読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-1
kiji
0
1
1170280
0
「逃げ恥」にみる結婚の経済学(毎日新聞出版)
2
0
8
0
0
0
0
恋愛
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
はじめに 結婚の「解体新書」としての「逃げ恥」から……

『「逃げ恥」にみる結婚の経済学(毎日新聞出版)』
[著者]白河桃子 [著者] 是枝俊悟 [発行]PHP研究所


読了目安時間:11分
この記事が役に立った
8
| |
文字サイズ

「逃げ恥」は結婚を因数分解した


「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」

「ゼクシィ」の2017年のCMを見て、結婚への時代の温度が、またひとつ次のステップに進んだのだと思いました。

「結婚は当たり前じゃない」時代なのです。「婚活」という言葉を山田昌弘中央大学教授がつくり、二人で『「婚活」時代』(ディスカヴァー携書)を出版してから10年。この流れの中で、結婚に対する温度の変化を見ていると、ひとつだけはっきりしていることがあります。未婚の人たちは今「良い結婚はしたい。でも悪い結婚はしたくない」のです(この「良い」「悪い」は人によって何を意味するかは違います。それは後ほど──)。


 だからこそ、結婚を選ぶのか? 選ばないのか? 選ぶならどんな相手がいいのか? その相手とどんな形で人生をシェアしていくのか? 同棲なのか、事実婚なのか? 法的結婚なのか? ワンオペ育児でワンオペ稼ぎなのか? 離婚はどうなのか? 同性なのか男女なのか? 血縁や法律婚ではない家族とは? みんなモヤモヤしています。


 この本は、結婚しろ、結婚はいいよとおすすめする本ではありません。かといって「コスパが悪い」と結婚を否定する本でもありません。もちろん少子化とも全く関係ありませんよ。結婚という言葉にモヤモヤしている人のための本です。


 大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ(以下「逃げ恥」)』を題材として、「結婚」というものを因数分解してみるという試みです。昭和の時代、「結婚」を選択すると「あれもこれもついてきてお得です」というバリューセットのようになっていた。結婚とは、かつては「永久就職」「食いっぱぐれがない」アイテムであり、男性にとっても「大黒柱としての義務つきの居場所」「社会的承認」でもありました。「愛」「セックス」「子ども」「介護」などが「幸せ」という甘いコーティングにくるまれて、まるっとセットでついてきた。しかし今や「結婚したら食いっぱぐれがない」を女性たちは信じていないし、男性は「コスパ」を気にしています。


 結婚にまつわる「愛とお金」の問題は、分けて考えるべきでは? それがみくりの「好きの搾取」というセリフが、あれだけ多くの人に「刺さった」理由でしょう。

「逃げ恥」の主人公みくりは、プロポーズをされたときに、「それは好きの搾取です」という言葉で、多くの女性たちのモヤモヤを可視化した。「愛しているから、無償で尽くしてくれて当たり前ってどうなの?」と。「逃げ恥」は家族内の労働の価値を「見える化」したのです。


 ドラマではみくりの家事の対価は「月19・4万円」。女子大生に聞いたら「就活がうまくいかない子たちが、こんなにもらえるなら、専業主婦でいいと盛り上がっていた」そうです。その19・4万円の妥当性については、この本で是枝さんがしっかり解説してくれます。ほかにもワンオペ育児の代償や、夫婦の年収に基づいたフェアな家事・育児の分担比率なども試算されています。


 お金だけの問題じゃありません。「好き」はどこにいくのか? セックスはどうなるのか? 二人の「契約結婚」という刺激的なワードには、当然「じゃあ愛やセックスは?」という疑問も入ってくるでしょう。若い女性が30代男性の部屋に住み込むのですから、そこはシェアハウス感覚でいいのか? それとも……しかし、もう一人の主役(ひら)(まさ)30代の童貞で、自称「プロの独身」です。そこにこのドラマのもうひとつの魅力、じれったい恋愛模様の「ムズキュン」があります。


百合ちゃんが教えてくれた独身女性のカッコよさ



 キムタクが「ビューティフルライフ」で視聴率30%をたたき出した時代とは違い、ドラマがヒットしない時代にあっても、「逃げ恥」は初回視聴率10・2%から最終回は2倍の20・8%を記録しました。それもドラマを見ないといわれる20代も取り込んだヒットです。ちなみに無料見逃し配信は史上初のミリオンを達成した再生回数だったとか。

「逃げ恥」の最終回の翌日、ちょうど女子大生800人に講演をする機会があったのですが、「『逃げ恥』見てる?」と聞くと3分の2ぐらいの手が挙がり、さらに「じゃあ、昨夜最終回をリアルタイムで見た人」と聞くと、やはりそのうちのほとんどの手が挙がりました。ドラマを見ない、そもそもテレビもない、リアタイ(リアルタイム視聴)をしないといわれる20代女性をこれだけ捉えたのです。


 またドラマのもう一人の主役ともいうべき女性の存在も、ドラマの魅力のひとつでした。それは独身キャリアウーマンで、高齢処女の百合ちゃん(みくりの伯母)です。


 結婚しないのか、できないのか、という議論も、百合ちゃんという女性像の出現で、「どっちでもいいんじゃない」という感じになってきました。迷いながらも自分で「未婚であることを選び続けてきた」百合ちゃんは、カッコいいシングル像をみせてくれました。「逃げ恥座談会」をした女子大生の中には「百合ちゃんがカッコいい。仕事観にも就活にも影響しました」という人がいたほど、存在感ある女性でした。

「結婚できない」と嘆く女性たちに、私はいつも思います。でも、あなたたちには「ハズレの男性と結婚しない自由があるんですよ」と。97%の日本人が結婚していた皆結婚時代が日本には一時期ありました。今の団塊世代ですね。つまり誰かが「DV男」や「だめんず」を引き受けていたわけです。今はそんな人を引き受けなくていい自由があるのです。堂々と独身であることを選び続けている「今」なのです。


「結婚が当たり前じゃない」時代


「ゼクシィ」はいわずとしれた分厚い結婚情報誌。結婚する人の8、9割が読む媒体です。プロポーズを待ちあぐねる女性が「『ゼクシィ』を彼の見えるところに置く」ことは「早くプロポーズしなさいよ」というプレッシャー。「ゼクハラ」と呼ばれています。

「ゼクシィ」が「結婚しなくても幸せになれる」と宣言したのですから、独身主義の人には勝利ともいうべき事件……。しかし、「だからこそ、あえてあなたと結婚したい」と高らかにうたい上げることで、「ゼクシィ」は「マウントをとったな」という感じもある。多様性を認めつつ、より「結婚の希少性」を高めた、うまいCMともいえます。

「結婚」は常に時代とともに、その価値を問われているのです。

『「婚活」時代』がヒットした頃(2008年)、「結婚は生活必需品ではなく嗜好品になった」と言ったら、ずいぶんマスコミにこの言葉が取り上げられました。


 2003年に酒井順子氏の『負け犬の遠吠え』(講談社)、2008年に『「婚活」時代』、そして2013年にジェーン・スー氏の『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)と結婚のマイルストーンともいえる本が出ています。

『負け犬の遠吠え』は、実は「年収が高く自立して生きている女性たち」の自慢と自虐の高度なアイロニーともいうべき本。しかし普通のおじさんまで「30代未婚は負け犬なんだってさ」と話題にしたことで、言葉が一人歩きした。次世代の女性たち(団塊ジュニア世代)が「負け犬になりたくない」と言うのを聞いて驚きました。自立して自由に生きるシングル女性がカッコいい時代はまだまだ来なかった。そして負け犬で「結婚って、誰もができると思っていたけれど、できないこともあるんだ」と知った女性たちは『「婚活」時代』ですぐに動き出しました。男性は、誰も「男性版負け犬」を書いてくれなかったので、ちょっと出遅れました。


生存戦略としての結婚を問う



 婚活という言葉から10年近くたって、「良い結婚はしたいが、悪い結婚はしたくない」という「選良意識」が男女ともにより明確になっています。「当たりの結婚はいいが、ハズレの結婚は絶対にひきたくない」とも言い換えられます。


 明治安田生活福祉研究所の調()では「『理想・条件を下げるくらいなら結婚したくない』未婚アラサーは男性4人に1人・女性5人に1人」となっています。


※明治安田生活福祉研究所「2017年 2534歳の結婚についての意識と実態(男女交際・結婚に関する意識調査より)」


「当たりやハズレ」の基準は人によって違うでしょう。年収、安定、そして「リスク」や「コスパ」もあります。コントロールできる範囲のリスクしか引き受けたくないという人は、未婚という選択が合理的に見えます。パートナーがいれば、より変数が増えるからです。どんな結婚でもすればいいという時代は遠くなりました。前述の調査で「理想・条件を下げてでもとにかく結婚したい」は男女ともに約1割でした。


 そして「生活必需品」→「嗜好品」から、最近は再び「生存戦略として使えるかどうか」、そのあたりも問われています。使える生存戦略なら採用されます。


 恋バナ収集ユニット「桃山商事」の清田隆之さんに聞いたところ、

「女性たちの話を聞いていると、結婚をある種の“生存戦略”として捉えている人も少なくありません。これは桃山商事の恋愛相談で得た実感ですが……ここ2〜3年くらいは、女性たちのお悩みが、生きることへの不安とどこかでつながってしまっている。我々のところに来るのは20代後半から30代半ばの女性です。妊娠のリミット、この先も上がらないであろう賃金、孤独への恐怖、体力の低下……そんな不安要素が背景にあって、それが恋愛の問題をより複雑にしているような感じがあります」


 前述の調査でも、未婚女性に相手男性に対する年収の条件を聞いており、その結果年収が高い女性ほど、高い年収の男性を望む「同類婚志向」がはっきりと見られます。


◎結婚相手に 400 万円以上の年収を希望する割合

本人の年収が200万円以上300万円未満の未婚アラサー女性は、56・5%

本人の年収が400万円以上500万円未満の未婚アラサー女性は、87・0%


◎結婚相手に最低 800 万円以上の年収を希望する未婚アラサー女性の3人に1人は、800万円を下回る男性とは結婚しない



 しかし「選良意識」と、それを叶えられるように見える「婚活ビジネス」のせいで、より「選択」は複雑になっています。生存戦略としての結婚を考えれば考えるほど「相手の選択」というハードルが越えられないのです。

「逃げ恥」のおもしろいところは、「相手の選択」というハードルを越えた先をしっかりデザインするところです。それでは選択した相手と、どんな「協働」をするのか? 本書ではさまざまなパターンの協働を、「経済学」「無償労働」「愛」「セックス」などの観点からも考えていきます。


 そもそも『逃げるは恥だが役に立つ』というドラマタイトルですが、(ひら)(まさ)はこんなことを言っています。

「恥ずかしい逃げ方だったとしても、生き抜くことのほうが大切で、その点においては異論も反論も認めない」(第2話)

「結婚は、生き抜くためのひとつの知恵」


 私はずっと「女性が食いっぱぐれない」ために、外で働いてお金を稼ぐことを提唱してきました。しかし、是枝さんが「家庭での労働」も含めた経済を提唱してくれてハッとしました。「家庭での労働の価値」をまず「見える化」して、価値を認め、自己効力感を高めることから始めたいと。「私なんか」と言う女性が多いのですが、専業主婦・主夫の人も「自分のやっていることはけっこう価値があるんだ」と実感できるでしょう。そこから、過去の役割分担や昭和バイアスにとらわれない新しいシェアや協働の形を考えてほしいと思います。


 生存戦略としてみたら、昭和型の結婚はすでに賞味期限が来ている。でも、新しい時代の、パートナーとの経済や無償労働のシェアとはどんなものなのか? 性別役割分業を超えたところに何があるのか? それとも生き抜くためには「プロの独身」がいいのか? 正解はないのですが、今の時代、一人で生きることよりも、結婚や子どもを持つことを考えるほうが、よりハードルが高いように見えます。自分で行動を起こさない限り何も起きないのですから。


 この本が少しはスッキリしたり、自分で何かを「決める」お役に立てばと思います。


 自分で決めたことは後悔がないのだと、女優の山口智子さんはこう語っています。

「私はずっと、子どもを産んで育てる人生ではない、別の人生を歩んできました。今でも一片の後悔もないで()


※「FRaU」2016年3月号インタビュー



 さて、みなさん、「好き」や未婚や結婚や産むこと、働くことなどなど、悩ましいモヤモヤについて、「逃げ恥」のみくりや(ひら)(まさ)と一緒に考えていきましょう。



 この本の使い方:ワークを提案します。

(1)自己効力感を上げるワーク(「みくりの給料はこうやって決まった!」の計算)


 自分の平日、休日の家事時間、いくらになるか計算してみてください。本来これだけの価値があると、まずは「見える化」。

(2)では夫婦の実際の「給料相当額」がいくらか計算してみましょう。(「専業主婦が実際にもらっている「給料相当額」を逆算する計算式」参照)

(3)(1)と(2)はどちらが多かったでしょうか? 家計、家事・育児の新しいシェアを話し合ってください。(「夫の家事・育児も考慮すると妻はいくらもらうべき?」、「妻が専業主婦なら夫はどのくらい家事・育児を分担すべき?」参照)

2017年10

白河 桃子

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
8
残り:0文字/本文:5457文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次