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ヅラが彼女にバレたとき
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ルポ・エッセイ
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第1章 ヅラッド・ピット誕生

『ヅラが彼女にバレたとき』
[著]藤田サトシ [発行]すばる舎


読了目安時間:21分
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「パチッ、パチッ、パチッ」

 カウンセラーがヅラを取り付けていく音が耳元で響いている。

「パチッ、パチッ、パチッ、パチッ」

 残り少ない髪の毛がフサフサしたヅラで覆い隠されていく。

「痛くはありませんか?」
「いえ……大丈夫です」

 カウンセラーがヅラを着け終わり、私の頭から手を離すと……。


 目の前には、外ヅラが一変した自分の姿が映し出されていた。

「とてもお似合いですね」
「あ、ありがとうございます! スッ、スゴイ! これが本当に自分なのか?」

 私は別人のように変身した自分の姿に少々違和感を覚えながらも満面に笑みを浮かべた。


 ここは、某ヅラメーカーの個室。

 ついさきほどまで油ギッシュに光り輝いていた私の前頭部は、瞬時に十数年前のフサフサ状態に戻っていた。


 本来、増毛は不自然さをなくすために段階を踏んで少しずつ増やしていくのだが、あまり予算を()けなかった私の場合は段階を踏まずに一気に増毛するしかなかったのである。


 今までの私を知っている人が見ればあまりに不自然な増え方だが、初対面の人なら、よもやヅラとはわかるまいと思われるほどの出来具合。大満足である。


 これなら美女の目を誤魔化(ごまか)し、結婚に漕ぎ着けることができそうだ……鏡に映った自分の姿を見ながら、私は思わず、心の中でこう叫んだのだった。

「帰ってこい! 私の青春!」


 私の髪の毛が心もとなくなってきたのはいつ頃だっただろうか?

 たぶん20代の半ばにさしかかったあたりから除々に薄くなっていったのだと思う。そして30代になり、気づいた時には前頭部がテッカテカにハゲ上がっていた。


 私の前頭部ハゲはまるで「落ち武者」のように見えたらしく、社内の後輩たちは私を「オチムシャン」と呼んでいた。当初、彼らは密かにそう呼んでいたのだが、私がそれを知っても怒り出さないのを見ると、だんだん目の前でそう呼ぶようになった。


 もちろん私はその言葉にムカついたが、当たっているだけに言い返せずに、「デヘヘ」と笑って誤魔化すしかなかった。しかし笑いながらも心は(ひど)く傷ついていた。


 若ハゲに悩み始めたころから、女性に対しても臆病(おくびょう)になっていった。髪があったころはなんとか女性と会話を交わすことができたのに、自分がハゲだと思うだけでこちらから声をかけることもできない。20代前半までは暗くはなかった性格だったがハゲのせいでどんどん暗くなっていったのである。


 そのころ、そんな私でも一人前にある女性に恋をした。

 もちろん片思いである。相手は会社の同僚。面長で目がパッチリした「かわいい系」の女のコだった。

「おはようございま~す!」
「お、おはよう……」


 毎朝、元気にあいさつしてくれる彼女にしどろもどろのあいさつで応える私。オチムシャンハゲのコンプレックスがあるゆえ、片思いの彼女に自分から声をかけることなどとてもできない。


 当時、私が通勤していたのはたった数名の営業所だったのに、フツーに話すことができないのだ。声をかけられないくせに、常に心の中は彼女のことでいっぱいだった。


 ある日曜日、私は散歩をしているうちに彼女の家の最寄駅に降り立っていた。彼女のことを考えているうちに、つい、フラフラとその駅に来てしまったのである。


 そして、「せっかくだから、彼女のマンションを探してみよう」と思いたった。私の手帳には彼女の家の住所がしっかりとメモしてある。彼女に関することは何でも知りたかったので、何から何までメモしていたのである。

「ここか……」


 20分ほど歩き回って、やっと彼女のマンションを見つけ出した。郵便受けを眺めると、彼女の苗字(みょうじ)がそこにはあった。彼女が住んでいるところを知っただけで、それまでやるせない気持ちでいっぱいだった私はいっきょに満足し、その日は幸せな気分のまま、帰路に着いた。
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