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天皇と太平洋戦争 開戦の真相から終戦の決意まで
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歴史
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第一章 開戦決定の真相

『天皇と太平洋戦争 開戦の真相から終戦の決意まで』
[著]土門周平 [発行]PHP研究所


読了目安時間:25分
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 第二次大戦を通じ、中国側の指導者として対日戦を指導した介石が、「日本は、海南島に侵攻することにより、太平洋戦争に足を踏みこんだ」と、戦後の回想録で書いている。


 このようにひとつの現象から、その影響を明確に導き出すことは、なかなかむずかしい作業である。またその結論についても、普通の場合でも、いろいろな解釈が成立するケースが多い。


 この章の主題である「開戦の決定」という歴史的事実にも、いろいろな視座がある。そしてどの視座をとるかによって、その内容も多岐にわたる。そこで、まず開戦決定の権限論、ついでその実態について、考究を進めることにしよう。


 法制的にみて、戦争を始める権限は、だれがもっていたのか。この設問に対する答えは比較的容易である。それは明治二十二年(一八八九)に制定され、昭和二十一年(一九四六)まで施行されていた大日本帝国憲法(以下帝国憲法と略称する)の第一三条に、「天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス」とある。すなわち国際法でいう宣戦布告の大権は形式上天皇にある。


 ところが昭和初期の日本は、元老西(さい)(おん)()(きん)(もち)の意向により、帝国憲法で定めた立憲君主制の実行にあたり、イギリス王室をひとつの模範としていた。「君臨すれども統治せず」といわれるもので、天皇はいっさいの責任の外にあるという考え方の適用である。


 この考え方によれば、天皇は、政府や陸海軍統帥部の公式の決定を否認することはない。


 またそうすることによって、政治・軍事に関して、天皇が責任を負わねばならなくなることを避けることができる、ということで、日本の天皇制を恒久的に維持するためには、適切な措置であったとされている。


 この考え方によって、たとえば政治に関しては、国務大臣が天皇を()(ひつ)して、その責に任じ、軍事に関しては、陸軍は参謀総長、海軍は軍令部総長が、それぞれ天皇を()(よく)することになっていた。


 問題は、これらの補佐者全員が各個に天皇に直接隷属しているのであって、これに対して、行政権または統帥権をそれぞれ一括して統制補佐する機構、さらに行政権および統帥権の両部門を一括して統制補佐するような機構が、帝国憲法では考えられていなかったことにある。


 帝国憲法には、内閣という言葉は見当らず、通常首相といわれた内閣総理大臣でさえ、天皇に直属する国務大臣中の先任者といった程度の地位で、国務大臣の任免権もなかった。


 近衛文麿の手記に、「陛下が御遠慮勝ちと思われる程、滅多に御意見を御述べにならぬことは、西園寺公や(まき)()(のぶ)(あき)伯などが英国流の憲法の運用ということを考へて、陛下はなるべくイニシアチーブを御取りにならぬやうに申上げたからである」。「然るに日本憲法といふものは、天皇親政の建前であつて、英国の憲法とは根本に於て相違があるのである。殊に統帥権の問題は、政府には全然発言権なく、政府と統帥部との両方を押え得るものは、陛下御一人である。然るに陛下が消極的であらせられる事は平時には結構であるが、和戦何れかといふが如き国家生死の関頭に立つた場合は(しょう)(がい)が起り得る場合なしとしない」と述べている。


 この問題は、戦争指導上のひとつのキイポイントであるので、ページを追って逐次具体的に考究したい。なお西園寺の基本的な考え方は、帝国憲法第三条の「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」にある。換言すれば万世一系の天皇は、憲法上「無当責」である。「無当責」の君主が、権力を直接行使されることは回避されるべきで、むしろ統治権を主体的に行使されることは、世襲君主制の根茎を危うくする、というのであった。


 この問題について東京裁判で、被告木戸幸一内大臣は次のように答えている。

ひとたび政府が決して参ったものは、これを御拒否にならないというのが、明治以来の日本の天皇の御態度である。これが日本憲法の運用上から成立してきたところの、いわば慣習法である」


 これは、東京裁判用の発言であることに留意しなければならない。帝国憲法の一般国務については、まさにこのとおりであるが、軍事に関しては、いささか様相を異にすることが、一般にはあまり知られていない。


 すなわち統帥に関する大権事項は、帝国憲法第一一条に、「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」とあり、この統帥大権に限っては、他の国務に関する大権事項のように、国務大臣がこれを輔弼することなく、天皇自らが陸海軍を統帥することになっていた。

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