読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン

犬耳書店はRenta!へ統合いたします

(2021/9/29 UP)

犬耳書店は、姉妹店のRenta!(レンタ)へ統合いたします。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

0
-2
kiji
0
0
1168009
0
2022年、「働き方」はこうなる
2
0
0
0
0
0
0
ビジネス
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
第1章 日本の職場が激変する

『2022年、「働き方」はこうなる』
[著]磯山友幸 [発行]PHP研究所


読了目安時間:1時間0分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


1 「働き方改革」元年

未曾有の人手不足

「働き方」を変えなければ、会社も、社員も、もうもたない。少子化で「働き手」が目に見えて減少し始めた一方、円安で業績が上向いた企業がこぞって採用に乗り出したことで、未曾有の「人手不足」に直面している。国民の大半は「まだまだ好景気とは言えない」と感じているが、求職者一人に何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は何とバブル期の水準を超えた。完全失業率も三%を割り込み、世界的に見れば「完全雇用」といっていい水準だ。二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、この人手不足は深刻さを増すことになるだろう。


 そんな世界的に例を見ないほどの人手不足が、日本人の働き方を根本から変えようとしている。


 二〇一六年九月三十日、東京の三田労働基準監督署は前年十二月に自殺した大手広告代理店「電通」の女性新入社員、高橋まつりさんの自殺原因が長時間の過重労働によるものだったとして労災認定した。労基署が認定した高橋さんの一カ月の時間外労働は約百五時間にのぼった。


 この事件は人々の強い怒りを買った。ネット上に批判の声があふれ、メディアも連日報道した。電通に広告を依存するテレビや新聞も、「大手広告代理店」と遠慮して書くのではなく、「電通」と社名を挙げて報道した。それぐらい世の中の電通に対する批判が強かったということだ。


 もちろん、過労死や過労自殺は電通に限った話ではない。厚生労働省が二〇一六年度に「脳・心臓疾患による死亡」で労災認定したのは百七件(一五年度は九十六件)、自殺(自殺未遂含む)での労災認定は八十四件(一五年度九十三件)となっている。


 電通の事件に世の中が過敏に反応したのは、「電通は氷山の一角」「高橋さんの自殺は他人事ではない」と感じる人が多かったからに違いない。


改革を後押しした電通事件


 加えて、「安倍晋三首相は本気なのか」という国民の目もあった。というのも、政府が「働き方改革」を声高に叫び始めた時期と重なったからだ。安倍首相は二〇一六年八月の内閣改造で「一億総活躍担当」だった加藤勝信大臣に「働き方改革担当」の肩書を付け加え、九月二十七日には自らが議長となる「働き方改革実現会議」の初会合を開いたばかりだった。


 安倍内閣は前年、二〇一五年の内閣改造で「一億総活躍」を掲げていた。息切れが指摘されていたアベノミクスの第二弾として、高齢者や女性の雇用促進に焦点を当てたのである。この時、入閣した加藤勝信氏に「一億総活躍担当」という名称を冠したが、突然打ち出されたキャッチフレーズに国民の反応はいまひとつだった。ところが、その後の議論の過程で「働き方改革」という言葉が頻繁に使われるようになると、国民の反応は違ってきた。「働き方改革」を、より身近な問題と捉える人が多かったからだろう。


 二〇一六年八月の内閣改造の目玉に「働き方改革」を据えた安倍内閣にとって、電通事件への対応は非常に厄介な問題だった。自民党は電通と親密な関係にあったからだ。塩崎恭久厚生労働大臣のもとへは、自民党のベテラン議員らから、「そこそこで矛を収めてくれ」といった声が寄せられていた。だが、安倍首相からすれば、甘い対応でお茶を濁せば、電通への怒りが政府に向き、政権の命取りになりかねない。


 強い世論の声と、そうした安倍首相官邸の姿勢もあって、厚生労働省は十一月に電通本社に強制捜査に入った。追い詰められた電通は十二月二十八日に石井直社長が辞任の意向を表明するが、塩崎厚労相は年明けの記者会見で「社長が辞めれば済む問題ではない」として、徹底的に追及する姿勢を改めて示した。働き方改革に逆行する企業は許さない──これまでにない強い政府の姿勢を企業は思い知らされることになった。


 バブル崩壊から二十年の間、日本企業の多くは「縮小均衡」を続けてきた。リストラや経費節減に長け、コンプライアンスを重んじる人たちが重用され、経営者に抜擢されていく時代だった。リスクを取ってでも会社の事業を拡大させようという野心のある人材は、逆に出世の路を断たれ、社内で腐って潰れていくか、退職して起業するかに追い込まれた。


 そんな時代だから、かつて余剰人員を抱えているといわれた大企業も「スリム」になっていった。特にバブル崩壊後に採用を絞ったために、今は事業を担う中堅社員が物理的に少ない会社が多い。「失われた二十年」の間、社員数を絞りに絞ったところへ、アベノミクスで景気が底入れし、仕事が増えたのだから社員はたまらない。増える仕事を少ない人数でこなす長時間残業当たり前の職場が全国いたるところに出現した。多くの会社で「今まで通りの働き方」では社員がもたないギリギリのところまで来ている。


早く動いた人が勝つ


 そんな急速な人手不足は、「自ら動いた方が勝つ」時代の到来でもある。


 企業は慢性的な人手不足に加え、将来にわたって人材を確保できる展望が描けないことから、新卒一括採用だけでは足らず、中途採用の拡大を一層進めていくことになる。逆にいえば、優秀な社員ほど、自ら積極的に動けば有利な転職ができる。そんな時代になりつつあるのだ。もちろん、猛烈に残業させられる伝統的な働き方の企業からは、どんどん人が逃げ出すことになる。


 一方、企業経営者も優秀な人材を集めようと思えば、待遇を改善しなければ難しい。今いる優秀な社員をつなぎとめるにも、処遇改善は不可欠だ。もちろん限られた人材の獲得合戦なので、同じ業界なら早く経営者が動いた企業が「勝ち」だ。


 ただ給料を引き上げるだけでは人件費が増えるだけで、経営にはマイナスになってしまう。考える経営者ならば、無駄な仕事を省き、収益性の高い事業へ人材を集中させることで、利益を上げようとするだろう。つまり、根本的に働き方を変える方向へと動き始めるのだ。


 こうした環境の中で、「自ら動かなかった」場合には、真逆の結果をもたらすことになる。


 働き方を変えずに放置した結果、優秀な人材が勤務時間の長さに辟易して他社へ転職したとする。そうなれば、当然、残った人の負担は増え、ますます残業時間が長くなる。ある一点を超えた段階で、続々と人が辞め、その会社の事業が滞ることになる。実際に大手から中堅中小まで、こうした事態が静かに進行している。体力のない企業の間では、「人手不足倒産」が増えることになるだろう。


 働く社員の立場から見ても同じ事がいえる。さっさと動いて、企業を見限らなかったために、仕事がさらに厳しくなり、ストレスも溜まる。多少残業代が増えたとしても、満足度は上がらないだろう。


 働き方を根本から変えるという決断を経営者が下した場合、企業経営のあり方も根本から変わることになる。利益率の高い事業に特化し、不採算事業や競合他社の多い事業は売却したり廃止したりする。欧米では当たり前に行われている経営スタイルだ。株主資本に対する利益率を見る「ROE」を重視する経営が再び注目されることになるだろう。


 実は安倍内閣はアベノミクスの柱のひとつとして、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化を進めてきた。その目的は「日本企業に稼ぐ力を取り戻させる」ことで、ROEを欧米企業並みに引き上げるとしていた。


 働き方改革を実現するには、もっと企業に儲ける経営をしてもらわなければならない。その点で、安倍内閣が掲げる「ガバナンス改革」と「働き方改革」の方向性は整合的なのだ。


人手不足で倒産する時代が来る


 二〇一七年四月、遂に「人手不足」がバブル期を上回る水準にまで達した。厚生労働省が五月三十日に発表した四月の有効求人倍率(季節調整値)は一・四八倍と、前の月に比べて〇・〇三ポイント上昇。バブル期のピークを上回り、一九七四年二月以来、四十三年二カ月ぶりの高水準を記録した。その後も有効求人倍率が上昇したことはすでに触れた。


 人手不足は東京などに限らず全国に及んだ。十三カ月連続で、全都道府県で有効求人倍率が一倍を上回ったのだ。運輸業や建築業など慢性的な人手不足業種だけでなく、製造業や小売業、医療介護など幅広い分野で求人が増えている。


 職業別に有効求人倍率を見ると、専門的・技術的職業の中で「建築・土木・測量技術者」が四・四一倍と高いほか、「建設・採掘の職業」では「建設躯体工事」が八・三五倍、「建設」が三・七二倍、「土木」が三・一〇倍などとなっており、工事現場での人手不足が引き続き深刻であることを示した。このほかの業種でも、「サービス」が二・九三倍、「保安」が六・三四倍、「自動車運転」が二・五三倍などとなっている。


 同じ日に総務省が発表した四月の労働力調査でも、完全失業率が三カ月連続で二・八%となるなど、失業率でみてもバブル期並みの低さを維持した。労働力調査によると、就業者数は六千五百万人と一年前に比べて八十万人増加、企業に雇われている雇用者数も五千七百五十七万人と、前年同月に比べて五十七万人増えた。前年同月比での増加は、就業者数、雇用者数とも、安倍晋三内閣発足直後の二〇一三年一月から五十二カ月連続。アベノミクスの開始以来、雇用情勢の好転が続いていることになる。


 有効求人倍率がバブル期超えとなった背景には、当然のことながら働き手の数自体が減少傾向にあることがある。求人に比べて仕事を探している求職者の数がなかなか増えないわけだ。もっとも、就業者数全体の数は二〇一〇年五月の六千二百八十一万人を底に増加傾向が続いており、二〇一七年六月には六千五百八十三万人と、ピークだった一九九八年一月の六千五百六十万人を上回った。


 定年の延長など働く高齢者が増えたことや、女性の参画が活発になったことが背景にある。安倍内閣も「女性活躍の促進」や「一億総活躍社会」といったスローガンを掲げ、働く人材の確保に力を入れていることが大きい。


 東京商工リサーチによると、二〇一六年度(二〇一六年四月~二〇一七年三月)の「人手不足」関連倒産は三百十件(前年度三百二十一件)だった。代表者の死亡などによる「後継者難」型が二百六十八件(前年度二百八十七件)と大半を占めたが、「求人難」による倒産も二十四件と前年度の十九件から増加した。


 さらに、人件費高騰による負担増をきっかけに資金繰りが悪化して倒産する「人件費高騰」関連倒産も、十八件(前年度二十五件)にのぼった。


 まだ、人手不足倒産が急増しているわけではないが、東京商工リサーチでも「景気の緩やかな回復の動きに合わせて人手不足感が高まっているなかで『求人難』型(倒産)の推移が注目される」としていた。


 人が確保できないために会社が倒産する、そんな時代がやって来るというわけだ。


2 いま職場で起きていること

長時間労働から「逃げ場」を失う


 入社一年目の電通の女性社員が過労自殺した事件は社会に大きなショックを与えた。過去にも同様の例があったとして、電通という会社の「体質」を問題視する声も上がった一方で、伝統的な日本企業の「働き方」が問題の根底にあるという指摘も根強い。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:25358文字/本文:29860文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次