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晴れない うつ はないのです
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第1章 うつについてもっと知ろう

『晴れない うつ はないのです』
[著]高田明和 [発行]すばる舎


読了目安時間:20分
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1章 うつについてもっと知ろう
2章 脳は変化もすれば、回復もする
3章 うつに効く伝達物質の話

●どうして、うつになるの?


 最近、うつに悩み、苦しむ人の多さに驚かされます。とくに30代、40代という働き盛りのサラリーマンに、うつ病患者が増えつつあります。

 自分はリストラされないだろうか、会社でうまくやっていけるだろうかなどと悩み、うつになってしまう人がたくさんいます。

 このような“うつの増加現象”は、時間に追いまくられ、ストレスが多いとされる東京のような大都会だけのことではありません。農村や漁村のように、都会人からすると、牧歌的な風景の中で生活している人たちの間にも広まっています。

 私が地方に講演に行くと、うつになった人の話をよく聞きます。町や村の役場や市役所などの職員の方が、「同期の同僚が突然うつになった。それまでまったく悩んでいるそぶりも見えなかった人だったのに……」という話をされたり、中学生のお子さんを持つ親御さんから「担任の若い先生がうつを理由に突然休職してしまった。先生が不登校になるなんて……」という話を聞いたりします。

 気になるデータがあります。うつによって起こりやすいとされる自殺の発生率が、ここ数年、高いレベルを保っていることです。

 1997年まで年間2万5000人以下だった自殺者の数が、1998年には3万2000人を越し、その後同じくらいの水準を保っています(2005年には3万2552人)。東京では人身事故で、中央線や常磐線などがたびたび運行しなくなっています。

 世間では、自殺はどのようにとらえられているのでしょうか。

 569人の男女を対象に、自殺が多い理由をたずねたアンケート(複数回答)によると、「人間関係が冷たい」が第一位になっています。さらに半数以上にのぼる第二位は、「命の大切さや生きる意味が見失われている」で、40%くらいの人が「将来に希望が持てない」、「経済格差のせい」をあげています。


 自殺やうつ病の原因を特定するのは困難ですが、現代の競争社会の行きすぎが助長していることは間違いないようです。


 新聞や雑誌などのうつ病の特集などから、いくつか例をあげてみましょう。

1 Aさん(男性・40代)

 Aさんはヘッドハンティングされて、全国規模で店舗展開する外食産業の幹部として招かれました。新規メニューの開発で着任早々、能力を発揮し、社内でもよい評判を得て、当初は順風満帆のすべり出しでした。

 ところが彼を引き抜いた当事者であるワンマン社長と、ささいなことから対立するようになり、しだいに悩む日が多くなってしまいました。

 それにともなって全身の疲労、頭痛やめまい、下痢などの症状を示すようになり、それまでとは別人のように仕事に対する意欲が低下。集中力も維持できなくなりました。

 会社は社内の産業医に診察を受けるようにAさんに指導しました。

 その産業医は、ストレスによる「うつ病性障害」と診断し、産業医から内々に報告を受けた人事課は、彼の配置転換を決めました。

 配置転換といっても、なかば左遷のような地方への転勤でした。しばらく東京から離れたほうがAさんのためになるということでの決定だったのですが、Aさんにはまったくの逆効果でした。

 異動後、Aさんは自殺のことばかり考えるようになったといいます。
「すでに自殺の下見で確実に飛び降りたら死ねるビルを見つけてあります。いつ死んでもおかしくないですよ」と、転勤先で通うようになった新しい精神科の医師に述べていたそうです。

 最終的に彼は会社を辞めることになり、しばらく精神科の病院に入院することになりました。

2 Bさん(男性・30代)

 Bさんの場合は、上司の無神経な発言がうつを悪化させ、Aさんと同じように会社を辞めざるを得なかった例です。

 Bさんは家電の量販店に勤めていました。その職場は売り上げの競争が激しく、Bさんは、毎月の成績を見て一喜一憂する日が続きました。思いどおりの成績が出ても喜びは束の間、翌月はその成績を維持できるかと、不安や焦燥感が増し、不眠に悩むようになりました。

 会社の医務室で診てもらったところ、「軽度のうつ病」と診断されました。

 本来プライベートであるべき話なのですが、Aさんの場合と同じように社内の人に漏れました。

 宴会の席で上司は、「みんながんばっているのだから、お前もがんばれよ。うつ病なんてがんばれば治るんだろう」と言われたのです。

 そのときに「この話は部署の全員が知っているのだ」とBさんは直感したと言います。

 それからしばらくしてBさんも会社を辞めてしまいました。

3 C子さん(女性・30代)

 C子さんの場合は、うつ病が悪化して自殺してしまった例です。

 C子さんは派遣社員でした。ある中規模都市のインターネットのプロバイダー会社にオペレーターとして派遣勤務していました。

 顧客とのトラブルが原因で、派遣先の企業から叱責され、反省文を書かされたこと、さらに周囲の人との人間関係がうまくいかなかったことなどから、しだいに追い詰められていき、最後には遺書を残して自殺してしまいました。

 生前に、C子さんはうつ病の診断書を派遣先の会社に提出しています。

 しかし、そこには産業医がいたにもかかわらず、対策は講じられなかったようです。

 C子さんの死後に、家族が派遣先の企業に問い合わせをすると、反省文を書かせたことも否定したそうです。


 このように、会社の人間関係から追い詰められ、うつになるという場合も多いのですが、一方で、とくに問題があるわけでもないのに、「何となくやる気がしない」、「何をしてもおもしろくない」と無気力な状態になり、うつになる人も少なくありません。

 このような人も会社を辞めてしまい、働かなくなってしまいます。

4 D子さん(女性・20代)

 D子さんは大手の服飾メーカーにデザイナーの一員として就職しました。最初は希望する職に就けたということで、元気いっぱい、やる気満々で働いていました。

 ところが平日は同じような仕事内容で、土日もとくにすることがない日々が続きます。

 すると、しだいに何となく身体が疲れやすくなり、仕事をしたいという気持ちになれなくなりました。

 医師に診察してもらうと、うつ病ということで薬を処方されました。

 しかし、何をしてもおもしろくないという気持ちは(ふっ)(しょく)されません。

 D子さんは会社を辞めて、しばらく貯金を切り崩して生活するようになりました。彼女の両親も心配して彼女に送金します。

 その後、親の勧めで、外食のパートとして毎日数時間働くようになりましたが、身体は疲れやすく、おもしろくない日々が続いているそうです。


 このような例を見ると、漠然とした不安や生きがいの喪失、やる気の欠如などを含め、現代のいたるところに、うつ病的徴候がひたひたと蔓延しているようです。

 もしかしたらこの社会の中には、生きがいや喜びを見出せないようなしくみがあるのではないかとさえ思えてきます。

●うつ病って、どんな病気?


 そもそもうつ病とは、どのような病気なのでしょうか。

 昔は悩みすぎる人のことを“ノイローゼ(神経症)”と言っていました。

 最近、この言葉を聞かなくなったと思いませんか。

 ノイローゼは、20世紀初めに活躍した精神病理学者のジーグムント・フロイトによって名づけられた、精神の障害を言います。

 フロイトは精神分析という手法で、ノイローゼを治そうとしました。精神分析とは、心の奥にある無意識の欲望や願望などを自覚させて、その意識をゆがめないようにする方法です。とくにフロイトは、寝ているときに見る夢を深層心理が表出したものとして分析し、精神の障害を治そうとしたことで有名です。

 しかし効果が確定的でなく、徐々に彼の精神分析を否定する人が多くなり、フロイトの言い出したノイローゼという言葉も精神医学から除かれ、今ではうつ病に分類されるようになりました。

 現在では、うつ病は「気分障害」というカテゴリーに分類されています。ひらたく言えば、感情の障害です。

 気分障害もさらに「うつ病(単極性障害)」と「(そう)うつ病(双極性障害)」などに分けられますが、今問題にしているのは、高揚した気分と暗い気分を交互に繰り返す躁うつ病でなく、ずっと暗い気分に襲われるうつ病です。

●日本はうつ病になりやすい国?


 うつ病の発症には、さまざまな因子が関係しています。

 とくに社会的・文化的な背景は無視できません。

 ある社会のものの考え方、人間関係の築かれ方などが、そこに生活する人の感情や気分に大きな影響を与えるのです。

 ですから国によって文化的な下地は異なるので、生涯にうつ病になる人の割合も国によって異なってきます。

 たとえば米国では5%くらいと比較的少ないのですが、フランスは約16%、ドイツは約9%、イタリアは約12%と、いわゆる白色人種の国でもうつ病生涯()(かん)率に差があります。

 アジアはどうでしょうか。

 アジアの国々(地域)を比較すると、台湾は15%、韓国は25%前後が生涯罹患率です。日本では何と男性が約8%、女性が約15%もの高い率を示しています。(中国についてはうつ病のデータはありませんが、うつ病の一つの指針ともいえる自殺率が増加傾向にあり、問題になっています)

 単純に比較はできませんが、少なくともうつ病になる率は、アジアでは日本がダントツなのです。その意味では、日本はうつ病になりやすい国といえるでしょう。

●うつは遺伝するの?


 国ごとにうつ病の発症率が違うならば、うつと遺伝の関係が気になります。

 すなわち、うつは遺伝に関係するかどうかです。

 うつ病に遺伝的な傾向があるのは否定できません。

 英国の首相だったウィンストン・チャーチルは、激しいうつに悩まされていましたが、父もうつ病であっただけでなく、祖先の初代マールバラ家のジョン・チャーチルもうつ病だったという記録があります。

 米国でのうつ病の生涯罹患率は約5%と言いましたが、うつ病患者の親や兄弟、近親者での罹患率は約15%にはね上がります。

 明らかに、うつ病患者のいる家系には、うつ病の人が出やすいことになります。

 こうなると当然、うつ病の原因になる遺伝子が家族で受け継がれていると考えられ、この遺伝子を見つけようとする試みがなされます。

 このためには、先祖にどのような人がいたのか、はっきりわかる集団を見つけて調査する必要があります。

 そこで選ばれた集団の一つが、ペンシルバニア州に住むアーミッシュの集団です。

 スイスを原郷とするアーミッシュの集団は、生活の中に現代の機器や文明の利器といわれるものの導入を拒み、昔のままの生活様式を守っています。ハリソン・フォード主演の映画『刑事ジョン・ブック 目撃者』を見て、ご存じの方もおられるでしょう。

 彼らの中にも、うつ病の人や自殺した人がいます。そこで十分に家系を調査し、現存する親族の血液を採取し、そのDNAを調べて、うつ病の人に共通する遺伝子があるかを調べたのです。その結果は『ネイチャー』など一流の科学雑誌に報告されました。

 別の研究では、ユタ州のモルモン教徒の家系が調べられました。

 モルモン教は同じ宗派の人とのみ結婚が許され、その記録は州庁に長く保存されています。この人たちの中からうつ病の人や自殺した人を探し出し、そこに共通する遺伝子を探れば、うつ病の遺伝子がわかると考えられたのです。

 この遺伝子の探索の競争は激しいものでした。そしてついに、ノーベル賞をもらったデービッド・ボルチモアという学者が、「うつの遺伝子が見つかった」という発表を『ネイチャー』に掲載したのです。

 ところが後の研究で、この発表は間違いであることがわかりました。

 なぜこんな間違いが起こるのでしょうか。

 それはうつ病の診断が難しく、またうつ病が多くの心の病の総称で、一つの疾患ではないからです。

 たとえば血友病の場合には、第八因子という特定の遺伝子が欠如していることがわかっています。つまり、異常な血液タンパクを持つ人を調べれば、遺伝子は容易に見つかるのです。

 ところがうつ病の場合には、このような一つの因子で起こるわけではありませんから、その結果、見つけた遺伝子も間違いということになってしまうのです。

 このようにうつ病は、遺伝的要因が強いにもかかわらず、いまだに特定の遺伝子は見つかっていないのです。

●うつを引き起こすストレスホルモン


 では、うつ病を引き起こす遺伝子以外の要因とは何でしょうか。

 ストレスが要因の一つであることは間違いないでしょう。

 しかし同じようなストレスを受けても、うつになる人とならない人がいます。

 その理由として、ある種の遺伝的な素質(内的要因)を持っている人にストレス(外的要因)が加わると、うつ病になるという考えが注目されています。

 私たちはストレスを受けると、副腎皮質(腎臓の隣にある副腎のうちの表層部分)というところから、ストレスホルモンといわれるコルチゾルが出ます。

 そのしくみを少し説明しましょう。

 もともと古代人や、その祖先である動物にとって、ストレスは肉体的な恐怖を引き起こすものでした。自分より大きな動物を倒して食料にする場合とか、手負いの猪に追いかけられた場合などです。また近くの種族に闘いを挑まれた場合も、強い恐怖心を感じます。

 このようなときには、闘うか逃げるかしかありません。どちらの場合でも、いつもよりよけいに筋肉を使うことになります。

 筋肉の運動にとって、もっとも効果的な栄養源はブドウ糖です。

 血中のブドウ糖を急速に高め、最大限、筋肉を使えるようにしなければいけません。生きるか死ぬかの状況なのですから。その際、血中のブドウ糖濃度を高め、筋肉を十二分に働かせる準備指令を出すのがコルチゾルです。

 この最初の指令は、視床下部(間脳と呼ばれる脳の一部)が送ります。

 視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンCRH)というホルモンが出され、このCRHが下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を放出させ、さらにこれが副腎皮質に作用してコルチゾルを出させるのです。

 視床下部は小指の先くらいの大きさですが、そこに生存に必要な多くの指令を出す場所があります。

 そこでは睡眠や体温、渇き、食欲、生殖などの本能を司っています。

 睡眠や体温の調節は視床下部からの神経の刺激で行われますが、渇きや食欲、性欲、そしてストレス反応はホルモンによります。

 渇きはアンギオテンシンというホルモン、食欲はペプチドなど、性欲は性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)によります。

 ストレス反応はCRHによるのです

 じつはCRHは、脳の感情を支配する部位に直接作用するのです。

●不安な気持ちは、脳のどこから生じるの?


 ここでできるだけわかりやすく、うつ病に関係する脳の場所を説明しておきます。

 私たちの脳(大脳)は、大きく二つに分かれます。

 一つは大脳皮質、もう一つは大脳(へん)(えん)(けい)です。

 大脳の外側をとりまくように覆っているのが大脳皮質と呼ばれる部分です。大体46ミリメートルくらいの厚さの層に、約150億の神経細胞があります。この神経細胞から長い突起や短い突起が出て、脳のほかの部位の神経細胞とつながって情報のやりとりをしています。

 大脳皮質の中でも、役割分担があります。大きく四つの領域(“前”と“後ろ”、“てっぺん”と“両サイド”)に分けられます。

 前のほうが前頭葉で、そのうちでもさらに前のほうが(ぜん)(とう)前野(ぜんや)です。

 一方、前頭葉の後ろのほうは(うん)(どう)()といい、手足を動かす命令を出しています。

 前頭前野にもいろいろな役割が分担されており、左の下のほうに言語中枢があります。前頭前野の前のほうには記憶、注意力、総合判断、脳のほかの部位の機能の調節などをする場所があります。

 頭の上のほうは頭頂葉といいます。

 頭頂葉の前のほうには、(たい)(せい)(かん)(かく)()があります。ここでは手足の感覚(痛み、触覚など)が感じられます。頭頂葉の後ろのほうには場所の感覚、どこにいるかの感覚を司る場所があります。

 脳の後ろのほう、後頭葉には()(かく)()があり、ここに目から入った光景が映ります。

 後頭葉の前のほうには視覚野に入った光景の色、運動の方向などを認識する場所があります。

 頭の横のほうには側頭葉があります。ここには(ちょう)(かく)()があり、耳から入った音、声を聞きます。また言葉を理解するウエルニッケ中枢(聴覚性言語中枢)という部位がすぐ後ろにあります。



 聴覚野の下のほうには、見たものを理解する部位や記憶する部位があります。顔に反応する(かお)(さい)(ぼう)があります。また人の名前や経歴を覚えているのもここです。

 このように大脳の外側にある大脳皮質は、運動と感覚を司っているのです。

 そしてその相互の働きの全体を総合しているのが、前頭前野だということも覚えておくとよいでしょう。

 それでは、感情は脳のどこの部分が司るのでしょうか。

 大脳の真ん中あたりに視床下部をとりまくように存在するのが大脳辺縁系です。この代表が(へん)(とう)(かい)()(たい)(じょう)(かい)です。



 桃は「感情の場」と言われ、ここで怒り、憎しみ、喜びなどを感じます。ここを刺激すると、何でもないのに突然怒りだすことがあります。一方、ここを除去すると、怒りなどを感じない柔和な性質になります。

 海馬は「記憶の入り口」です。一時的に覚えた人の名前などを永久に覚えているように変える場所です。

 ここが障害されると、一時的にはものごとを覚えているのですが、時間が経つとすぐに忘れてしまいます。つまり記憶が長期のものにならないのです。

 またここも、感情を調節するのに必要とされます。

 さらに海馬は空間を認知する機能もあり、ここに障害があると、自分のいる場所や位置がわからなくなります。

 帯状回は視床下部の上のほうにあります。ここは「感情をまとめる場所」とされます。ここが過度に刺激されると、不安や恐怖がかきたてられます。

 うつ病の人や不安神経症の人は、この場所がいつも興奮しているような状態になっています。

 もう一つ、帯状回の重要な点は、「感情と判断の連絡場所」であるということ。外界に起こったことをどう解釈してそれを感情に変えるか、またその感情をどう判断するかを司る場所でもあるのです。

 ですから帯状回が、外界の出来事の判断を間違うと、心を苦しめるような感情が生まれてしまいます。怒りや憎しみ、不安、恐怖などは、外界の出来事をどのように解釈するかで、強く感じたり気にならなかったりします。

 つまり、「感情と判断の連絡場所」である帯状回が外界の出来事について理解したことをいかに「感情の場」である桃に伝えるかが、私たちの感情や気分のあり方を決めているのです。

 そして、これら辺縁系が異常に興奮しないように抑えているのが、前に述べた前頭前野です。

 年をとって前頭前野の働きが弱まると、怒りを抑えられず、すぐに怒りが爆発するような性質になります。「ウチのオトーサンは年をとってから、短気になった」というのはそのせいです。

 また、ストレスが強くなるとCRHというホルモンが出ると言いましたが、これはコルチゾルを出すという作用のほかに、直接辺縁系を刺激して、不安や心配を強めます。また前頭前野の働きを抑え、やる気などをなくさせます。

 繰り返しますが、うつ病の発症は、ストレスを受けたときに出るCRHを介して起こるということを理解しておきましょう。

●うつになるのは左右どちらの脳?


 うつ病は脳に関係することがわかり、20世紀には、脳にさまざまな刺激などを与えて、うつを治そうとしました。

 その一つが電気ショックです。

 脳に電気ショックを与えると、うつ病の症状がなくなることが発見されたのです。

 ちょっとショッキングな話かもしれませんが、この電気ショック療法は、現在も使われています。理由はいまだにわかっていないのですが、あらゆる治療で治せない重度のうつ病患者が、電気ショック療法で治ることが多いのです。

 電気ショックを与えると、患者は激しくけいれんし、時に(せき)(つい)や骨盤などが骨折してしまいます。このため、非常に残忍な治療法として批判されています。最近では筋弛緩剤を用いて骨折を防ぐことができますが、それでも非人間的と思われる反応のために批判は絶えません。

 しかしこの電気ショックに関連して、最近、興味深い発見がされました。

 それは前頭前野の活動です。

 脳には、右脳と左脳があることはご存じだと思いますが、じつはうつ病になると、右の前頭前野の活動が高まるのです。一方、左の前頭前野の活動が高まると、楽天的になります。

 もし左脳が(のう)(こう)(そく)になると、楽天的な脳が障害を受けますから、うつ状態になります。

 実際、左脳が脳梗塞の人は、自分の病気の将来を悲観的に考えることが多く、右脳の脳梗塞では、うつの脳が障害されますから、非常に楽天的になるのです。

 興味深いのは赤ちゃんです。お母さんがうつになると、お母さんの右脳の活動が高まるだけでなく、赤ちゃんの右脳の活動が高まります。つまり子どももうつの症状を呈するのです。

 最近()(がい)の外に磁気を与え、脳内に電気を起こそうとする、反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)が開発されました。これは頭蓋の外から脳内を刺激できる方法です。

 これを用いて左脳を刺激すると、うつ状態が改善されることがわかったのです。

 このようにうつ病は現在、その原因といわれる脳の研究が盛んに行われています。また同時に脳に注目した治療法が次々と開発されているのです。

COLUMN
●昔は、うつ病はどう見られていたの?


 驚くべきことに、うつ病の治療については、紀元前の古代ギリシアにまでさかのぼることができます。

 医学の祖といわれるヒポクラテスは、うつ病を「脳の病気である」と主張し、薬の作用で治療すべきとしました。

 じつはヒポクラテスのこの説が、「感情は物質で支配される」という現代の考えの基本になっているのです。

 しかし中世では、うつ病は、救済という幸福を神から知らせてもらえない、神に(うと)まれた証拠と見なされました。うつ病が恥ずべきものと考えられるようになったのは、このころです。極端な場合、うつ病は異教徒扱いをされました。

 ルネッサンス時代では、うつ病はもっとロマン主義的にとらえられ、うつ病は洞察力を高めることの代償であり、感情の(もろ)さは芸術的直感と考えられました。

 20世紀になって、うつ病はフロイトによりノイローゼと診断され、精神分析で治るとされました。

 さて再度、ヒポクラテスの話に戻りますと、彼は脳の異常がうつ病の原因としました。

 彼は、「昼となく夜となく、人間を狂わせたり興奮させたりするもの、畏怖や恐怖をいだかせるもの、不眠をもたらし、誤りを犯させ、漠然とした不安を引き起こし、放心を招き、習慣に反した行動をとらせるもの、それは脳だ」と言っています。

 ヒポクラテスは、病気が体液の量や分布の異常によって起こると考えました。彼は、黒色胆汁が多くなることが、メランコリー、つまりうつ病の原因としたのです。

 さらに彼は、うつ病の原因を素質かトラウマ(今でいうストレス)であると推察しています。

 また秋になると、メランコリーの原因になる黒色胆汁が増して、悲しみや不安、悲嘆、意気消沈、自殺志向などの気持ちがわき起こるとしました。

 秋になる、つまり日照時間が減ると、うつが誘発されるという考えは、今でも正しいです。

 ヒポクラテスは、当時の万能薬とされていた、マンドレーク(別名マンドラゴラ)というナス科の植物を薬として用いました。マンドレークには強い催眠や鎮痛作用があります。

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