『病気にならない体はプラス10
』柴田
博
ベスト新書
メタボリック・シンドロームの嘘
日本人は、インテリだとか偉いとされている人に対して、つくづく疑う力がないと痛感することがある。それは、メタボリック・シンドロームへの対応だ。
一九九八年にWHO(世界保健機関)が世界統一基準をつくって、この名前で呼び出したことで、世界中で知られる健康概念になったようだが、日本でこの言葉が盛んに使われるようになったのは、この数年だ。
逆に言うと、十年近く、この概念を無視してきた国が、世界一の長寿国だというパラドックスがあるとも言える。
ただ、世界統一基準とされているのに、その予備軍の基準である腹囲の基準が世界中でまちまちだ。男性の場合、アメリカは一〇二センチメートル、ヨーロッパは九四センチ、中国は九〇センチ、それに対して、日本は八五センチ。ちなみに男性のほうが女性より腹囲の基準が厳しい国も日本だけだ。
このことに、まっこうから異議を唱えるのが、柴田博先生の『病気にならない体はプラス
10 
』(ベスト新書、七一四円)である。
柴田先生は、私がもっとも信頼する老年学の権威で、疫学データを駆使して医療の常識に挑戦し続けているが、今回の本でもその説得力はいかんなく発揮されている。
あきれるのは、このメタボを見つけるために二〇〇八年四月から特定検診が始められたが、この数字を決めるのに、何の予備調査も行われなかったということだ。
実際には、さまざまな疫学データによって、ちょっと太り気味がいちばん長生きし、やせていたり、低栄養のほうが危険だということが本書で明らかにされる。
それ以上にショッキングなのは、メタボなどと言われなくても、摂取カロリーを減らしすぎて、あと二割減れば北朝鮮のレベルになってしまうことだ。少なくとも肥満はすぐに死ぬことはないが、飢餓は死に直結するものなのに……。
日本人の食生活や疫学データを調べもせずに、日本人より長生きしていない外国の発想をそのまま受け入れる学者も学者なら、偉い先生の言うことなら将来の医療費が減るはずだと、素直に信じる役人も役人だ。
健保予算の崩壊がいわれるなか、メタボの検診費用だけで五兆円かかると推定されている。
『治療をためらうあなたは案外正しい』名郷直樹
日経BP社
医学常識を変える情報満載の書
医学が発達すると、「検査を受け、薬を飲んでいれば病気の予防や治療ができる」と患者さんは考える。そして検査数値が正常になれば、「健康」になったと錯覚する。
しかし、たとえば、何のために血圧を下げるのだろう。血圧がかなり高くても頭痛などの自覚症状がないのが普通で、薬を飲まなくても社会生活に影響はない。とはいえ、高血圧を放置していると心臓疾患や脳卒中になりやすいから、その予防のために薬を飲んでいるのだろう。