと(なん)(ぴと)もそれに逆らうことはできない。手も足も出せなくなってしまうのです。


 巨大な防潮堤を成立させている「安全・安心」という壁こそが、じつは最も堅固な壁なのです。しかもこの壁は必ずしも目に見えないけれども我々の周りの至るところに立ちはだかっています。なぜなら「安全・安心」の壁は「管理」という壁と同義語だからです。お(かみ)が自分の管理責任を問われる時に、必ずもち出してくるのが人々の「安全・安心」のために、という切り札なのです。



 最近、我が国では「個人番号(マイナンバー)」制度が実施されました。老若男女や顔つきや性格の違いもまったく関係なく、ただこの数字で一人ひとりが識別される、管理者にとってこれ程便利な制度はないでしょう。


 しかも東京二三区では二軒に一軒は一人暮らしです。このような単身者の大半はワンルームのアパートやマンションで生活していることを考えると、個別の番号を備えた人が、それぞれ仕切られたボックスを一つずつ与えられて生きている、というわけです。その様子は均質な仕切りで飼育されている鶏小屋を想像させます。そういえば、大都市で一人暮らしをしている若者たちは個性に乏しく、皆、均質な表情になってしまったと言われますが、それも管理された社会の必然的な成り行きでしょうか。


 被災地や仮設住宅や災害公営住宅に共通しているのも均質な箱。プライバシーという壁がお年寄りの孤独死を高めているのも当然と言えば当然でしょう。

「安全・安心」という大義のもとで人を守ってくれるはずの壁が、人と人を隔て、人を孤独に陥れているとすれば、こんな壁は大問題で、障壁でしかありません。



 私はこのような「壁」を壊すことを目指して建築をつくってきました。壁を建てるのが建築家の仕事ではないか、と言われそうですが、まったく逆です。では建築をつくりながら壁を壊す、あるいは除去するためにはどんなことが可能でしょうか。


 端的に言えば、それは物理的な壁を外す、あるいは変形することによって、管理という壁から少しでも逃れられるようにすることです。


 たとえば後述する「せんだいメディアテーク」の「チューブ」や「みんなの森 ぎふメディアコスモス」の「グローブ」などは、壁によって空間を区切ってしまうのではなく、空間の連続性を保ちながら、空間に場所の違いを生み出します。壁を立てない、すなわち、区切られた部屋を極力つくらないことによって、自然の中にいるかのように、人は自由を感じ、人と人とを緩やかに結びつけるのです。


 もちろん建築をつくることによって、現代社会の強大な壁をぶっ壊すことなんて到底不可能です。しかし壁に代わるものを発見したり、壁の断片を曲げてすり抜けられるようにすることによって、壁の働きを緩めることはできるのです。少しでも人と自然、人と人とを隔てる壁を少なくして人々に居心地の良い場所を提供すること、そして管理の壁に囲まれた息苦しい現代社会のなかで生きる人々がささやかな自由を感じられる場所を生み出すこと、そんな思いを胸に私は日々建築に取り組んでいるのです。建築によって、ささやかながら人々の自由を回復することは可能に思われます。

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