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(2021/11/26 追記)

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上機嫌の本
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ルポ・エッセイ
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『上機嫌の本』
[著]佐藤愛子 [発行]PHP研究所


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 私の人生を一口でいうなら「楽天的」という一語に()きると思う。また私の性質を一口でいうなら、それも「楽天的」ということになるだろう。六十八年生きてきて、つらつら過ぎし日々を(かえりみ)ると、楽天的であったからこそここまで生きてこられたのだとつくづく思う。


 楽天的で向こう見ず。


 これが私の人生の特徴だ。

「楽天的な一生」といえば、一見、春の光に包まれているような(のん)()な一生のようだが、実際には楽天家というものは苦労を浴びるように出来ているものである。楽天家は現実に対して用心をしない。人を疑わない。何でもうまくいくと思う。これをよくいえば「希望を失わない」ということになるのだが、それはまた同時に「アホ」といわれることにもなるのである。


 私はよく遠藤周作さんから、「君は苦労したのに、ちっとも苦労が身につかんなァ」といわれた。私の四十代は(さん)(たん)たる苦労が次々に襲ってきた時代だが、その苦労の半分は自分で作った苦労であったことに今になって気がついた。火事で我が家が燃え出した時は人は逃げる。それが災難を出来る限り小さく喰い止める人の知恵だ。ところが私は燃えている家の中に濡れムシロを持って入って行く、というようなことを何度もしてきた。それも決死の覚悟を固めていくわけではない、大丈夫だろう、何とかなるだろう、と思って火事の中に入って行く。


 苛酷な現実の火の粉を浴びて、こりゃかなわん、こんな(はず)じゃなかったと思うが、火の中に入ってしまったものはどうしようもない。あっちの火の粉を(はら)い、こっちの火を踏んづけ、夢中で走っているうちに気がついたら火事の家を突き抜けていた……。

「ほうら、抜けられたじゃないか」


 と思う。その時はもう火の粉を拂った時の苦労を忘れている。だから「ちっとも苦労が身につかんなァ」ということになるのだろう。


 賢者は、人間いかなる時でも平常心を失うなという。その通りだ、()(げん)だと私も思う。しかし私にはその「平常心」というやつがどんなものかわからないのだ。平常心とは「ふだんと変わらない落ちついた心」のことだろうが、私はふだんからそんな落ちついた心の持主ではない。ふだんから、「矢でもテッポでも持ってこい!」という心でいるものだから、何かあるとすぐ逆上してつっ走ってしまうのだ。だから外からやって来た苦労を、自分で倍にも三倍にもしてしまう。


 しかしその(やつ)(かい)な気質のおかげで、まあまあ元気に人生への情熱を失わずに生きてこられた。私がなめた苦労の数々は、「ひとのせい」ではなく、自分が膨張させたものだと思えば、人を怨んだり(なげ)いたりすることはないのである。


 私は今、株で大損をしているが、損や苦労が()れっこになっている私は、金の損などへとも思っていない。私をこんな楽天性に生んでくれた父母、その楽天性をますます増幅させてくれた「苦労の数々」に私は今、感謝している。

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