『客家(はっか)大富豪の教え』
[著]甘粕正
[発行]PHP研究所
商いに成功する者には必ず愛嬌がある。
嫉妬は成功の敵。
勝ち馬に乗れ。
運もお金もさびしがり屋なのである。
一人ぼっちは嫌いだから、みんなのいるところに集まるのだ。
◇プライベート・レストランでの占い
それぞれの部屋に戻って着替えると、私たちはウォン氏が用意してくれた運転手付きのベンツに乗り、レストランへと向かった。
あっという間に目的地に着いた。彼女が希望した店「梓桐堂私房菜」はソーホー地区にある。この地区は、フォーシーズンズホテルと香港駅・中環駅を挟んで向かい側にある。
この店は、他のプライベート・レストラン(私房菜)とは違い、地方出身の画家と歌手の夫妻が作る料理が友人の間で評判になって開いた異色の店である。店内にはオーナーの絵が飾られており、食後には夫人が素晴らしい歌声を披露してくれる。
今日のお客はわれわれ二人だけのようだ。一通り料理が運ばれると、オーナー夫妻が改めて挨拶にやってきた。
リリー・ヨンは、すでにこの店を何回か訪れているらしく、親しげに二人を紹介してくれた。
「こちらが陳さんご夫妻です」
「ヨンさん、それにウォンさんには、いつもたいへんお世話になっています」
とご主人が挨拶した。
「甘粕さんのお話はもうお聞きになっていますよね?」
「ええ、ウォンさんの一族の方ということで、本日ご来店いただいたのをたいへん光栄に思っております」
私は恥ずかしくなって、耳が熱くなるのを感じた。たしかに、私の祖父は、マイケル・ウォンの恩人で、そのおかげで私は自家人として客家の仲間に入れてもらったが、ウォン氏の一族というのはいい過ぎではないだろうか? しかし、ヨンさんも調子を合わせてうなずいていたので、私はそのことには触れなかった。
「陳さんご夫妻は、お二人ともご友人が多いんですのよ。これもお人柄だと思います」
「ヨンさん、いえいえ、そんな……。でも、このお店も、友人たちに助けられて始めることができましたし、今も彼らのおかげでこのお店が繁盛しているのは間違いありません」
たしかに、この夫妻は一見しただけで、他人をひきつける魅力があるのがわかる。香港人のビジネスマンによく見られるような、何かに追われて仕事をしているような落ち着きのなさは微塵も感じられないし、立ち居振る舞いも自然で優雅な感じがする。