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君の眠っている力を引き出す35の言葉
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message01 一つのことに打ち込んでこそ、いい仕事ができる。

『君の眠っている力を引き出す35の言葉』
[著]小出義雄 [発行]すばる舎


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「小出くん、ゴルフくらい付き合えるようにしなきゃダメだよ」

 こんなことをたまに言われる。

 でもね、「世界一を目指そう」、「選手に金メダルを獲らせよう」としているのなら、そんな時間はないよ。

 僕は小さいときから駆けっこが大好きで、指導者としてマラソンを教えるようになってからも、いつも頭の中にあるのは駆けっこのことばかり。それこそ24時間、夜、布団に入っても駆けっこのことばかりを考えている。
1区は誰を走らせようか……、2区は……、ペースは……」

 眠っているときも、選手の走る姿がしょっちゅう夢に出てくる。
「おい、博美(鈴木)が負けたぞ」

 と、大きな寝言を言うこともあるらしい。僕の寝言には、女房はもう慣れっこになっているようだが……。

 それくらい集中しないと、世界一の座はつかめないんだ。


 もちろんこれは、選手にも言えることだ。

 とくに女子選手は、20歳前後の若い盛りはファッションや異性のことに興味が行きがちになってしまう。

 しかたがない面もあるが、世界でも活躍できるトップアスリートになると決めたからには、つねに競技のことを考えて練習に打ち込まなければならない。Qちゃん(高橋尚子)や有森(裕子)も、引退まで恋愛や結婚の話はお預けだった。

 休日にデートなどでエネルギーを使いすぎた子は、本人は隠しているつもりでも、翌日の練習に必ず表れるものだ。

 オリンピックへの夢を捨てて、恋愛や結婚を選んだ教え子もいた。それはその子の選択だからしかたがないと割り切るようにしている。

 陸上よりも恋愛や結婚を優先させるかどうかは、その子の人生に関わる問題だから、陸上を(あきら)めると決断した子にとやかく言わないようにしているのだ。

 ただ、教え子が陸上競技と恋愛の板挟みになってずっと悩み続けているときは、こうアドバイスをする。
「お前が本気でオリンピックを目指すのなら、恋愛や結婚の話はしばらくお預けになるよ。今が一番大事なときだ。一つのことに集中してこそ、世界で戦うことができるんだぞ」

 そこは厳しく指導します。

「陸上のことだけを考えて練習しろ!」と(さと)すだけでは選手はついてこない。そこで僕も四六時中、陸上のことばかり考えているんだ。

 ときには好きなタバコや酒を断つこともある。マラソンに長年関わっている僕だけど、お酒も大好きだし、大の愛煙家だ。

 あまりのヘビー・スモーカーぶりに、有森をはじめとする選手たちに、
「監督、いい加減にタバコをやめてください。監督が病気になったら私たちはどうなるんですか、誰が教えてくれるんですか!」

 と訴えられたこともあった。

 それでもやめなかったタバコを、期限付きながら禁煙を断行したことがあった。バルセロナ五輪で有森が女子マラソンに挑戦したときだ。
「お前の大事な勝負のときに、プカプカとうまそうにタバコを吸っている場合じゃない。オリンピックが終わるまで、オレはタバコを吸わない」

 と彼女の前で宣言したのだ。自分のバルセロナ五輪にかける意気込みを示したつもりだった。

 それでもバルセロナには、ショートホープを密かに持ち込んでいた。レース終了後にうまい一服をと考えていたのだが、そのタバコを有森に見つかってしまった。
「隠れて吸おうと思って持ってきたわけじゃないからな。お前のレースが終わったら、吸おうと思っていたんだ」

 と言い訳をした。
「わかっていますよ、監督。このタバコは、レースが終わるまで私が預かります」

 とショートホープを取り上げられてしまった。僕はてっきり、有森が怒ったものと思った。

 だが、その有森が取り上げたショートホープの箱は有森のパンツに()い付けられて、バルセロナの42.195キロを一緒に走ったのだ。


 レース後、銀メダルを獲得した有森は、
「監督の気持ちを思いながら、ショートホープと一緒に走ろうと決めたんです。ゴールしたら、真っ先に監督に吸ってほしかったから……」

 と打ち明けてくれた。照れくさいながらも、うれしかったね。そのタバコは、汗まみれでとても吸えるような状態ではなかった。
「このタバコは、記念にうちの神棚に飾っておくよ」

 と日本に持ち帰った。

 そのタバコは神棚ではなく、(おい)が作ってくれた特製の額縁の中に入れて、今も大切に居間に飾ってある。銅板には、金メダルを獲得したワレンティナ・エゴロワ選手(ロシア)と有森がデッドヒートを繰り広げた様子が文字で(きざ)まれている。

 タバコをやめたのは一種の願掛けみたいなもので、選手にも監督としての意気込みを示したかったのだ。


 人間は欲張りなもので、「あれもやりたい、これもやりたい」とあちこち手を出すが、それではどれもこれも中途半端になってしまい、結局、何一つ満足に成し遂げることはできない。頂点に立とうというのであればなおさらだ。

 (なま)(はん)()な決意ではダメだ。一つのことに集中してこそいい仕事ができるのだ。

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