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(2021/11/26 追記)

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第三章 お客様を呼び込む経営

『臆病者の経営学』
[著]木越和夫 [発行]PHP研究所


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畳一畳の屋をオープン


 有限会社せいわ店を設立した翌年のことです。私は、小浜市を中心に三十軒ぐらいのの製造業者で組織された「若狭塗協同組合」の専務理事に推挙(すいきよ)されました。五十歳代、六十歳代の役員が名を連ねるなか、二十七歳の専務理事は異例でした。

 組合は、昔ながらの伝統産業であるづくりに新風を吹き込み、次々に売れる商品を出し続けている私に、業界の意識改革を促す一石を投じてほしいと期待をかけてくれたのです。

 具体的には、問屋と値上げの交渉なども試みましたが、私が先頭に立ち、最も熱心に取り組んだのが観光バスの誘致でした。

 誘致といっても、旅行代理店やバス会社と直接交渉したわけではありません。小浜にバスでやってくる観光客にチラシを配って、直接若狭塗のを売り込もうとしたのです。しかし、組合のメンバーが一致団結し、みんなで継続してやれば効果も上がるでしょうが、自分たちの仕事に忙しいこともあって、たまに集まってやってみても盛りあがらず、いつの間にか立ち消えになってしまいました。

 昭和五十三年に、ある事情で市内に事務所を借りることになりました。事務所といっても、民家の一階を間借りしただけですが、近くには小浜観光の目玉である「蘇洞門(そとも)巡り」の遊覧船の乗り場があり、そのお客様を目当てに、事務所の家賃八万円(当時の八万円は大金でした)の金を稼ぐために(たたみ)一畳のスペースにを並べて売ることになりました。


 ※蘇洞門……花崗岩(かこうがん)が波に打ち砕かれてできた日本海側有数の景勝地。大門・小門は、岩の中が打ち落とされ、周囲が柱状に残ったため、船が通れる洞門となり、天下の奇勝として観光客に人気を呼んでいる。


 ところが小売りが初めての私は「いらっしゃいませ」の声が出ません。家内も医者の娘ですから、「いらっしゃいませ」「またお越しください」「ありがとうございます」という言葉をいった経験がありません。このとき、医者の娘は嫁にもらうもんじゃないと後悔したことを覚えています。そんな二人が始めた小売店ですから、繁盛するはずがありません。

 警察から「もっと引っ込めなさい」と注意を受けるほど、商品を道の前に出せば出すほどお客は逃げる、商品を手にとってゆっくり見てくれるような人はほとんどいません。客が来ないので私が店の前に立っていると、通行人は避けるように通りぬけていきます。いつも閑古鳥(かんこどり)が鳴いていました。

 もう店をやめようか、と真剣に考えていた矢先、小浜市内で旅館を経営していた友人から一本の電話が入りました。この一本の電話が私の運命を変えたといっても過言ではありません。
「木越、頼みがある。明日の三時に着く観光バスのお客様を、一時間でいいから、お前の店で引き止めてくれないか」というのです。

 旅館のチェックイン時間である四時まで、お客様を迎える準備が整わないので、一時間だけ私の店で時間稼ぎをしてほしいという話でした。私が快諾すると、友人は「バス会社にはそう伝えておくから、悪いけど三時に駐車場へ迎えにいってくれ」といいました。

 翌日、私は着慣れないスーツにネクタイを締めて、二時三十分から遊覧船乗り場の駐車場の入口に立っていました。三時が近づくにつれて、「フー」と大きく息を吐く回数が増えたのは、相当緊張していたからでしょう。

 目当ての観光バスのガイドさんに「旅館から紹介されました屋ですが……」と告げると、「話は聞いています。すぐにお店に案内してください」と返事がありました。
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