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(2021/11/26 追記)

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認知症の正体
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第5章 アルツハイマー病

『認知症の正体』
[著]飯島裕一 [著] 佐古泰司 [発行]PHP研究所


読了目安時間:56分
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 認知症は、記憶障害や判断力の低下、妄想、徘徊(はいかい)など、日常生活に支障をきたすさまざまな症状が現れる症候群ですが、その背景には必ず原因となる疾患(病気)が存在します。主な原因疾患について、最先端の研究成果を織り交ぜながら詳しく紹介しましょう。まず、脳の変性疾患の一つで、認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病を取り上げます。


 アルツハイマー病の経過と症状

 長野県に住む70代後半の女性は、がんで娘を亡くした2002年ごろから物忘れが激しくなりました。人の名前を思い出せなくなり、鍋を火にかけたまま忘れてしまったりもしました。心配した夫は03年、女性を連れて佐久総合病院(佐久市)を受診。アルツハイマー病と診断されました。

 05年ごろまでは、簡単な家事はできたものの、物忘れは徐々に進み、デイサービスが休みの日に、忘れて一人で行こうとして道に迷ったこともあります。病状がさらに進んだその後は、自分の子どもの名前が思い出せず、着替えや食事にも手助けが必要に。そして、生活全般にわたって介護が欠かせず、何を話しているのかも分かりにくく、感情の起伏も乏しくなりました。

 08年には、唐突に笑ったり、怒ったりする症状が現れ始め、やがて、歩いたり、話をすることが少なくなりました。今では、ずっと座ったり、横になっていることがほとんどとのことです。
「アルツハイマー病はこのように、進行性の疾患です」と同病院神経内科部長の田畑賢一医師は説明します。病気の経過は、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)を経て、一般的に初期・中期・進行期の3段階に分けられます。


 症状は多様ですが、脳の神経細胞に異常が生じたことによって、どの患者にも現れる中核症状と、周囲の環境や人間関係、心身の状態、性格や生活歴などによって、見られたり見られなかったりする周辺症状があります(第2章「認知症の中核症状と周辺症状」の図)。ただ、この病気の経過や症状は極めて個人差が大きいのも特徴です。

 認知症の前段階である軽度認知障害は、年齢相応以上の物忘れが特徴ですが、日常生活には支障がない状態を言います。中村重信・広島大学名誉教授は「多くの疫学データを分析すると、軽度認知障害と診断された人たちのうち、1年間に約13%ずつが認知症に進むと考えられます」と話します。


 年齢とともに発病率増加

 アルツハイマー病の有病率(病気の人の割合)は80歳ころから急増します。次のグラフは、広島市内で男性3762人、女性9684人を対象にアルツハイマー病の発病年齢を調べたデータを基に作成したものです。80歳以上で、発病率が急に高くなっていることが分かります。このグラフが示すように、アルツハイマー病は、年を重ねることが発病の大きな危険因子です。


 人の寿命の延びに、脳神経細胞の寿命がついていけなくなった――とも解釈できそうです。お年寄りに多い変形性ひざ関節症、目の病気である白内障や加齢黄斑変性などと同様に、高齢社会を背景にした現代病と言えます。

 ただ、高齢社会が悪いのではありません。加齢に伴う心身の衰えは歯がゆいことですが、自然の摂理でもあります。食事や運動などの生活習慣に加え、本人の意識や周囲の支えで、上手に年を重ねることによって、発症のリスクを下げることも可能です。


 女性と男性の発病率

 厚生労働省による疾患別の患者調査(2008年)では、アルツハイマー病の患者は、女性が男性の2・6倍と圧倒的に多くなっています。信州大学医学部の池田修一教授は、女性の方が男性より平均寿命が長く、高齢者人口に占める割合が相対的に高いこと、脳の神経細胞の保護に重要な役割を果たす女性ホルモンが閉経後急激に減少し、神経細胞が消滅する確率が高まることを、その要因として挙げます。

 また、発病率が高い年代に現在差しかかっている女性高齢者には、家から出て働いた経験がない人も多く、社会との接点が少ない傾向があることも、女性患者が多い背景にあるようです。池田教授は「多くの人との交流が薄いと、認知症が進みやすくなります。外に出て人と接し、日常的に脳に刺激を与えることが、認知症の予防や進行を抑えるために大切です」と話しています。



コラム アルツハイマー病の最初の報告

 アルツハイマー病は、ドイツの精神科医アロイス・アルツハイマー博士(1864〜1915年)によって初めて報告されました。1906年、今から100年余り前のことです。


 1901年、フランクフルトの病院に勤務していたアルツハイマー博士は、51歳の女性患者を担当しました。「夫が浮気をしている」という強い嫉妬(しつと)妄想や、記憶障害などが主な症状でした。博士は、彼女が亡くなった後に脳を解剖。組織を顕微鏡で観察して、今日でいう老人斑や神経原線維変化などの病変を見つけました。アルツハイマー病に特有のこれらの病変について、博士は詳細なスケッチを描き残しています。

 この女性患者は50代前半で、認知症の発病年齢としては若いケースでした。このような歴史的背景もあって、かつては「初老期(65歳未満)で発病したものをアルツハイマー病とし、高齢期のものはアルツハイマー型老年痴呆(ちほう)と分類すべきだ」との主張がありました。

 しかし現在では、発症年齢にかかわらず、老人斑と神経原線維変化を中心とした同じ疾患として「アルツハイマー病」で統一するのが一般的です。65歳未満で発病するものを、若年性(早発性)アルツハイマー病と呼んでいます。



 アミロイド仮説

 認知症の原因疾患として、半数以上を占めるアルツハイマー病は、どのようなメカニズムで発症するのでしょうか。まだ完全に解明されてはいませんが、β(ベータ)アミロイドというタンパク質の蓄積が引き金になる――と考えられています。根治を目指す治療薬の研究開発のほとんどは、「アミロイド仮説」と呼ばれるこの考え方に基づいて進められています。アルツハイマー病を知るために、このアミロイド仮説を見ていきます。


 老人斑と神経原線維変化

 アルツハイマー病は、脳の神経細胞が死滅して、脳全体が徐々に萎縮(いしゆく)する脳変性疾患です。では、脳内では具体的にどんな変化(変性)が起きているのでしょうか。「アルツハイマー病の患者の脳を調べると、二つの大きな特徴が見られます」と信州大学医学部の池田修一教授は話します。ドイツの精神科医アルツハイマー博士が約100年前に顕微鏡で見つけたと説明した老人斑と神経原線維変化です。

 老人斑は、βアミロイドが異常に蓄積してできる病変です。大きさは通常、直径0・1〜0・2ミリほど。脳の神経細胞の外側にかたまって見られます。もう一つの神経原線維変化は、タウと呼ばれるタンパク質にリン酸がたくさんくっついて、神経細胞内に線維(細い糸)状になったものです。電子顕微鏡では、2本の線維がねじれて絡み合ったように見えます。


 池田教授は「アルツハイマー病では、まず老人斑が現れ、その後、神経原線維変化が起こります」と説明します。

 βアミロイドは、神経細胞の細胞膜を貫いて存在している細長いタンパク質からつくられます。βタンパク前駆体と呼ばれるこのタンパク質は、アミノ酸が700個並ぶ大きなタンパクです。その一部が細胞膜の部分で切り取られて、アミノ酸が40個や42個連なったβアミロイドができます。老人斑になるのは、アミノ酸が42個のものが大多数です。

 βアミロイド自体は、だれの脳でもつくられています。若いころは、ネプリライシンという酵素などによって、アミノ酸に分解されてしまうのですが、加齢とともに、βアミロイドのつくられる量が分解される量を上回って、脳内にβアミロイドが蓄積するようになります。その時期には個人差があり、なかには40歳代でたまり始める人もいます。池田教授は「βアミロイドがたまる最大の要因は、脳の老化です。程度はさまざまですが、高齢になれば、蓄積されているのが当たり前の状態とも言えます」と語ります。


 もう一つの原因タンパク・タウ

 ただ、βアミロイドの蓄積はアルツハイマー病に至るきっかけにはなっても、これだけが原因で発病するわけではありません。PET(陽電子放射断層撮影)による画像検査で、脳内にβアミロイドが確認されても、認知機能があまり落ちていない人は大勢います。
「老人斑が多いほど認知機能が低下しているという相関関係があるわけではありません。認知機能の低下と強い相関があるのは、神経原線維変化を起こしたタウの蓄積です」と池田教授は言います。βアミロイドは神経細胞を傷つけはしても、毒性はそう強くなく、神経細胞を死滅させる“主犯”は、もう一つの原因タンパク・タウだと考えられているのです。

 脳内にβアミロイドが蓄積し始めてから、タウがたまり始めるまでには、1020年がかかるとされます。80歳でアルツハイマー病を発症した人は、60歳前後からβアミロイドが蓄積し始めていた可能性があるということです。池田教授によると、βアミロイドの蓄積が、タウの蓄積を引き起こすことは分かっていますが、なぜそのような連鎖反応が起こるのかは、はっきりしていません。


 では、タウとはいったいどんなタンパクなのか。次は認知機能の著しい低下を招くタウの蓄積について、詳しく見ていきましょう。



コラム 老人斑なくても症状

 βアミロイドが脳内に異常に蓄積してできる老人斑は、アルツハイマー病に特徴的な病変ですが、最近は、老人斑になる前のβアミロイドの小さな集合体「オリゴマー」に着目した研究も進んでいます。大阪市立大学大学院医学研究科の富山(とみやま)貴美・准教授(脳神経科学)らのグループは、マウスの実験で、脳内に老人斑が見られない状態でも、オリゴマーがあれば認知機能の低下が生じることを確認しました。


 老人斑は、βアミロイドが何万、何十万と集まった塊で、光学顕微鏡でも観察できます。一方、オリゴマーは2個から数十個のβアミロイドからなる微小な集合体で、解像度が高い原子間力顕微鏡でとらえられるかどうかの大きさです。神経細胞の間を満たしている液に溶けた状態で存在しています。

 富山准教授らは、遺伝子操作で「オリゴマーをつくるが、老人斑を形成しないタイプのβアミロイド」ができるマウスをつくり、脳内の神経細胞の状態や、アルツハイマー病を発症するかどうかを調べました。
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