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眠る前5分で読める心がほっとするいい話
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ルポ・エッセイ
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プロポーズに立ち会ってください!

『眠る前5分で読める心がほっとするいい話』
[著]志賀内泰弘 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:5分
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 大阪にダイヤモンドジュエリー専門の「カオキ」というお店があります。著名なジュエリーメーカーの、㈱丸善がサポートしているお店です。


 その店の店長・(くら)(だて)和之さんからうかがったお話です。



 藏立店長には尊敬する先輩がいました。この先輩もジュエリーショップの店長をしています。先輩の売上は常にトップ。毎月毎月、目標を達成し、次々に記録を更新しています。


 ある日のことです。


 閉店10分前の午後6時50分に、ひとりの男性客がお店に入ってきました。


 その日は、どうしたことか売上がゼロ。

「これで記録達成も終わりか……」とあきらめていた矢先のことでした。


 店長は、部下に「頑張ってこいよ!」と背中をたたいて接客に向かわせました。


 ところが、その男性のお客様は、なにを話しかけても返事をされません。

「なにかご希望のものがございましたら、相談させていただきます」


 と言っても、店内のケースをぐるぐる回って見ているだけでした。


 部下は自信をなくして、バックヤードの店長のところに戻ってきました。


 店長は、「よし、俺の腕を見ておけ」と言い、勇んで店頭に出て行きました。



 店長は必死になって話しかけました。記録のこともありますが、部下への手前もあり、熱がこもります。


 すると、お客様はポツリポツリと事情を話し始めたのでした。


 その日、朝から一日中、男性は市内の宝石店を30店舗も歩きまわったそうです。


 探していたのは、2号サイズの婚約指輪。


 しかし、どのお店でも口をそろえたように、

「お時間をいただければ……」

「サイズ直しに2~3週間かかります」


 と言われてしまいました。

「でも、今日、指輪が欲しいんです」


 お客様はそうおっしゃったのでした。

(そんな小さなものはないだろう)


 そう思いつつも、店長は、倉庫に行き、探しまくりました。閉店の時間はとうに過ぎていました。

「ありました!」


 それを見て、男性はものすごく喜んでくれました。



 店長は、売上ゼロを回避でき、部下への面目も立ったので内心ホクホクでした。


 男性は、店長にこう言いました。

「あなただけが、私の無理な願いを聞きとどけてくれました。あなたのことが好きになりました。ひとつお願いがあります。今から彼女にプロポーズしに行くのですが、立ち会っていただけませんか」


 店長は、そんな光栄なことはないと、同行することになりました。


 男性の車に同乗して、夜の街を走ります。


 そのあいだ、男性はまたまた、一言もしゃべりません。


 一流ホテルに近づくと、

「あそこのレストランですか?」


 店長がそう聞いても、黙ったまま。ホテルの前を通り過ぎました。

「あっ! 夜景の見えるお店ですね」


 などと何度も話しかけますが、ハンドルを握ったまま沈黙が続きました。



 やがて……到着したのは、大きな病院でした。このとき、店長は、ようやく事の重大さに気づきました。2号サイズといえば、いくら女性だからとはいえ小さすぎます。

(相手の女性は病気で入院しているのだ。それなのに自分は、その日の売上を達成したことしか頭になかった)


 恥ずかしくなり、なにも話すことができなくなりました。



 午後9時。まっくらな待合室を通り抜けて、エレベーターでフロアを上がります。


 またまた、店長はとまどいました。行先は病棟ではなかったのです。


 病院に着いたとき、店長はひとつのイメージを頭に思い浮かべていました。病室のベッドの横で、彼女にプロポーズするシーンです。


 ところが……。



 その扉の前には、「ICU」と書かれていました。そう、集中治療室です。


 男性の後につづき、店長は部屋の中へ入りました。


 女性の身体には、何十本もの管がつながれているのが見えました。


 そこで、男性が口を開きました。

「店長さん、ここまで来てくださりありがとうございます。


 じつは、今朝、病院にきたら先生にこう言われました。


 彼女の命は今日一日かもしれないと。


 そこでハッと気づいたんです。まだ彼女にきちんとプロポーズをしていなかったと。


 それで、なんとか手に入れたいと思って、宝石店を探しまわったんです。


 店長さんだけが、僕の思いを叶えてくれました。ありがとうございます」


 店長は、売上のことばかり考えていたことを、ますます恥ずかしく思いました。


「今からプロポーズするので、見ていてください」


 そう言うと、男性は彼女の手を取り、薬指に指輪をはめました。彼女の指は、以前は9号のサイズだったそうです。それが2号にまでやつれてしまっていたのでした。

「僕と結婚しよう」


 そのときでした。


 意識がないはずの彼女の目から、一筋の涙が糸を引くように(ほお)にこぼれ落ちました。


 さらに、かすかにではありますが、彼女がコクリと頷いたかのように、ふたりには見えたのです。



 店長は、その日を境にして生まれ変わったそうです。


 お客様の背景にはさまざまなドラマがある。


 自分は、お客様の人生を左右するプロポーズのお手伝いをしているのだ。なんて素晴らしい仕事に携わっているのだろう。


 売上が目的ではない。お客様に喜んでいただくことが一番大切なことなのだ。



 その後、先輩は、ますますお客様に愛される店長になったそうです。

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