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フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか 「性の商品化」と「表現の自由」を再考する
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政治・社会
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5 なぜ「性の売買」は問題なのか

『フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか 「性の商品化」と「表現の自由」を再考する』
[著]香山リカ [著] 北原みのり [発行]イースト・プレス


読了目安時間:43分
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リアルを描くヨーロッパの性表現


香山 ほかの章でも話題にしたのですが、性ってやっぱり「ヤる、ヤられる」みたいな、非対称的なものだと思いますか? セックス自体、身体自体が対称じゃない。男性が射精して女性がそれを受ける、即物的にも行為的にもセックスに伴って男性と女性は攻めるほうと受けるほう、という非対称性がある。それと「買う、買われる」は関係があると思います?


 というのも、私は昔、地元のヤンキーの男女が結構多く通ってくる学校で授業をしていたことがあるのですが、その中の一人の女の子が飲み会で「昨日さ、男を食っちゃってさ」って言っていたんです。「『食われた』じゃないの?」って聞き返したら「え? そうかな〜」って。それも15年も前の話なんですが、どう受け止めたらいいのかなと思って覚えていたんです。その子はもしかしたら「奪われた」とか「凌辱された」方なのに、それを認めたくないから積極的に「食った」と言っているだけなのか、それとも私が本当に古くて、男女は対称的な関係だから、どっちが先に手を出したみたいなことで言うと、彼女が事実を言っているということなのか。それがわからなくなってしまったんです。

北原 どうなんでしょう(笑)。でも、「食った」という感覚は、彼女の実感だったんじゃないでしょうか。

香山 そうなんですね。それは「しまった! 変な男にされちゃった」ということを認めたくないからではなくて、ある程度そういう意識だったと。

北原 本人としては、「自分から誘った。自分がしたかった。向こうも乗ってきた。食えた」みたいな?

香山 そういう変化は女性としては健全で喜ばしいことなんでしょうか。

北原 どうなんだろう(笑)。良いか悪いかというとそこは判断できない。でも性を被害者的に捉えられたくないという女の人の語り口はわかります。私自身、被害者としての性ではなく、自分が主体的に楽しむための言葉や場が欲しくて仕事を始めたようなものだから。自分が「食った」と思ってても、実は「食われたのはあなたよ」と言われると、傷つくと思います。

香山 私もその時に彼女にどう言ったらいいのかわからなかったんです。「いや、あなたは心に嘘をついている。食われたんだよ、大変だったね」と言うのも違う気がするし、かと言って、「ああ、今の人たちはそういうことで自分が失敗したとは思わずに、あっけらかんと言えるなんて頼もしい!」って思うのも変だし。

北原 その話って、性売買を語る難しさと似ていますね。女性が自らの意思で性を売っていても、結局それは「男主体の性売買産業に巻き込まれているのだ」と私のようなフェミニストが言うことによって、彼女たちの「主体」を私が奪っている、というような話になってしまう。


 でも性売買産業って、実際に人権侵害され、性暴力の対象になり、搾取され利用される被害者が次々に生まれるシステムでもあるわけなので、なぜ、いつまでも温存し発展しようとしているのかを考えたいし、一方でそもそも対等な性って何だろう、とも突きつけられています。構造的に考えることと、その現場にいる女性たちの声に向き合うこと、両方が必要なんですよね。


 だけど、世間的には鈴木涼美17さんのような、“明るい夜のお姉さん”みたいなほうが受けるんですよね〜。好きでやってます、それぞれの地獄をそれぞれの知恵で生きていくんです! というような逞しさこそが、安心して消費できる女の性の物語なのかも。

香山 本当は自分のほうが主体性を持って、それこそ相手のほうが被害者かもしれないぐらいの勢いで男の人とそういう関係を結んでも、「そうじゃないかも」って思わせられるのは、行為そのものが「攻めるほうと受けるほう」という構造になっているから、そこの幻想から抜けきれなくて「常に女性がされてしまっている」って私が思い込んでいるだけなのかという気もするんです。


 また、そういう現象面や身体面だけではなくて、女性のほうが「私のほうが手を出して食ってやったんですよ」って言っても、実は背景とか構造的にはやっぱり女性のほうが何かあった時に傷がつくということがあるのか、その辺がよくわからなかったんです。


 たとえば、「望んでないのに妊娠する」のは女性の側です。「キズモノ」みたいな言い方がありますが、そういう古い考え方に私自身がとらわれていて、「キズモノになるのは女性側なんだ」と考えてしまうのは、女性を守って女性の立場に立っているようでそうではないのかなと。

北原 女性は体の構造上、受け身で被害者になりやすいというより、妊娠する身体を持つ女性に対する男たちの振る舞いが酷い、社会のまなざしが酷い、という事実はありますよね。


 だって、「対等」ってどういうことかといえば、同じ重さで食った食われたをすることではなく、尊重し合うということだと思うんです。たとえばフェミニストが作ったポルノ表現を見ていると、体の大きい男が女の人を組み敷くような表現もあります。体格が同じ男女のセックスが対等な表現じゃないから。でも、そこで描かれるのは、女性をエロスから排除せずに、互いを尊重し合うようなセックスですよね。そこに、食った食われたもないと思うんです。前に話したスウェーデンのフェミニストが作ったポルノも、上とか下とか挿入する側とか受け身とか、そういう役割すらも意味がないように見えるんですよ。

香山 へえ! うまく想像できない……。

北原 そういう描き方を見れば、日本で描かれるエロというものが、いかに男性が勃起するために狂気に近い興奮状態に持っていくかという認識で表現されているんだなって、逆に気づかされます。そんな異空間に行かなくても日常の延長にエロスはあるのにねーって。

香山 ぜひ見てみたいものですが、それって日本ではDVD販売などできないんですか?

北原 私がやるしかないよ、と思って配給会社であり映画館でもあるアップリンクの社長に「これ商品化できますか?」って相談しに行ったら、「あなた、もう一回逮捕されたいの?」って言われて(笑)。それで今一生懸命モザイクを作っているんです。本当に腹立たしいことなんですが、どんなに良い表現であっても問題になるのはやっぱり性器が見えることなんです。うんざりですよ。


 でもいろんな女の人に見てもらうと、「興奮はしないけど癒やされる」「こういうセックスしてみたい」という声が多いんですよね。AVを見て「こういうセックスしたい」と憧れるようなセックスってなかなかないと思うんですよね。

香山 そうですね……と言うほど見てるわけじゃないけど、女性の側から「この作品面白いですよ」といった話も聞こえてこない。

北原 結局女の人を性の商品化というか、どこまでモノ化できるかということを競うように男の人がエロとして表現している中で、鈍らされているものはとても大きいと思います。それが、あらゆる階層で表象されてきているな、って思うんですよね。


17:1983年東京生まれの社会学者、文筆家。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、東京大学大学院修了。執筆した修士論文が『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』(青土社)として書籍化される。大学在学中にAV出演していたことで話題に。現在は、夜働く女性たちや恋愛・セックスをテーマに執筆。


親子関係と性教育


香山 話は変わりますが、最近、「キリスト教は人間を救うか?」というテーマに個人的に関心があり、キリスト教カウンセリングについても調べています。教会の牧師の役割には伝道と牧会があって、伝道というのは信仰を伝えることで、牧会は教会の人たちのお世話とか、慈善事業とか社会貢献なんです。牧会が大変なのは想像できますよね。心理カウンセリングのプロでもないのに、様々な相談が持ち込まれる。

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