『暗殺の世界史 シーザー、坂本龍馬からケネディ、朴正熙まで』
[著]大澤正道
[発行]PHP研究所
──伊藤博文の暗殺事件
〈明治四十二年(一九〇九)十月二十六日〉
犯人はどんな凶器を用いたのか
ロシア政界の実力者ココーフツォフ蔵相との対面を終えた伊藤博文は、ロシア自慢の豪華な貴賓車を降りた。ハルビン駅のプラットホームにはロシア官民の幹部、各国領事、在留日本人代表らがずらりと並んで、この遠来のVIPを出迎えた。
軍楽隊の奏楽の中を、伊藤はココーフツォフと並んで、ロシア鉄道守備隊の儀仗兵を閲兵した。伊藤のあとには満鉄総裁中村是公、同理事田中清次郎、ハルビン総領事川上俊彦、宮内大臣秘書官森泰次郎(槐南)らが従った。
閲兵を終え、各国領事の挨拶を受けた伊藤は、日本人歓迎団のほうへ歩み寄った。
そのときである。儀仗兵の背後から鳥打帽をかぶった凶漢が躍り出て、伊藤めがけてブローニング式七連発の拳銃を乱射したのである。犯人はただちにロシアの官憲に取り押さえられたが、凶漢は「コリア、ウラー(大韓国万歳!)」を連呼した。