『交渉・説得・プレゼンに自信がつく 話し方上手になる本』
[著]高嶌幸広
[発行]PHP研究所
「ツルだって“離婚”も“再婚”もする」
こう言うのは、ツル研究家の西田智氏である。仲のいい夫婦のたとえとされ、一度ペアリングすると仲むつまじく、生涯一羽の相手に添い遂げるものとされてきたツルも、実際は離婚、再婚をしていることが、西田氏の三十年来の研究でわかったのである。
ツルは、昔から「比翼の鳥」の象徴とされ、結婚式には欠かせない存在だった。しかしながら、「生涯夫婦」は人間が考えた通説だったのである。ツルは、一見しただけでは、個体の識別は不可能であり、雄雌さえわからない。そのために、われわれが勝手に、「ツルは生涯夫婦」を決め込んでいただけだったというわけなのである。
われわれは、よく通説を鵜呑みにし、疑うことをしない。サラリーマン社会では、「いい学校を出て、そこそこに仕事をしていれば管理職になれ、不況がきてもリストラの対象とはならない」との通説があった。われわれは、年功序列や終身雇用制を永久に続くものと、勝手に決め込んで安心しきっていたのである。
ある企業で、有名大学を出たにもかかわらず、リストラにあった人がいる。仮にAさんとしておこう。Aさんは、いい学校を出て、そこそこに仕事をしていれば、管理職になれた典型であった。朝の通勤電車の中ではスポーツ新聞を読み、帰りの電車の中では漫画本を読み耽る。土日は、テレビを見ながらゴロ寝で、家族からは粗大ゴミ扱いの邪魔者である。会社では、自らほとんど提案をしないし、部下から提案があっても、前例がないといってはそれを却下する。上からの指示がなければ、何も変えようとはしない、リスクを負わない、変化を望まない典型的な「ぶら下がり族」なのである。
Aさんは、努力をしなくても、いい学校を出ていさえすれば、会社は悪いようにはしないと勝手に思い込んでいた。だから、専門能力をつけようとはしなかった。こんなAさんが、管理職になれたのは、企業は何もしなくても儲かっていた時代であり、当時は経営者もこれほどまでに厳しい現実に直面するとは、思ってもみなかったからである。
しかし、経営環境の変化のスピードがますます速くなり、かつ大規模になっている現在、企業としてはこの激変に対応していかなければ生き残れない。企業は、もはやAさんのような役立たずの「ぶら下がり族」を抱えておく余裕はなく、貢献しない者には去ってもらうしかないのである。
こうして、Aさんはリストラと相成った。サラリーマンにとって、古きよき時代はすでに終わり、受難の時代を迎えたのである。
いま、企業が求める人材像は、戦略的な思考を持ち、その実現のために積極的に行動をする「戦略実行型ビジネスマン」なのである。この「戦略実行型ビジネスマン」をもう少し具体的に言えば、上司、同僚、部下、お客様との良好なコミュニケーションを図りながら、戦略思考によりビジョンやコンセプトをつくり出す。そして、それをわかりやすくプレゼンテーションし、みんなのベクトルを揃え、速やかに実行に移し、実現させる人物なのである。
そのためには、自分の思いを正確に、そしてわかりやすく相手に届ける能力が、大きくクローズアップされてくる。それは、一対一の対話や少人数のグループでの討論や発表といったプレゼンテーションであったり、大勢を前にしてのスピーチなどの話し方なのである。上手なコミュニケーションができない人は、「戦略実行型ビジネスマン」にはなれないのである。
時代は、「戦略実行型ビジネスマン」を求めているのである。