『カラー写真・決定版 第二次世界大戦「戦闘機」列伝』
[著]三野正洋
[発行]PHP研究所
総論 正当に評価されない国力と技術
この章では現ロシアを、旧ソ連として記述する。初めに強調しておきたいのは、当時のソ連の国力と技術力である。1935年頃からこの国は、軍部の勢力争いで揺れに揺れた。独裁者スターリンが、軍部の一部勢力を反革命、親独派と決めつけたことから、処刑、投獄、僻地への送り込みなど、史上最悪の混乱となった。ソ連・フィンランド戦争の個所でも記述したが、軍人をはじめ家族まで次々と処刑し、国全体が恐怖に打ち震える状態に陥った。
ナチス・ドイツのヒトラー総統は、この現実を前に同国の崩壊はまもないと判断。1941年6月に、全面的な侵攻に踏み切る。これによりこれまで人類が経験したことのない、大規模な地上戦が勃発するのであった。
このような歴史の基礎知識を把握したうえで、ソ連空軍とその戦闘機について記述する。
最初に次の諸点を明らかにしておきたい。
〇前述のごとく、ソ連は国内の大混乱の余波がおさまらないうちにドイツの侵攻を迎えてしまった。
〇我が国と同様、欧米の人々の大多数は共産主義、秘密主義、先の大粛清などから、ソ連への嫌悪感を持ち続けていた。
〇そしてその感情から、ソ連の国力、技術力を高くに評価したがらない傾向にある。とくにその秘密主義は異常であって、当時の軍用機の鮮明な写真さえ公開されておらず、このためたとえ評価したとしても低くならざるを得なかった。
しかし、最近の資料をもとに調べていくと、同国の先に触れた国力ならびに技術力の大きさがはっきりと理解できる。
さてドイツとの戦争は独ソ戦と呼ばれ、ドイツ対イギリス、アメリカとの戦いとはまったく違った形となっている。
大規模な上陸作戦、都市、工業地帯への大型爆撃機を大量に投入した戦略爆撃などとは無縁で、はじめから終わりまで地上戦が中心であった。つまり戦線の拡大、敵地上軍の撃滅が目的で、航空戦の大部分は徹底的な対地協力と敵軍への妨害に終始した。この意味から、ソ連空軍における戦闘機の価値の重要性が強調されるのである。さらに次のような共通点が見られる。
〇航続性能を重視せず、軽量、小型でその分運動性に優れる。