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わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち
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ルポ・エッセイ
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『わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち』
[著]西牟田靖 [発行]PHP研究所


読了目安時間:8分
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 2013年のXマス2日前、都内の小学校の校庭で男性とその息子が発火するという事件があった。消し止められたが助からず、ふたりとも命を落としてしまった。男性はマスコミに勤務する40代。野球の練習をしていた息子を校庭の隅へと連れ出した後、自らに火をつけた。妻子と別居中だった男性は、子どもに会うことを制限されており、しばしば妻子の家や学校に現れることがあったという。



 独身時に、このニュースを目にしたら──子どもまで巻き添えにするなんて、ひどい父親がいるものだ。だけど私には関係ないことだな──などと思ったかも知れない。ところが実際の私の反応は違っていた。ニュースにひどくショックを受け、おののいた。というのも、このとき家庭が壊れかかっていて他人(ひと)(ごと)とは思えなかったのだ。


 翌年の春、妻が3歳の子どもを連れて出ていき、夫婦関係が破綻した。離婚届を受理したという通知が役所から届いたとき、一時的に記憶がなくなり、自転車をなくすほどであった。愛してやまない当時3歳の娘に会えなくなったことが、なんといってもショックだった。自分の両手をもがれてしまったような喪失感がしばらく続き、いつふらっと線路に飛び込んでもおかしくはなかった。生きている実感がまるで湧かず、体重は10キロほど落ちた。


 その後、私はわらにもすがる思いで、ある交流会に参加した。それは、私と同じく、わが子に会えなくなった親たちが、自らの身の上を話し、体験を共有するというものであった。貸し会議室の1階には十数人が集まっていて、司会者のふたりの進行によって、自己紹介がてら自身の体験が個々に語られていった。ちなみにそのふたりも当事者であった。

「家に帰ったら、配偶者と子どもがいなくなっていた」「家を離れたきり帰ってこなくなった」「追い出されて会えなくなった」といった話を皆さん、口々にされていく。個別には、妻と子のいる地方へしばしば通っているというケース、子どもと何年も会っていないというケース、暴力夫に面会させたところ、子どもを返してくれなくなった女性のケースなどがあった。


 目立ったのが身に覚えのないDV(ドメスティック・バイオレンス)を主張され、会わせてもらえず、苦しんでいるというケースだ。数えていたわけではないが、全体の半分ぐらいはあっただろうか。


 子どもに会えなくなったことで5キロや10キロと大幅に体重を減らしたり、抗うつ剤や睡眠薬を常用したりという人も少なくなかった。また、当事者の中には自殺する人が珍しくないという恐しい指摘もあった。


 ひとりひとりの苦しい身の上話、それに対する同情的で実践的なアドバイス。交流会が開催された2時間はあっという間に終わった。そしてその後、連れ立って、皆で飲みに行った。会社員に教師、医師に建設労働者と仕事は様々だが、似た境遇にあるためかすぐに意気投合した。


 以後、私は当事者たちとの連携を深め、ときには雑誌の記事として書いてみたり、シンポジウムに出させていただいたり。そういった活動をする中で、心の安定を取り戻していった。



 厚生労働省の調査によると、2015年の国内の婚姻件数は63万5000組で、離婚件数は22万5000組である。これはおよそ3組に1組が離婚していることになる。その際、親の離婚に付き合わされる子どもの数は20万人以上と推計されている。


 日本では協議離婚が9割を占めている。これは夫婦が書類に記入・捺印したものを役所・役場に届ければ成立するというもの。子どもがいる場合でも、養育計画について合意した書類を提出する必要はない。そうした離婚手続きの軽さに象徴されるように、日本では別れた後の子育てが制度的に軽視されている。離婚すると、親権(未成年の子に対し、父母が持つ監護・教育・財産の管理などの権利や義務)は、夫婦どちらかが持つことになる。というのも、日本の場合、諸外国とは違って共同親権が認められておらず、単独親権制度が採用されているからだ。ちなみに監護とは、未成年の子を養育する親が、子を監督・保護することを指す。


 2011年度の全国母子世帯調査結果(厚労省)によれば、別居している親と子どもが面会をしている割合は、母子世帯で27・7%、父子世帯で37・4%である。これは、別れてしまえば会えなくなる親子がいかに多いかということを示している。私が交流会で会った当事者の方々も“会えていない人たち”なのであった。


 その一方、面会交流調停(別居する親が子どもとの面会を求めて、裁判所立ち会いの下、話し合い合意を目指すこと。2000年当時は面接交渉調停)の申請数はというと、2000年には年2406件だったのが、2015年時点で1万2264件と5倍以上に増加していて[裁判所HP「司法統計」より]、子どもとの交流を目指す親がいかに多く、さらに増加傾向であることもわかる。


 交流会でも多く語られたDVが絡むケースはどうなのか? そもそもDVとは何だろうか?


 DVが本格的に取り沙汰されるようになったのは2001年ということになる。この年、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)が制定されたのだ。これは「配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備し、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的とする法律」[内閣府男女共同参画局HP]であるという。


 具体的にどのように行使されるのか。典型的な流れは次の通りだ。


 ──被害者は配偶者暴力相談支援センターや警察などへ出向き、DV被害について相談する。行政は被害者の申し立てを受けて被害者の居所を()(とく)する。希望者は配偶者(加害者)の暴力から逃れるためにシェルター(ほぼ女性のみが対象の一時避難施設)などに避難。地方裁判所が認めれば、加害者に対し保護命令に含まれる接近禁止命令や(世帯が居住する家からの)退去命令が発令される──。


 配偶者暴力相談支援センターに寄せられたDVの相談件数。センターが発足した2002年度は3万5943件で、15年度は11万1630件。相談者はどちらも女性が99・5%以上。データからは“加害者”のほぼすべてが男性だということが読み取れる[内閣府調査より]。


 面会交流調停とDV被害の件数がともに増えているという現状を、どう考えればいいのだろうか。DV男が世の中にありふれている、ということなのか。DVを行いつつも会いたがる激しい父親が増えているのか。しかし実際、交流会の場にしろ、そのほか様々な場所で出会った当事者たちにしろごく普通の、子ども思いの親たちで、暴力を振るうような人はひとりもいないように見えた。これでは前記のデータとまったく相容れない。いったいどういうことか──。



 別れてから現在までのこの2年半の間にお会いした当事者の方々。彼らの声を集めたのが、この本である。本のタイトルを『わが子に会えない』としたが、今は会えている人、再び会えなくなった人も証言者に含めている。子どもに会えなくなった男たちとはいったいどのような人なのか。別れに至るまでにどのように出会い、子どもをつくり、そして別れたのか。そして別れた後、どんなことを思い、どのような人生を歩んでいるのか。善悪では計りきれない多くの人生、つまりはより多くの視座を伝えることで、“会えない”という現象に可能な限り接近したいと思っている。副題に“離婚後”と入れているが、ここでいう“離婚後”とは何も法的に成立した離婚のことだけではない。家族が崩壊し子どもと会えなくなった状態を、端的にそして平易に表すため、“離婚後”という言葉をあえて使ってみたのだ。その点については理解していただければ幸いである。


 また“父親たち”という言葉にある通り、紹介する当事者はあえて男性に絞った。それは男性当事者の数が圧倒的であることと、私自身、男なので心情を汲み取りやすかったということが理由だ。


 世の中には別れた後、子どもに会おうとしない父親や母親がいる。残された親や子どもは当然苦しむ。そうしたことはもちろん承知しているが、テーマから外れているので、本書では言及しない。


 話者やその関係者の名前は作者以外、全員仮名である。また職業や場所などについては個々のケースの事情に鑑みてぼかしたり、微妙に変更したりしている。こうした処置をしている以上、この本がノンフィクションと呼べるかというと少し微妙なものがある。しかし、それは証言してくださった皆さんの生活をこれ以上壊さないための必要な処置である。


 彼の行動はアウトだろうとか、自業自得だろうとか、読んでいて違和感を覚えるケースがあるかもしれない。読者の中には、自身の体験を思い出してつらい思いをしたり、紹介する当事者の声をヘイトスピーチ的に捉えたりするケースだってあるかもしれない。私自身、取材をしていて、すべてがすべて共感できたわけでもない。ただ、どんな人にもいいところはあったし、つらい思いをしていること、そして何よりわが子に強い愛情を持ち続けているということは誰しもが共通していた。そのことは強調しておきたい。


 芸能人のスキャンダルにしろ、家族を巡る殺人事件にしろ、新聞紙上やネットのニュースサイトに毎日のように載っている家族がらみのニュースには、『わが子に会えない』という問題が真相解明のカギを握っていることが多い。その手のニュースを読み解くヒントを本書から見つけられるかもしれない。また、家族とは何か。親子とは何か。結婚とは何か。そうしたことを考える材料として読んだり、単なる読み物として楽しんだり。読者の皆さんがそれぞれの活用の仕方を見つけてくだされば幸いだ。前置きはこの辺にして、そろそろ本編へ進むことにしよう。

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