逆転発想のモノづくり
百年に一度といわれる未曾有の金融危機を招いた平成二十年九月のリーマンショック以降、私の講演終了後、直接ご相談に来られる方が急に増えました。
とりわけ目立つのが地方の伝統産業を含めた中小メーカーの経営者・代表者の方々で、お話を聞くと、並々ならぬ危機感を持っておられることがひしひしと伝わってきます。
そういった強い危機感が生まれる要因の代表的なものとして、次のような状況の変化が考えられます。

中国製などの安価な商品が市場を
席巻している。

大型店の、中小メーカーの売り場スペースが年々縮小傾向にある。

従来は中小メーカーの領域だった分野へ、大手メーカーの参入が相次いでいる。

既存の問屋ルートがあるため、直販がしにくい。

日本人の生活様式が大きく変化し、需要そのものが激減している。

大不況の影響で観光客が減り、土産物の売上もダウンしている。

長引く不況で、高額商品が売れなくなっている。

職場で高齢化が進み、後継者が育ちにくくなっている。
文字どおり、八方ふさがりの状態になっていることがよくわかります。
若狭塗箸の業界も同じで、小浜は塗箸の生産量では日本一を誇っていますが、出荷数は年々下降線をたどっています。要するに、いまの流通の仕組みでは多少景気がよかったとしても前年の実績を維持するのが精一杯で、不況になれば真っ先に大きな影響を受ける、それが伝統産業なのです。
これも時代の流れで、ある面ではやむをえないと感じつつも、歯止めをかける工夫と努力をしなければ、地方産業の衰退にますます拍車がかかってしまうでしょう。
家業である若狭塗りと若狭塗箸の製造業者として生き残り、地元に根づいた伝統を次の時代へ継承するために、いまから三十数年前に私が取り組んだのが、皮肉なことに、伝統にとらわれないお箸づくりだったのです。
それまでの若狭塗箸の特徴であった貝や卵の殻をあしらったデザイン、あるいは赤や黒をメインにした色使いから、お箸二本を合わせると蝶や市松模様になるとか、紫をはじめとするパステルカラーを使うなど、当時としてはかなり大胆なデザインや色使いにも挑戦しました。
ほかにも麺類を食べやすくするために箸先に溝を入れたり、幼児が使っても安全なように箸先を丸くするなど、お客様のニーズと時代の流れにマッチするモノづくりを行なったのです。
「大量注文」の落とし穴
結果は大成功で、当時、新規出店が相次いでいた大型スーパーの日用品売り場に私が考案したお箸が並べられると、おもしろいように売れはじめました。やがて定番商品となり、当然のごとく売上も大きく伸びました。しかし、天の邪鬼な私はこのことを心から素直に喜べなかったのです。
たしかに、私どもがつくった商品は問屋を通じて大量の注文があり、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで全国展開を進めていた大手スーパーの日用品売り場の目立つところに並べられるようになりました。
これを目の当たりにして、誇らしく思い、有頂天になりかけていた時期があったのも事実です。
しかし、冷静になってじっくり考えてみると、問屋に卸した商品のうちで実際に売れているのはほんの一部でした。