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死後のプロデュース
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生き方・教養
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はじめに、お伝えしたいこと

『死後のプロデュース』
[著]金子稚子 [発行]PHP研究所


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 夫の金子哲雄が亡くなってから、もう8カ月──。味わったことのないような、痛いほどの悲しみが永遠に続くのかと感じた昨年10月のことを思い返すと、この間に私が辿った心の変遷に我ながら驚いています。

 葬儀はもちろんのこと、『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(金子哲雄著、小学館)の発行まで、金子が考え、準備していたことを何とか実行に移す日々を送りながら、これは(まぎ)れもなく、夫が私のために用意していてくれたことなのだと、深く感じるようになりました。

 その本の制作があったから、葬儀が終わった後も金子を思い、悲しみに暮れているだけの時間が少なくて済みました。しかし、葬儀の間際から内容の確認や校正作業のために、何度も原稿を読む必要があり、そのたびに追体験することにもなりました。何度も号泣し、時には立ち上がることもできないほどになりましたが、そのたびに、「わかちゃん、泣いてはだめだよ」という声が聞こえ、背中をどんどん押されているような気持ちになったものです。

 そうするうちに、四十九日の頃にはもう、一周忌を迎えるかのような心持ちになっていました。本ができ上がった時、普通の人が1年をかけるところを、約1カ月で済ませてしまったのだと感じたほどです。この強烈で濃密な(いや)しのプロセスは、いかにも金子らしいやり方であり、夫が亡くなる直前にしてくれた「死んでも僕が守る」という約束通りだと、改めてその優しさを感じて、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

 上梓する直前、PHP研究所の新書出版部から、本を書かないかというお誘いを受けました。しかし、金子の最期についてはすでにまとめた直後でしたから、改めて金子への思いを書くことには抵抗がありました。それに、金子の死に方については、私が何かを言うべきではないと思っていたからです。

 金子の闘病と死を通して、私たちは多くのことを語り合い、多くの考えを共有することになりました。その一つが、その人の命は、その人のものである、という思いです。

 大切な人が死ぬと知った時、多くの人が冷静ではいられなくなります。自分の気持ちが前に出てしまい、「死んでほしくない」「生きていてほしい」と、死にゆく人の思いの存在を忘れてしまってそう願うでしょう。言うまでもなく、当然のことです。でも、そのギリギリのところに来た時、突きつけられている問いがあるのです。

 その命は、誰のものなのか──。

 私たちは、この厳しい問いを正面から受け止め、行動しました。それが『僕の死に方』を書いたことであり、その後のさまざまな準備なのです。

 本を書かないかというお誘いは、金子自身のことではなく、「エンディングノート」について書いてほしいということでした。金子の死の準備を報道で見知った編集者が、当然その存在があることを前提に、多くの人の参考になると思うからと声をかけてくださったのです。

 しかし、それにも私は「できない」とお返事することになりました。なぜなら、金子はいわゆる「エンディングノート」というものを書いていないからです。
「それではなぜ、哲雄さんはあそこまでの準備ができたのでしょうか……?」

 本書は、そうした編集者の驚きともとれるひと言から生まれることになりました。


 当時、私のなかには、金子とのことが消化されないままに積み重なっている状態でした。金子から託されたものがあることも自覚しており、さらに「これはわかちゃんがやってね」と直接言われていることもあります。実際、金子の先輩に、金子から託された「宿題」を実現するにはどうしたらいいか、相談もしています。

 しかし、その実現のためには、多くのハードルがあり、さらにそのハードルを越えていくには、金子とともに思い至った死生観を多くの方に理解していただく必要があること、さらに金子とともに知ったさまざまな課題についても、その存在すら、多くの方が自覚していないことを知ることにもなりました。
「まずは、(わか)子さんの言葉で、金子君と共有したその死生観、思いを、皆さんに伝えるべきだと思う」

 そんな金子の先輩からの冷静なアドバイスを受け、先に紹介した編集者からのひと言もあり、次に自分がすべきことがはっきりと見えてきた気がしました。

 しかしながら、金子の病気が発覚した直後から、私は“自分の言葉”が完全に失われてしまったことを自覚していました。何かを手放さなければ、到底耐えることのできないような状態に陥っていたからなのでしょうか。前著になぜ原稿を寄せることができたのか、今でも説明ができないくらいに、自分の思いや考えを満足に書き記すことができないのです。

 人に話すにしても同じことです。自分の考えを話しても話しても、うまく伝わっていないと思いました。それ以前に、話すことが辛いことも多々ありました。まずは言葉を取り戻す必要がある、私はそう感じていました。

 同時に、金子が用意してくれた本の制作という強烈で濃密な癒しのプロセスを経た後でも、亡くなった金子を(かたわ)らに感じつつも、突発的に襲ってくる強い悲しみや恐怖、怒りといった感情に、私はずっと苦しめられてもいました。心の問題だけではありません。体が、まるで金縛りにあったように動かなくなってしまうこともありました。

 それらを何とかしたい、そして言葉を取り戻したいと思いました。そうしなければ、金子から託された「宿題」に取りかかることすらできないからです。

 思うがままに、時にはまるで導かれるように、さまざまなところに出かけました。そこで多くの人と出会い、話を伺い、学ばせていただいているうちに、私のなかに積み重なっているものが徐々に整理されていくのを感じました。自分ではそうと意識しないうちに、私は現場に出て取材をしていたということなのかもしれません。積み重なっていたものは整理され、さらにそれらに言葉が与えられていくのを実感することになりました。

死ぬことと、生きることは、同じ


 本書では、金子と到達したこの死生観をベースに、お伝えしていきます。

 死とは何なのでしょうか。金子の死を通して私が実感したのは、人生において、死は、大きな流れのなかのひとつの通過点に過ぎないということです。その“点”に至った時、その人の人生の何もかもが終わってしまうのではなく、その流れはやはり続いていくのです。

 エンディングノートと聞いて、私が違和感をもつのはこのことが理由でした。死のその時まで、金子は一瞬たりとも「終わり(エンディング)」に向けての活動をしていないからです。自分がこの世にいないことを前提とした、自分の死後の準備も行っていたのです。言うなれば、死後をプロデュースしていました。

 金子が準備し私に指示を残していったことや、金子が私に「宿題」を託したことはどういう意味なのか。金子の行った自らの死後のプロデュースを、私はどう受け止めたらいいのか。金子とのやりとりを思い返し、私はまず、このことから考え始めることになりました。そうして、出てきた言葉が「引き継ぎ」です。

 金子から「引き継ぎ」されたことがたくさんある、と自覚した時、さまざまなことが見えてきました。亡くなっても金子が(そば)にいるという感覚、金子の死後、私がどのように変わり、前に進むことができるようになったのかという理由、大きく変わった生き方そのもの……。引き継ぎによって得られた多くのことに気づき、それらを自覚した時、私はまず、このことを伝えなければならないのだと理解しました。

死後のプロデュース


 夫を亡くして1年も経たないうちに、こうも冷静に文章が書けるのかと思われる方もいるかもしれません。しかし、これこそが、夫が行った死後のプロデュースであり、夫から引き継ぎされていることなのです。私が書いているというより、書かされている(・・・・・・・)といったほうが近いのかもしれません。

 自分が生きてきた(あかし)を残そうというのではなく、自分の死後を始末しようというのでもない、「引き継ぎ」とは一体どういうものであるのか。なぜ金子があそこまで準備をすることができたのかという理由とともに、本書ではお伝えしていきたいと思います。

 夫の死を通じて、死ぬこととは、死という“点”を境に、この世サイドからあの世サイドに移るだけだという感覚が、私に深く刻み込まれました。だからこそ、金子は変わらず私の横にいて、前へ前へと進み続けていることを実感できるのです。死とは何なのか。死者とはどういう関係を結べるのか。そうしたことも、お伝えできればと思います。

 いよいよ、金子のプロデュースによる引き継ぎが本格的にスタートしました。まずは本書をきっかけに、死について正面から考え、ご自身の死後のことについても思いを()せていただけたら幸いです。
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