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生き方・教養
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序 章 民主党政権「破綻」の背景

『人はひとりで生きていけるか』
[著]小浜逸郎 [発行]PHP研究所


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前代未聞の「バカ殿」を選んだ日本国民

 本書は、政治を論じた本ではありません。

 しかし、こういう本を書こうと思った直接のきっかけは、最近の政治劇の惨状にあります。

 二〇〇九年九月十六日から二〇一〇年六月四日までのわずか二百六十二日という、歴代五番目の短命に終わった鳩山政権の、あの支持率急落ぶりは、近年起きた社会現象のなかでも、最大のトピックの一つに数えられるものではなかったでしょうか。そしてこのトピックは、私たちの心の中に大きな不安と衝撃を与え、政権が見かけ上、刷新されたいまなお、その不気味な痕跡を残してはいないでしょうか。

 ちなみに鳩山前首相の数ある「迷言」「虚言」「ほら」のなかで、私が最もあきれ果てたのは、普天間基地移設問題の決着の日もあと数日と迫ったある日、「基地を視察するうち、米軍海兵隊が、いかに(東アジアの緊張の)抑止力になっているかを学んだ」と恥ずかしげもなく公言したことです。

 国の政治を預かる身としてあらかじめ最も態度をはっきりさせておくべき問題の一つである安全保障問題に関して、これが一国の総理大臣の発言だと信じられるでしょうか。まるで、小学生の基地見学記のようではありませんか。

 輝かしい(?)政治家血統と政治家履歴を持つ民主党の前代表が、戦後日本の安全保障にとって中核をなす日米安全保障条約の存在意義を、これまで何も考えてもこなかったのだということがはっきりわかります。

 いずれにしても、こんな「バカ殿」のおかげで、せっかくそれまで合意されていた普天間基地移設問題が一気に混乱に陥りました。この失政は天下に知られるところとなり、外交上、最も重要視しなくてはならない日米の同盟関係を大きく毀損(きそん)しただけでなく、日本の国際的地位を取り返しのつかないほど下落させてしまいました。

 それにしても、何という前代未聞の「バカ殿」を選ぶという経験を、私たち日本国民はしてしまったのでしょう!

 しかし、「バカ殿、バカ殿」と言って批判していれば済む問題でしょうか。選んだのは私たち日本国民なのだということをけっして忘れてはなりません。そのことを考えるとき、少なくとも私は、あの前首相と同じ日本人として、外国人にまともに顔を向けることができず、暗澹(あんたん)とした思いに沈みます。

日本社会の精神構造に異変が起きている?

 そればかりではありません。単に首をすげかえただけで、選挙に勝つことのみに汲々とし、政策上の問題を何ら本質的に考え直した形跡のない菅内閣が発足するや、それまで二割を切っていた内閣支持率が一挙に六割を超えるというのは、これまた不気味と言うほかはないではありませんか。

 民主党は、それ以後、二〇一〇年七月の参議院選挙における大敗を経て、その大敗の原因を、「菅総理の消費税発言」という表層の問題に限定し、政権党全体のあり方についての根本的な総括と反省をろくになしえないまま、執行部としての責任を何も取っていません。あまつさえ落選議員を閣僚(千葉景子法務大臣)に据え置くという、国民の意思を裏切る驚くべき暴挙を平然とやってのけました。

 さらに七月下旬の概算要求では、各省一律一割カットをまず強制しておき、公開の政策コンテストなる奇天烈(きてれつ)なアイデアを出してきました。この案がすこぶるおかしいのは、各党が政策を出し合って争った先の参議院選挙こそは、「公開の政策コンテスト」だったのであって、それに敗れた民主党が再びそのようなことをするのは、敗北を糊塗(こと)する欺瞞以外の何物でもないからです。

 こんなことになるのには、財政や景気や雇用の立て直しが暗礁に乗り上げているという経済的問題だけではなく、日本社会の精神構造そのものに、何かただならぬ異変が起きているからだという気持ちの悪い感触を抱いたのは、私だけでしょうか。

 二〇一〇年九月十四日の民主党代表選挙によって、菅氏は総理の座を維持することになりました。党内不統一のしこり(ヽヽヽ)はそのまま残り、菅氏は今後どう転んでも苦しい党運営と国会対応を強いられるでしょう。なお、同日の『産経新聞』に発表された世論調査によりますと、「マニフェストを修正しても構わない」という回答がじつに八一%に達しています。また、「民主党は分裂し政界再編すべきだ」という回答が四五%で、「分裂すべきではない」四七%にほぼ拮抗(きつこう)しています。

 これらを総合して判断できることは、国民の多くは民主党という党の特色などにはほとんど期待していず、むしろ個々の直面する生活課題を解決してくれるならば、どこの党でもかまわないと考えているということでしょう。

「個人化」傾向の増大が首相をブレさせる

 というわけで、この一連の現象の背後には、私たちの「政治意識」ではなく、もっと水面下での「生活意識」や「無意識的欲求」の、ある変化が大きくはたらいているような気がしてなりません。その変化は、短い期間におけるものではなく、もっとさかのぼった過去から、まるで大陸プレートの移動のように、じわりじわりと進んできたもののように思われます。

 これは政局の内部を見ているだけではダメだ――それが当時もいまも変わらない私の直感です。では、その大きな変化をいったい何と呼べばいいでしょうか。それをきちんと突き止め、克服する方法を見出さないかぎり、政治の世界での「愚かさ」は、今後も変わることなく続き、日本は次第に亡国の道を歩むに違いありません。

 私は、鳩山政権崩壊の三週間ほど前、月刊誌『正論』から短いエッセイ執筆の依頼を受けました。そのなかで、政権としての統一精神を喪失した「非政治」ぶりをさらしたこの政権の情けない経緯を指摘しましたが、同時に、そこには、その直前にまるで将棋倒しのようにバタバタと倒閣を繰り返した自民党の、再生力の枯渇からの連続した流れが読み取れるのではないかと考えました。

 両者のダメさには、共通した政治()的な原因がある――そう感じて、こんなことになる社会背景を、ひとまず国民の生活意識や無意識的欲求の「個人化」傾向の増大に求めたのです(『正論』二〇一〇年七月号「折節の記」)。

 もとよりこれは、鳩山政権固有の数々の失政を免罪する意図に発したものではありません。また、もともと民主党という党が政権を担うには程遠い構造しか持っていない事実に目を(つぶ)ろうというつもりで書いたわけでもありません。
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