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第7章 東日本大震災で農業は滅びるのか

『農業で稼ぐ! 経済学』
[著]浅川芳裕 [著] 飯田泰之 [発行]PHP研究所


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マーケットメカニズムは毎日働いている
【対談】
浅川芳裕
飯田泰之


 浅川 東日本大震災が起こった「3・11」の翌日、北海道と九州の農家から電話がかかってきたんです。何かと思ったら、「浅川さん、いまから何をつくったらいい?」と。東北の減産を見込んで、すでに動きを始めている。これには驚きました。

 農業もマーケットメカニズムが毎日、全国のどこかで働いているわけです。それは大震災のような非常時に限ったことではない。たとえば仮に西日本で大雨が続き出荷が滞った時期があれば、東日本の生産農家が代わりに供給する、というのは、じつは年間365日を通じて、起こっていることです。

 飯田 「3・11」の震災に襲われた地域のなかにも、かなり濃淡があるように思われます。重被災地を抱える3県もひと括りにはできない。さらに市町村単位で見ても、沿岸部は被害にあったが、後背地は無傷というところはけっこうあります。市街壊滅といわれた場所でも、車で5分ほど離れると店舗は開いている。実際に農家の方のお話を伺っても、その実際の被害はさまざまです。農地の荒廃によって収入の途を完全に絶たれてしまった方もいますし、もともと農業収入はあてにしていないという方もいる。

 被災地域の農家はいま2つの選択に迫られています。もう一度農地を整備して耕作を再開するか、離農するかです。農地改良にはもちろん補助金がつくでしょうが、それですべてがカバーできるわけではありません。さらには気力の問題もある。その結果、作物を育てて売って生活をしているわけではない「擬似農家」は、同地域では減るでしょう。

 問題は、同地域の農業を支えてきた専業農家の去就についてです。じつは副業農家以上に、専業農家のほうが転職しかねないのではないかと私は思う。
「農業もビジネスである」という観点で考えると、専業農家として農業に携わる人は転職したとしてもやっていけるんですよ。農業をしていた人が他の仕事に向いていないと思っている人がいますが、それは大間違いです。重機の運転ができ、体力もある。複数の作物をつくってきた農家の人は、作物や食品に関する知識が広く深い。

 さらに、直接販売をしている人はマーケティングの能力まである。サラリーマンと比べたら、はるかに汎用性の高いビジネススキルをもっているわけです。彼らに過度の負担がかかると、能力が高いゆえに離農してしまうかもしれない。

 今後の被災地域の復興で重要なのは、「元に戻す」のではなく「発展させる」という視点です。たんにいままで通り農業を続けられるようにすることに対して補助金を出すのではなく、今後より多くの収益を上げていける農家に補助金を出すことです。ほとんど商品が出荷されない副次的農家に、区画整理や土地改良を施しても意味はない。それならば給付金による農地買い上げによって離農を促したほうがよいくらいです。

 浅川 これまでも「土地改良貧乏」というのがあって、国が生産意欲のない農家にまで土地改良を行なってしまったばかりに、5%から10%の自己負担分に苦しみつづけて年金も償還金返済に使う、という悲劇的なケースがあります。

 飯田 借金に関していうと、政府保証をつけて低利で調達した借金ならば、ちゃんと返済し利益を出していけるという農家は多いと聞きます。

かつての共産主義国の様


 浅川 農林水産省は大震災後、県別の被害額をいち早く試算しました。

 飯田 今回の復旧プロセスで最も動きが速かったのは国土交通省ですが、その次は農林水産省でしょうね。食料危機を喧伝したのと同様に、「危機的状況だ」といって予算を取ろうとしているのかもしれませんが。

 けれども問題は、農地被害額のうち、どれだけが農業で生計を立てている世帯だったのか、そして商業的に黒字の農家だったのか、という点です。恒常的に補助金をつけなければ立ちゆかない、そして、農業で生活しているわけでもない「農家」を再生してもしようがない。

 浅川 一方、都市部ではコメの買いだめが起きました。鹿野道彦農水相は3月16日、「国内には十分なお米があります」「民間在庫に十分な余裕があるうえ、政府の保有する備蓄米をいつでも放出する用意がある」と発表した。この大臣会見のあと、農水省はどんな行動をとったのか、明かしましょう。

 農政事務所は各地のコメ屋さんを巡回して、売り惜しみがないか、マニュアル通り査察に回ったのです。おかしな話でしょう。お客さんが「コメが欲しい」とお店に殺到しているのだから、誰がわざわざ売り惜しみをするでしょうか。農水省のマニュアル上では、食べ物が足りない被災者の救済より、食料危機を煽ることができるコメ業者の統制のほうが大事なんです。査察を受けたあるコメ屋さんは「東北の地震に便乗して、官僚が休日手当目当てに馬鹿な仕事をしようとしている。国家の非常事態で、今後どれだけの予算を工面しなくてはならないかというときに、このような無駄な仕事を作り出して国民の税金をまき上げようとしている」と憤慨していました。ひどい話です。

 飯田 メディアでも当初「食料危機説」まっさかりで、僕自身も心配になったくらいですから。それにしても「統制計画」の「墨守」は官僚制度の大きな問題です。目の前の問題解決よりも「マニュアル達成」が重要視されるというのは、かつての共産主義国の様相です。

 浅川 東日本大震災による被害は大きく分けて塩害と液状化などの農地被害、水路、施設などのインフラ損壊、そして放射性物質の3つです。

 飯田 あと、私が長野県栄村大震災の被災地で目にしたのは、用水路が完全に寸断されてしまい、上流から滝のように水が流れ出している光景でした。農地そのものではなく、その周辺設備の被害ですね。さらに液状化は表面だけでは被害程度がわかりませんから、コスト計算が難しい。

 浅川 試算によれば、大震災の農地および農業用施設の被害額は6806億円。日本全体の農業インフラ投資額(農業水準ストック)は、再建設費ベースで26兆600億円のうち、今回3%弱が壊れてしまったことになる。日本の農業用水路の全長は地球10周分もある。世界有数の灌漑大国だが、老朽化も進み今後どこまで復旧維持予算を割くか社会全体の便益から再考する時期にきている。

 個別農家や畑の被害に関しては、キャッシュフローで考えて「今年つくったら得か損か」を判断し、生産を止めた人もいます。震災のわずか1週間後に東京へ来た人がいて、それまで葉物を福島から東京へ運んでいたのですが、あっという間に今度は東京から福島に必要な物資を運ぶようになっていた。

復興は年間8500億円で済む


 飯田 それにしても、民間の能力は高い。これほどまでの大規模災害においても、被害地域は日本全体から見ると小さい。識者も政治家・官僚も、日本の国土と民間の力を過小評価しすぎているように感じます。日本全体で見れば、震災といえども生産が10%も20%も減るような話ではありません。

 東日本大震災の経済被害額が30兆円というと、途方もない額に感じてしまうのですが、そのうち国債発行によって直接補償する額は多くて20兆円でしょう。
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