大阪の西成、東京の山谷で十五年間も労務者生活をつづけている(おそらく現在も?)大山史朗は、『山谷崖っぷち日記』を書いて第九回開高健賞を受賞した。どこにでもこういう透徹した人はいるもんだなあと感嘆してしまうのだが、その本のなかで、大山は印象深い隣人たちの姿を描いている。
まず山谷の住人たちについて、このように述べられる。
「山谷で知り合った多くの人々にとって、他人に対する優越感の確認への願望は、宿痾とも言うべき性癖であるように思われる」。それは「他人からの承認を味わったことがないことに由来する、優越性に向けての露骨でみえみえの衝動が、このおやじたちの中にはうごめいているのだ」。