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第十二章―靖国神社参拝問題

『大地の咆哮(ほうこう)』
[著]杉本信行 [発行]PHP研究所


読了目安時間:21分
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★中国政府が抱える火種

 〇五年四月の初旬から中旬にかけて中国各地で反日デモが吹き荒れ、日本の在外公館および日本関連企業が激しい投石に遭った。中国側は、小泉総理による靖国神社への参拝が中国人の感情を傷つけ、デモの要因になっていると繰り返し主張した。靖国神社参拝問題がその一つであることは否定できない。

 なぜ中国側が日本の総理大臣の靖国神社参拝にあれほど反発するのか。私はマスコミを含めて日本側はきちんと理解できていないのではないか、という隔靴(かつかそうよう)の思いを禁じえないでいる。
「選挙で選ばれた日本国民の代表たる総理が、A級戦犯が合祀(ごうし)された靖国神社を参拝してはならない」

 中国側の主張は明確だ。A級戦犯が(まつ)られている神社への日本国総理による参拝が、日中国交正常化の前提を崩すものであると考えているからである。

 国のために戦った兵士をその国の最高指導者が慰霊すること自体は、中国共産党の指導者たちも理解を示しており、何ら批判的な意見を述べていない。少なくとも現状では、B・C級戦犯について問題にする動きもない。

 中国がA級戦犯にこだわる理由は、七二年の日中国交正常化の際、当時の中国国民には認め難い条件で交渉が進められたことと密接に結びついている。

 とくに賠償放棄は、戦争犠牲者の親族・縁者がまだ多く生き残っていた中国で、本来ならば国民の支持を得ることは難しい問題だった。

 しかし当時は、毛沢東や周恩来といった強烈なカリスマ指導者がそれを可能にした。このとき周恩来が国内に向けて行った説得が、「先の日本軍による中国侵略は一部の軍国主義者が発動したものであり、大半の日本国民は中国人民同様被害者である」という理屈だった。

 この対中侵略を指導した「一部の軍国主義者」であるA級戦犯を首相が参拝するとなれば、「七二年当時の日中国交正常化のロジックが崩れてしまう」というのが中国側の主張である。

 つまり、靖国への首相の参拝を見過ごせば、国内向けに行ってきたこれまでの説明が破綻し、党・政府が苦しい立場に追いやられるというわけだ。

 さらに、先の戦争を発動したとして極東国際軍事裁判いわゆる東京裁判で判決を受けたA級戦犯が合祀されている靖国神社を参拝することは、中国側からすれば、東京裁判の判決を受け入れたサンフランシスコ平和条約一一条を(くつがえ)すことを意味するものであり、日本の過去の侵略行為を否定するのみならず美化・正当化する行為に等しいと映る。

 中国が国家賠償を放棄したのは、それなりに理由があった。恐らく賠償問題を解決しようとすれば、国内的な調整は不可能に近かっただろうし、それよりも賠償を放棄することで、日本に歴史的な負い目を抱かせて、後に国益に結びつけるほうが得策と考えたのだろう。それは小平の言葉にも表れている。

 日本のマスコミはほとんど取り上げていないが、私が危惧の念を抱くのは、じつは国家賠償問題についてである。

 現時点において、あからさまに国家賠償を求めよという声は上がっていないが、戦前中国に投資していた日本の海運会社や総合商社など民間企業に対して民間賠償を求める声は上がり始めている。中国人を日本に連れてきて強制労働させたゼネコンなどに対し、「われわれが受けた損害に対する賠償請求権については放棄したわけではない」と、九〇年代半ばから眠っていた日本企業に対する民間賠償訴訟が、再び提起され始めているのだ(なお、日本側の立場は「七二年の日中共同声明により処理済み」というものだ)。

 現在の日中政治関係の冷たさを考えると、これらの訴訟について、中国当局として原告敗訴にしにくい状況にあることは想像に難くない。日本企業側敗訴の判決がいったん出されれば、同様の訴訟が中国全土で燎原(りようげん)の火のごとく広がりかねないことが懸念される。
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