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(2021/11/26 追記)

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出でよベンチャー! 平成の龍馬!
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ビジネス
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プロローグ――蛟龍の深淵に潜むは昇らんがため

『出でよベンチャー! 平成の龍馬!』
[著]蓑宮武夫 [発行]PHP研究所


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 ここに興味深い統計データがある。二〇一〇年中における日本企業の新規株式上場会社は二十六社のみで(二〇〇〇年には二百四社の新規上場会社があった)、中国企業の四百六十五社を大きく下回った。これほどの大差がついた原因がどこにあるかと問えば、いろいろな答えが考えられるのは間違いないとしても、技術力の差でないことだけは確かである。技術力ではまだ日本は世界の最先端をいっている。

 ここが大事な点で、ネアカな人はこういうだろう。
蛟龍(こうりよう)深淵(しんえん)(ひそ)むは(のぼ)らんがため、ものづくりニッポンは必ず復活する」

 尺蠖(せきかく)(かが)めるは伸びんがためともいう。尺蠖はいわゆる尺取虫である。伸びるためには縮まなければならない。日本のものづくりのいまがちょうど縮んでいるときで、あとは文字通りの意味だから説明はいらないと思う。

 日本の少起業化現象を微視的に見ていえば、国を滅ぼす前兆であるという論評は間違っていない。かつてのベンチャーはソニーやパナソニック、ホンダなどに成長を遂げてしまい、新しく生まれるベンチャーから第二のソニー、第二のホンダが出るのを待つ段階である。既存の企業はジリ貧気味で雇用を減らすばかりだが、新しく生まれるベンチャーは成長力があるから雇用をどんどん増やしていく。世の中をよくするうえからも少起業化は問題が多い。けれども、巨視的にいうなら、ベンチャーを輩出させる仕掛けをしてやれば、「陽はまた昇る」ということである。

 しからば、仕掛けとは何か。

 新しい産業の創出以外はあり得ない。時代はそのためのベンチャーを求めている。まずは数ではなくて質なのだ。そうした時代の要請に応えることができれば、おのずと少起業化傾向の問題は雲散霧消(うんさんむしよう)する。


 さて。

 蛟龍に引っかけて、わが愛する坂本龍馬を持ち出すならば、土佐藩の下級武士でいるあいだはさすがに龍馬も何もできなかったが、いわゆる深淵に潜んでいるそのあいだに彼はおのれを磨くだけ磨いておいて、脱藩してひとたび天に昇るや、天下を動かす働きをして近代日本の夜明けを演出した。私たちはいまの日本がどういう未来に向かうかをまだ見ていないわけだが、仕掛けを誤らなければ希望はある。陽はまた昇り、必ず道は開ける。

 私が強気になる要因をいくつか挙げてみよう。

 東日本大震災(三・一一)の直後、被災した人たちは救援物資を受け取るときに、そうするのが当たり前のように整然と列をつくって並んだ。外国人旅行者が忘れ物・落とし物をしたとき、交番へ行くと品物が届いている。親切は旅人にするこころ、相手を選ばずといい、そうした資質が国民性として定着していて、だれに対しても思いやり深くあたたかい。

 日本のどこにも犯罪の巣窟(そうくつ)といわれるような危険地帯がなく、隅々(すみずみ)まで治安が行き届いている。

 箱根駅伝で昨年(二〇一二年)十九位に沈んだ日本体育大学が今年は一転、優勝した。このことは、武士道を取り入れることで局面を打開するすべがあることを示した。武士道については別のところで詳しく言及したいと思う。

 日本の自然の美しさを象徴するものに富士山がある。ふもとには里山(さとやま)の四季の美しさ、やすらぎがある。春になれば木々が芽吹き、野の宝石と呼ばれるオオイヌノフグリが咲き、地面が無数の花々で(いろど)られる。夏には緑が深まり、緑陰(りよくいん)という言葉に象徴されるように(いこ)いが生まれ、秋は赤や黄の(にしき)に彩られて、陽だまりの冬へのファンファーレを(かな)でる。こうした豊かな自然の美しさに恵まれて暮らす日本人の情感は「自分で自分自身を(いや)すすべ」を教えてくれるという。


 中小企業は経営的には苦境に立たされているが、技術的には逆に先鋭化の度合いを高めている。米国のゼネラル・エレクトリック(GE)が「ジャパン・テクノロジー・イニシアチブ」というプロジェクトを立ち上げて、確かな技術を持つ日本の中堅・中小企業の情報を取り込んでいこうという試みをスタートさせたことを知っていたなら、「人口が減るので日本の停滞はやむを得ない」といった悲観的な声は出てこないはずである。

 少起業化は顕著だが、個々に見ると、多様化と個性化が同時進行していることに気づく。われわれは「日本はベンチャー不毛の地」というようなコメントを久しく苦々しい思いで聞かされてきたし、冒頭に挙げたような悲観的なデータばかり突きつけられてきたわけであるが、昨年、求人サイトのリブセンス村上太一社長が東証一部上場最年少記録を二十五歳にまで引き下げ、他方では文系畑でリタイアして起業したエリーパワー吉田博一(ひろいち)社長は七十五歳で現役であり、なおかつ大型リチウムイオン蓄電池の量産化に着手し、牽引(けんいん)役を立派に果たしつつある。ソニーのカリスマ的エンジニアとして鳴らした近藤哲二郎さんは、六十歳を過ぎてからアイキューブド研究所を設立してテレビの解像度を高める「4K」技術のトップをひた走るといった具合。若年層のみでなくシニア世代の台頭にも目を向けていかないと、日本のものづくりの未来像を見失うことになるだろう。

 これから実例研究として取り上げる次の個性的なベンチャーのことを知っていただければ、傾向として日本はそういう方向にあるということがよくおわかりいただけると思う。


 実例研究で取り上げた、リチウムイオン二次電池用セパレーター製造大手ダブル・スコープ崔元根(チエウオンクン)社長は五十歳である。本社は日本にあるが、韓国のインフラ優遇措置を活用してグローバルな視点でベンチャーを立ち上げた。


 実例研究築地(つきじ)すし(こう)成田仁孝(よしたか)社長は五十六歳、裸一貫でスタートし、いまでは銀座の明朗会計のトップランナーで、二十二店のオーナーである。崔さんとも共通するのが、社員を大事にしてきたこと、起業に際してエンジェル投資家が大きな役割を果たしたことである。

 起業の流れを太く永続的にするにはリスクマネーの確保が欠かせないのだが、現状は民間のベンチャーキャピタルや個人的なエンジェルにおんぶする格好である。税所篤快(さいしよあつよし)さん(実例研究の場合も、個人的つながりのエンジェルが強く後押しをした。こうした現実は、日本の伝統的な精神的遺産であるが、食い潰すだけではそれさえも失われる恐れがある。
「新しい産業を生み出すために資金を振り向ける」といった発想がいまほど政府に求められているときはない。日本の少起業化傾向を嘆く前に政府の自覚と覚醒を強く促したい。


 実例研究アイキューブドシステムズは、IT企業はいかにスピードで勝負しているか、そのためには先々の見通しの確かさが重要なファクターであることを教えてくれる。この会社の魅力は早くから「クラウド化とスマートデバイスの普及によって、『モバイルファースト』の時代がくる」と見通した佐々木勉社長をビジネスモデルとして、すぐれた経営感覚を持つスタッフがきわめてアナログ的に結びつき、一つになったことにある。

 そういう意味でパターンとしては稀有(けう)な例であり、参考に供するというより二〇一二年度アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン(EOY 2012 Japan)〈チャレンジング・スピリット部門〉大賞受賞で脚光を浴びたごとく話題性にウエイトがある。必要とされる人材が揃い、適材適所に人が収まれば、企業は一気に加速するという好個の事例である。


 実例研究e-Educationプロジェクト税所篤快代表は早稲田大学の学生であるが、貧困のバングラデシュの若者を最難関のダッカ大学に入学させる受験勉強システムを構築した。彼の魅力は行動力とスピードである。こればかりはシニア世代が失って、いまはないものだ。私が彼こそ平成の龍馬とぞっこん惚れ込んだ点でもある。本物を選び抜き、味方に取り込む天性のアプローチ法もまさに幕末の龍馬的で、『日経ビジネス』(日経BP社)が各界から選んだ「次代を創る100人」に選ばれたのも当然という気がする。


 実例研究ビーサイズ八木啓太(けいた)社長は、一人でものづくり企業を立ち上げた格好の例として取り上げた。そして、その起業精神の根底に企業活動を通じて世の中に貢献したいという(こころざし)が脈打っているところに二度惚れ直したことを付け加えておきたい。

 実例研究マザーハウス山口絵理子社長は、中学校時代に非行少女で過ごしたが思い直し慶応義塾大学に進み、ゆえあってバングラデシュの大学院へ。そこでジュート(麻の一種)に出合い、二十四歳で〈途上国から世界に通用するブランドをつくる〉という信念のもと、日本版マザーテレサを実現しようと〈マザーハウス〉を起業し、生産と販売のグローバル化に挑戦している。途上国でビジネスを展開しようとする若者たちのよきアドバイザーとしても活躍、真の平成の女龍馬だ!


 ところで。

 多様化と個性化を同時進行させている以上のようなアントレプレナーたちを少数精鋭と考えれば、少起業化を如実に示すデータがあるからといってあながち悲観するものではないのかもしれない。むしろ、足りないものは「リスクマネーの供給」という多起業化に欠かせない基本的な金融システムづくりであり、そうしたことへの政府の理解と取り組みであろう。

 TNPパートナーズ()雅俊社長は、日本経済のキーワードを「先端技術開発の日本から先端技術実装の日本へ」としたうえで、次のようにいっている。
《技術が実装化されてこそ国の発展につながるのであるが、残念ながら近年、これがうまくできていない。企業の研究開発は三年以内に成果の出る短期志向が主体になり、カネはあるからできあがっている企業の買収には積極的。金融界も短期資金に集中し、流動性、換金性のないものを嫌う。

 ベンチャーキャピタルの投資額は米国の十六分の一程度だ。目指すべき姿は新技術の産業化だ。宝のもちぐされにせず、商品化、製品化し、市場に出す(ドメインを獲得する)手伝いもわれわれベンチャーキャピタルの役割だと思う》

 私は呉社長の「星を見ながら畑を耕す」という言葉が好きだ。ベンチャーは星、つまり夢を見ていないとやっていられないが、やることは愚直に畑を耕し続けること。
『日刊工業新聞』二〇一三年二月五日付社説はいう。
《閉塞感を打破するのは、資本主義の駆動力ともいうべき創造的破壊と、それに果敢に(いど)む若き起業家というのは歴史が示している。わが国の最大の課題はベンチャー企業を創出する起業文化の醸成にある》

 起業文化はあると思う。それが呉社長のいう「星を見ながら畑を耕す」というコンセプトであり、私が考える「種を()くカルチャー、耕すカルチャー」であり、感覚的には「里山文化」である。精神文化としては武士道があるが、それも以上のようなライフスタイルがあってのことだろう。このままではリスクマネーはあるが起業文化のない状態「笛吹けど踊らず」になって救いようがなくなってしまうところだ。そこで私は思うのだが、現状は内臓疾患というほど深刻ではなく、外傷的で、しかもごく軽い怪我(けが)であることを不幸中の幸いと受け止めるべきではないだろうか。


 以上の認識から、私は前川製作所顧問・前川正雄さんの言葉に希望を見出してやまない。
「二十一世紀のハイテクはベテラン技術者のすり合わせからしか生まれない。これからの製造業は日本の独壇場になるよ」

 前川さんは七十歳でスイスのツークに飛び出し、欧米と日本を見つめてきた人である。論理より感覚を重視し、哲学を説き、場とすり合わせてものづくりを試み、世界一の製品を生み、無競争状態をつくり出してきて、いま地球温暖化、エネルギー、食糧問題などなど、すべてを追い風にして独走する会社の事実上のトップリーダーである。

 私は、日本をよくするには雇用を増やすことにつながる多起業化が特効薬だと思うがゆえに、前川さんの言葉を素直に信じたい。そして、本書で紹介するアントレプレナーたちが、第二次ベンチャー勃興期の先頭をひた走る姿をこの目で見たいと願ってやまない。

 なお、付け加えるならば、前川さんのいう「非論理のセンス」は呉社長のいう「星を見ながら畑を耕す」文化、私が考える「種を蒔くカルチャー、耕すカルチャー」「里山文化」であり、これらがあっての武士道である。ものづくりの論理が単独で成り立つということはなく、必ずどこかが重なり合い、矛盾する部分はケースバイケースで取捨選択して整合性が保たれてきた。つまり、非論理は論理を超えているわけで、反論理とは違うのである。だから、日本人が持つ非論理のセンスは外国人には真似(まね)るのがむずかしく、どこまでいっても日本優位は揺るがない。

 GEが「ジャパン・テクノロジー・イニシアチブ」プロジェクトを立ち上げて、確かな技術を持つ日本の中堅・中小企業の情報を取り込んでいこうという試みをスタートさせたことは、一見、脅威に感じられるが、賞賛すべきことでこそあれ、日本にとってさほど深刻な事態ではない。むしろ最大の問題は日本人が自らの武器「非論理のセンス」に気づいているかどうかであろう。

 本書では、問題を提起するだけでなく対策にまで踏み込み、結果として「非論理のセンス」とは何かを自分なりに解釈したわけであるが、その意味するところをご理解いただけたなら、苦労の甲斐があったというものである。
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