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自由をいかに守るか ハイエクを読み直す
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生き方・教養
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13 「福祉国家」という甘い罠む──[第一三章 われわれの内にいる全体主義者 The Totalitarians in Our Midst ]

『自由をいかに守るか ハイエクを読み直す』
[著]渡部昇一 [発行]PHP研究所


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権威が組織の仮面をつけて現れるとき、自由人の共同体を全体主義国家へと変貌させるに十分な魅力を発散するのだ──『ザ・タイムズ』
When authority presents itself in the guise of organization, it develops charms fascinating enough to convert communities of free people into totalitarian States.‐ "THE TIMES"(LONDON).(p. 181)


 本書は昭和一九年(一九四四年)、戦争が終わる一年前に出版されたものです。イギリスの中で書かれたものですから、その時代性がこの章でも濃厚に表れています。章タイトルの「われわれの内にいる全体主義者」とはイギリスの中にいる全体主義者という意味で、当時のイギリス人に対する警告を主としている章です。

 また、章扉に『ザ・タイムズ』からの引用がありますが、これはまことに適切な指摘で、国家が「ゆりかごから墓場まで」というと、そんなに面倒を見てくれる国家なら自由主義はいらないという人が出てくるのは無理のないことです。しかし、これは悪魔の声にほかなりません。国家が本当に魅力あることをいったときは、眉に唾をつけて聞くくらいでちょうどいいでしょう。

当時、政治的問題や社会的問題に関して、世界の目には英国の典型と思われていた著作家ほど、今日、自国の英国では忘れ去られてしまっているものだ
...the more typically English a writer on political or social problems then appeared to the world, the more is he today forgotten in his own country.(p. 182)


 戦争中であってもナチスとイギリスはまったく違っていて、全体主義がイギリスで起こるわけはないとイギリスではみんなが思っているが、現実にはイギリスもかつてドイツが歩んだ道と同じ道を歩いているのだという、前にも述べている主張を繰り返しハイエクは述べています。そして、右翼と左翼が近づいて自由主義に反対するといった「典型的にドイツ的現象」だとされていたものがイギリスにも起こっており、「計画化」という名前であらゆることを組織化する動きが盛り上がっているといった例をあげ、六〇年前のドイツ、つまり一八八○年代のドイツでH・V・トライチュケ (Heinrich von Treischke, 1834-96)──一九世紀後半のドイツを代表する歴史家で、ベルリン大学の教授でした。歴史家としては超一流で、『一九世紀のドイツ史』はまことに厳密で公平な本を書いています。思想は軍国、愛国、反ユダヤ、反イギリスだったけれども、書いている歴史の本はしっかりしていたので、イギリスでも尊敬されていました──が嘆いた、「有機的な成長というあの単純な力の働きに対して、何事も任せることができなくなってしまっている」という組織化の流れはイギリスにも見出されるとハイエクはいいます。

 第一次大戦の時代に、政治問題や道徳問題でイギリス人とドイツ人を比べるのが非常に流行っていたのですが、当時はその差がはっきりと出ていたのに、今は、つまり第二次大戦中はイギリスとドイツが同じであるように感じるとハイエクはいい、イギリスに特有のものとされていた自由主義、個人主義という考え方がほとんど残っていないと指摘します。その証拠に、第一次大戦の時代までは典型的にイギリス的と思われた人がイギリスで忘れられているとして、モーリー(John Morley, 1838-1923)、シジウィック(Henry Sidgwick, 1838-1900)、アクトン、ダイシー(Albert V. Dicey, 1835-1922)などの名前をあげています。この中で学者としても政治家としても有名なのはジョン・モーリーです。彼は典型的なイギリスの自由主義思想家だったエドマンド・バーク(Edmund Burke, 1729-97)やグラッドストン(W. E. Gladstone, 1809-98)の伝記を書き、元来はジャーナリストだったけれども、功績によって子爵になっている人物です。第一次大戦のとき、ヨーロッパの戦争にイギリスは参加すべきではないといって、閣僚を辞任した人でもあります。そういう点では、本当にイギリス的な人だったといえるでしょう。

 次に、ハイエクは、ヤッフェというドイツの大学教授が第一次大戦のころに書いた主張をケインズの著書から引用し、ケインズがそれを「悪夢」と呼んだことを記しています。ケインズもまた、憂いていたわけです。

 ヤッフェは「個人主義が今や絶対的な終わりを迎えなけれはならない」とか「最大限の効率の達成を目指して、国家の組織化された統一を強化する」とかいい、古代ギリシアの哲学者プラトンのいったあるべき姿の国家の方向へ自分たちも向かわなければならないと主張しているのだそうです。
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