『カラー写真・決定版 第二次世界大戦「戦闘機」列伝』
[著]三野正洋
[発行]PHP研究所
複葉機が登場した四つの戦争
第一次世界大戦後しばらくのあいだ静かであった世界も、1930年代の中頃からにわかに混乱の兆しが生まれ始めていた。これはソ連を中心とした社会/共産主義の広がりと、それに対抗する別な形の全体主義/ファシズムの衝突である。
その最初の軋轢は、イベリア半島のスペインで生じた。
1:スペイン戦争
〇左寄りの共和国政府:社会主義者、共産主義者、無政府主義者(アナーキスト)の連合体であり、これに労働者、学生などが加わる。ソ連が支援
〇反政府国民戦線:フランコ軍、右派、中道右派、軍部、教会関係者、地主など。イタリア、ドイツが支援
このようにして勃発したスペイン戦争/内乱は、1936年7月から39年の3月まで続く。
戦力としては、共和国政府側45万名、反政府側60万名程度であった。
ソ連、イタリア、ドイツはそれぞれの側を支援し、義勇軍の名目ではあったが、実質的には正規軍を送り込んでいる。
またこれに対してイギリス、アメリカは不干渉の態度であった。
最初の2年間、両者は激しく戦い続けたが、戦線は膠着状態であった。しかし理由ははっきりしないものの、38年の夏、突然ソ連が援助を中止し、その軍隊もスペインを離れた。こうなると戦局は大きく動き、翌年春、共和国政府は降伏する。また左派勢力の内部では、共産主義者と無政府主義者の衝突が頻発し、自己の戦力を大きく削ぐ結果となった。
この戦争に参加した戦闘機は
共和国軍:すべてソ連製のポリカルポフI‐15シリーズ 最新式のI‐16
反政府軍:イタリア製のフィアットCR32、CR42、G50
ドイツ製のハインケルHe51、メッサーシュミットBf109
であった。機数としては両軍とも延べ数で1000機程度と思われる。
緒戦当時、フランコ軍の主力はHe51で、空中戦以外に小型爆弾を抱えて地上攻撃に活躍した。ところがまもなくI‐15が登場すると、すぐに性能不足を露呈する。CR32、42についても状況は変わらなかった。
さらに単葉のI‐16が大量に送り込まれ、地上戦では有利であったフランコ軍も空中では完全に圧倒される。イタリアの新鋭機G50でさえ、小さな機体に1000馬力という大出力エンジンを装備したI‐16には歯が立たなかった。
これに衝撃を受けたドイツの派遣部隊コンドル軍団は、就役し始めたばかりのBf109を送り込み、一挙に戦局を挽回する。
2:ソ連・フィンランド戦争