『心が折れない子が育つ こども論語の言葉』
[著]齋藤孝
[発行]PHP研究所
いま、『論語』が見直されています。
一見、『論語』とは関係ないビジネスの世界でも、『論語』に学ぶ動きが出ています。子どもの教育のテキストとしても、再び評価されつつあります。
二五〇〇年前の孔子先生の言葉が、いまの日本で見直されるのは、いまの日本人が不安の中で「筋」を見出したいと思っているからです。「筋の通った生き方」を孔子は説きます。「仁」という人に対する思いやりの心、信頼や信用の「信」、心の広さである「恕」、筋を通す「義」、誠意の「誠」など、大切な価値観を弟子たちに伝えた記録が、『論語』です。
江戸時代の日本では、孔子の教えを柱とした儒教が価値観の基礎になっていました。寺子屋のテキストとしても、孔子の言葉が使われていました。大人と子どもが同じ孔子の言葉を学んでいたのです。現在の日本では、子どもには子ども用のやさしい言葉の本が中心となっていますから、大きな違いがあります。
「人としての基本を学ぶのは、子どもの頃からの方がいい。そのテキストとしては『論語』がいい」
そう昔の日本人は考えてきました。家に祖父・祖母がいなくなり、父親の権威も落ちてきたいまの日本では、「こう生きるのがいいのだ」「こんなことはしてはいけない」「こう考えれば道を外さない」と自信を持って子どもに諭す存在が少なくなりました。
この本では、孔子の言葉の中から、子育てに役立つフレーズを選び、ふだんの生活の中で子どもに自然に語ることができるようにしました。
勉強や習い事など、いまの子育ての状況に合わせて、言葉を選びました。『論語』は古いものなので、さすがに現在とは状況が違いますし、弟子たちは大人です。言葉が子どもの心に入っていく形を整える必要があります。
そこでこの本では、日常の具体的なシーンを想定して、親子の会話の形を取りました。言葉は、その場の状況に合ったとき、ぐっと心に入ります。この本の中の会話を、ご家庭の状況に合わせてアレンジして使っていただければと思います。
『論語』は、孔子と弟子たちの対話の記録です。親子の対話の中で孔子の言葉が引用されるのが、一番の活用法です。まずは、親自身が、孔子の言葉に慣れて、とにかく何度でも子どもに向かって言ってみてください。五回言って伝わらなくても、十回、二十回と言えば伝わります。
たとえその場で子どもがすべてを理解できなくても、やがて人生の大切な場面で「あー、あの言葉はこういうことだったのか」と思うときがきます。
『論語』は一生ものです。最高のプレゼントを、お子さんの未来に向けて贈ってあげてください。
齋藤 孝