この本は、日本という国の、昭和という時代の最後に繰り広げられた巨大な祝祭の記録である。一九八九(昭和六十四)年の一月に「昭和」はその幕を閉じたわけだが、前年の一九八八年からの一年間は本当にすごかった。巨大な祝祭空間である東京ドームや舞浜リゾートが忽然とその姿を現わし、世界一のリングリング・サーカス、ラスベガスで最高人気のシークフリード&ロイが来日した。「オペラ座の怪人」の大ヒットによって、オペラ・ブームが到来し、「バベットの晩餐会」でグルメ・ブームも頂点に達した。夏にはお隣りの韓国でソウル・オリンピックが開かれ、史上最大の規模となった。その頃、日本ではすさまじい博覧会ラッシュがスタートし、映画の原点といわれるグリフィス監督の「イントレランス」が日本武道館で開かれた。そしてついには、オリエント急行やクイーン・エリザベス二世号までもが日本にやって来た。
わずか一年の間に繰り広げられたこれらの「遊び」が昭和のフィナーレを飾ったわけである。もちろん、この時期がバブル経済のピークであり、日本全国が浮かれていたということも言えるだろう。これらの「遊び」もそんな浮わついた気分の産物だとみる人もいるだろう。しかし、ぼくがこの本で描きたかったのは、人間を幸福にする仕掛けとしての「遊び」の本質のようなものだった。それは、「伊勢神宮とディズニーランド」という文章に最もよく表われているのではないかと思う。
ぼくは、あらゆる「遊び」は一つの目的地を目指していると考えている。本書にも出てくるが、「万教同根」という言葉がある。この世の様々な宗教は色々なことを言っているようだけれども、実は言いたいことは一つであって、根は同じ、目指すところも同じだという意味である。そこで、「万遊同根」ということも言えるのではないだろうか。つまり、行き着くところは「幸福」ということであって、ぼくの言葉を使うなら「ハートフル」ということになる。富士山の頂上に登るのには多くの道があるけれども、目的地は一つである。ディズニーランドで遊んでいるうちにハートフルになる人もいるし、すばらしい映画を観て、感動してハートフルになる人もいる。おいしいものを食べてハートフルになる人もいる。イベントやアートやスポーツだって、人をハートフルにできる。そしてぼくは、最も幸福な目的地のことを「ハートピア」と呼ぶ。ハートフルとは私的幸福であり、ハートピアとは公的幸福だと言ってもよい。真の心の理想郷は、私的幸福たる「ハートフル」と公的幸福たる「ハートピア」が調和した時に初めて生まれる。そして、その最初の仕掛けになるものこそが、「遊び」なのである。
最後に、本書の解説をこころよく引き受けて下さった谷口正和氏、文庫化を気持ちよく許して下さった東急エージェンシー出版事業部の方々、そして色々とお世話になりましたPHP研究所の大越昌宏氏に心よりお礼を申し上げます。
一九九一年六月一条真也