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なぜ飼い犬に手をかまれるのか
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庭のタヌキ

『なぜ飼い犬に手をかまれるのか』
[著]日高敏隆 [発行]PHP研究所


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「子連れ夫婦の一家」

 もう十年ほど前になるだろうか、人の家の庭先に毎晩のようにタヌキがやってきて、(えさ)をもらっていくという記事が、写真入りで新聞にのり、なかなかたのしい話題になったことがあった。

 季節はいつだったかよく(おぼ)えていないが、タヌキは子連れ夫婦の一家だと書いてあったから、たぶん夏の終わりから秋にかけてのことだったろう。

 聞けばなんでもないことのように思われるかもしれないが、ぼくにとってはたいへん興味ぶかい。それはこのちょっとしたできごとが、他の動物ではあまりありそうもない、タヌキならではのことだからである。

 タヌキは夫婦で子育てをする、哺乳(ほにゆう)類としては珍しい動物である。犬や猫は絶対に夫婦で子どもを育てたりしない。母親はひとりで子どもを産み、育てる。万一、オスが近づいてきたら猛烈ないきおいで追い払う。だから子連れの犬、猫一家が庭先へやってきてをもらうことはありえない。


 出産に立ち会うオス

 タヌキは春先早くに夫婦がペアになるらしい。そうするとこのペアは、いつも一緒に行動する。夜になると二匹で探しにいくし、もちろん巣も一緒。そして、かつて京都大学の動物行動学研究室にいた山本伊津子さんの研究で明らかにされたように、タヌキのオスはメスの出産に立ち会う。

 近ごろは人間の夫が妻の出産に立ち会うことも珍しくなくなったが、昔は出産の場は男子禁制だった。けれどタヌキは大昔からオスがメスの出産を助けていたらしいのである。

 オスは陣痛で苦しがるメスの背中をなめてやり、子どもが生まれたら羊膜(ようまく)をなめとって赤ん坊を自分の腹にかかえこんで温める。


 吐きもどしのしくみなし

 一方、タヌキはイヌ科の動物であるが、オオカミのようにオスがメスにえものを持ってきてやるようなことはけっしてしない。それはタヌキが、口にくわえて帰れるような大きなえものを狩る動物でなく、虫とかカニとか山の中の果実とかを一つひとつ探しまわって食べる動物であるからである。おまけにどういうわけだか知らないが、こういう食べものを一時(たくわ)えておくのど袋のようなものもないし、食べたものをいったん胃に収めておいて、巣に帰ってそれを吐きもどして子に与えるというしくみももっていないからである。

 だから子を産んだメスは、乳の出を確保するために、巣から出て自分で食べにいく。メスが留守にしている間、オスは子どもたちを体にかかえて温めている。タヌキの赤ん坊は、これもどういうわけだか分からないが、体温調整能力がとても低く、ほうっておかれるとすぐ体が冷えて死んでしまうらしいのである。

 夏になって、やっと子どもが乳離れすると、親子は連れだって探しに出る。だから夏から秋にかけて、人家の庭先にタヌキの一家がやってくることにもなるのである。

 山の中で少ないを探しまわるより、人の家でがもらえるなら、そのほうがよっぽどいい。動物にとっての最大の関心は食物と安全だ。それはタヌキにしても同じことで、たとえがもらえなくても、人の住むところには畑もあるし、ごみとして捨てられたもたくさんある。はじめは極端に警戒しながらも、人家の近くにタヌキが出没するようになるのは当然である。

 タヌキの子たちは、秋おそくには成長して大人になり、親に追われてそこらへ散らばっていく。夫婦もペアを解き、また新たな相手を求めてばらばらになるらしい。高速道路でのタヌキのロードキル、つまり交通事故が一挙にふえるのもこのころである。


 タヌキの数はふえている?

 それでも近年、タヌキの数はふえているらしい。昔からタヌキは、日本の中型獣の中では数が多いほうだった。里に住む人々はしばしばタヌキの姿を見かけていた。タヌキが人を化かすという話も、そんなところから生まれてきたのかもしれない。

 いずれにせよ、人間のおかげで豊かになったに頼って、いろいろな野生動物が今、ものすごくふえているようだ。そしていろいろな問題もおこっている。庭先にかわいらしい姿を見せるタヌキたちも、その例外ではない。タヌキとほんとうに親しくつきあえるようになるには、どのようにしたらよいのだろうか?
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