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がんばらない、がんばらない
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生き方・教養
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第三章 「いいかげん」のすすめ

『がんばらない、がんばらない』
[著]ひろさちや [発行]PHP研究所


読了目安時間:33分
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がんばってはいけません。ゆったりと人生の旅を楽しみましょう


“いいかげん(加減)”にかわるいいことばはないか、あれこれ探してみたのですが、なかなか見つかりません。“いいかげん”にはマイナス・イメージがあります。「中途半端」「無責任」そんな印象で受け取られそうなことばです。

 これを“()い加減”と表記すれば、ちょっと印象が変わります。さらに“よいかげん”と発音すれば、もっとよくなる。

 お風呂の湯加減で考えてください。「いいかげん(よいかげん)」というのは、熱い湯の好きな人には熱い湯が、ぬるい湯の好きな人にはぬるい湯が「いいかげん」なんです。ところが、中途半端のぬるま湯がいいかげんだと錯覚する人が多い。それで“いいかげん”がマイナス・イメージのことばになるのです。
“いいかげん”にかわることばとして、大阪弁で言う“ぼちぼちいこか”もいいですね。あまり気を張ることなく、ゆったりと前に進んで行く。そんなイメージのことばです。でも、大阪弁だから全国区ではないのが残念。できればこれを全国区にしたいですね。

 もう一つ、“ほどほど”もいいと思います。

 だが、あえてマイナス・イメージの“いいかげん”を使わせていただきます。そういうところが、ひねくれ者のわたしなんです。

 ところで、やけにわたしは“いいかげん”にこだわっていますが、仏教語としては、これは、

 ──中道──

 なんです。そして「中道」こそが仏教の基本姿勢です。

 じつは(しやか)は二十九歳で出家をしましたが、彼が最初にやった修行は「苦行」でした。徹底的に肉体を痛めつけるのです。そうすると、肉体の中に束縛されていた精神が解放される。昔の人はそう信じていました。釈もそうした社会通念にもとづいて苦行を(しゆう)したのです。

 彼がやった苦行の中心は断食です。数カ月にわたる断食によって(仏典にはそのような表現があります。きっと誇張表現ですよね)、危うく彼は死んでしまうところでした。

 だが、それほどの苦行によっても、彼は悟れなかった。

 そういうときに、釈に天啓的に(ひらめ)いたのが「中道」です。自分は出家する以前、釈国の太子として生活していたときには快楽に溺れた生活をしていた。それは一つの極端である。しかし、いまはもう一つの極端である苦行を修している。それでは駄目だ。そんな極端を排して、中道を歩もう。釈はそう決心しました。

 そして、一緒に苦行をやっていた五人の仲間に、自分のその決意を語りました。

 だが、五人は反対します。
「そんな中途半端なことをしてはいけない。このまま苦行をつづけるべきだ」

 それが五人の意見です。そういう意見があるのはある意味で当然です。

 釈は五人に、自分の言う中道はそのような中途半端なものではないと説明します。が、仲間たちは聞き入れません。結局は喧嘩(けんか)別れになり、釈はただ一人、中道を歩みます。

 その結果、釈は悟りを開いて仏陀になることができたのです。

 もしも釈が中道を歩まなければ、彼は仏陀になれず、仏教という宗教はなかったと思います。だとすると、仏教は中道によって成立したのです。そしてその中道を、わたしは「いいかげん」とパラフレーズ(言い換え)しています。

 中道というのは「いいかげん」です。「いいかげん」を逆に言えば「がんばるな!」なんです。でも、これもまた常識外れですね。世の中の人は「がんばる」ことがいいことだと思っていますから、がんばってはいけないと言われると、びっくりされます。

 アメリカ人に、“がんばる”という日本語は英語で何になるかと聞きますと、たいていの人が、

 “Do your best!”

 ですよ、と教えてくれます。もちろん、日本語がよくできるアメリカ人です。

 でも、わたしは、それは誤訳だと指摘します。理由を話すと、みんな賛成してくれます。

 たしかに、“がんばれ!”は“Do your best!”と訳すよりほかありません。そして、英語を話す人は、このことばをときに使います。だが、“Do your best!”は、「あなたの最善を尽くしなさい」ですよね。そして、怠けている人に向かって言うことばです。

 ところが、日本語の“がんばれ!”は、すでに最善を尽くしている人に向かっても言われます。その意味では、日本語の“がんばれ!”は、常に、
「もっとがんばれ!」

 なんです。おまえのそのやり方では駄目だ。もっともっとがんばらないといけない。そういうふうに使われます。

 しかしですね、たとえばうつ病の人にこの「がんばれ!」を言うと、最悪の場合は自殺する危険があります。だからこれは、非常に恐ろしいことばです。

 ともあれ、「いいかげん」がいちばんいいのです。



 さて、人生というものは旅ではないかと思います。でも、旅ではあっても、目的地はありません。もっとも、世の中には、人生の旅に目的地を設定する人がおいでになります。目的を設定すれば、目的のために人生を生き急ぐことになります。金儲けを目的にしたり、高い地位や名誉を得ることを目的にすると、いま現在の生活を犠牲にせねばなりません。わたしは、そんな生き方をしたくありません。

 たとえてみれば、人生をマラソン・レースのように考えているのです。ゴールを目指して、歯を食い縛って駆けるのです。ゴールという未来のために、現在を犠牲にする生き方。そんな生き方をすれば、前章で述べたように、きっとお釈さまからお(しか)りを受けます。

 わたしたちは、現在を大事に生きねばなりません。

 そのためには、ゆったりと人生の旅を楽しむのです。

 そうですね、東京から大阪までは約五百キロです。わたしたちは東京を出発して大阪に足を向けますが、それは大阪がゴールではありません。ただ旅をする方角だけです。

 ですから、大阪に到達できなくてもいい。

 大阪というゴールに執着すると、わたしたちは、大阪に着いてからおいしいものを食べよう、大阪の街を観光して楽しもうと思ってしまいます。
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