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スポーツの世界は学歴社会
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第1章 スポーツ界における学歴と学校歴

『スポーツの世界は学歴社会』
[著]橘木俊詔 [著] 齋藤隆志 [発行]PHP研究所


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 スポーツ選手が大学に進学するメリット

田中将大と斎藤佑樹の対照的な選択


 プロ野球の2011年シーズンが開幕した当初、東北楽天の田中将大(まさひろ)と、デビューしたばかりの北海道日本ハムの斎藤佑樹とのライバル対決が話題となった。

 野球ファンならご存じのように、田中はルーキーイヤーの2007年に11勝をあげて新人王を獲得し、09年には野球のワールドカップであるWBC(World Baseball Classic)でも活躍を見せた。そして、11年には球界のナンバーワン投手に贈られる沢村栄治賞をはじめタイトルを総なめにし、史上最年少の23歳の若さで年俸が3億円を突破した(金額は推定)。

 いっぽうの斎藤は、さわやかなイケメンのイメージで入団直後から注目を浴びつづけ、キャンプには多数のファンが詰めかけた。斎藤が初登板・初先発した試合はテレビ中継され、札幌地区で瞬間最高視聴率37パーセントを記録し、さらにオールスターゲームにも出場するなど、人気では田中に見劣りしない。斎藤のルーキーイヤーの成績は6勝6敗でプロ1年目としては合格点といえるだろうが、2年目である12年シーズンにおける野球選手としての実力では、田中に大きな差をつけられているのは明らかである。

 田中(駒澤大学附属苫小牧(とまこまい)高校)と斎藤(早稲田実業学校高等部)の対決は、高校時代から続いている。2人がともに3年生で迎えた2006年の全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)で決勝戦を戦い、延長15回を投げ抜いて引き分け再試合となる熱戦をくりひろげた。そして、翌日行われた再試合でも投げ合い、最後は斎藤が田中から三振を奪って早稲田実業が優勝し、斎藤に軍配が上がったことをご記憶の方も多いだろう。

 この年のドラフト会議では、田中がプロ入りを志望し、楽天から1位指名を受けて入団したが、斎藤は早稲田大学に進学するためプロ志望届を提出しなかった。2人の対照的な進路選択は、当時、大きな話題となった。

 すなわち、早くプロ入りして高いレベルでの実戦経験を積むべきなのか、あるいは、大学に進学してプロで通用するかを見極めたり、大卒の資格を得て幅広い選択肢を確保したりするほうがいいのか、ということである。

 早稲田大学に進んだ斎藤は東京六大学野球リーグでもスターとなり、1年生投手としてはじめてベストナインに選ばれるなど、めざましい活躍を見せた。そして、2010年のドラフト会議で4球団から1位指名を受けている。大学野球での活躍は十分に認められたわけで、早稲田での4年間は無駄ではなかったといえるだろう。

 ちなみに、この年のドラフト会議では、早稲田の大石達也と福井優也がそれぞれ西武と広島から1位指名を受けて入団し、早大野球部の実力を見せつけた。

 ただ、現時点でのプロでの実績を見ると、高校からプロ入りした田中が圧倒しており、斎藤はまだそこまで到達していない。

スポーツ選手が大学に進学するメリットとは


 では、高校野球で活躍してプロから注目されるような選手が、大学に進学するメリットはどのくらいあるのだろうか。

 そのことを考えるにあたり、まずはスポーツ選手ではない場合で考えてみよう。この場合、大学に進むかどうかを、そこで何かを学ぶという学業の面ではなく、経済的な側面だけで決めるとすると、大学へ行くことで得られるベネフィットと、大学へ行くことでかかるコストを比較し、前者が後者を上まわるようなら大学へ行くと考えるのが自然だろう。

 単純に考えれば、大卒労働者がもらう賃金と高卒労働者がもらう賃金の差がベネフィットである。いっぽう、コストとは、大学での学費、教材費、通学費などに、高校卒業後、就職していたらもらえたはずの4年間の所得(これを放棄所得という)を加えたものである。

 ちなみに、日本の場合、大卒労働者の賃金(男女・全年齢を合わせた平均年収)は高卒労働者の1・47倍である(『教育と格差』橘木俊詔・八木匡共著、日本評論社)。これは、アメリカの1・64倍、ドイツの1・49倍、あるいはイギリス、フランスと比較すると低いが、この格差(ベネフィット)が大学へ行くことでかかるコストよりも大きければ、大学進学は割に合うことになる。

 コスト・ベネフィット分析を厳密に行うには、大学教育を一種の投資ととらえて、その収益率を計算する方法がとられる。つまり、大学教育にかかる費用を投資し、就職後は高卒と大卒との賃金格差ぶんを定年まで受け取る、という金融商品を想定する考え方である。

 やや古いデータだが、内閣府が2005年にまとめた『平成17年版 国民生活白書』によれば、1975(昭和50)年生まれの男性大卒者の投資収益率は5・7パーセントである。バブル経済崩壊後、歴史的な超低金利(2012年10月現在、銀行普通預金金利は0・02パーセント)が続く日本においては、相対的に高い収益率をもたらしてくれる投資先といえるだろう。
『学歴格差の経済学』(橘木俊詔・松浦司共著、剄草書房)によれば、大学教育がなぜ賃金を高めるかを説明するものとして、大きくは次の2つの理論がある。

人的資本理論

 教育を受けて知識を得ることで個人の生産性が上昇し、その結果、高い収入が得られるというもの。
シグナリング理論

 労働者は自分の能力を知っているが、企業が労働者の能力を知らないという情報の非対称性がある状況では、労働者が自分の有能な能力を証明するために、有能ではない労働者には獲得することが難しい高い学歴を獲得するというもの。つまり、大学教育が生産性を高めるから賃金が高くなるのではなく、もともと能力の高い労働者が高い学歴を得ていて、企業がそうした労働者を選別しているからこそ賃金が高い、と考えるのである。


 さて、これまでの議論をふまえて、スポーツ選手の大学進学について考えてみよう。

 まず、大学進学のメリットである学歴間の賃金格差については、スポーツの世界では大卒か高卒かで賃金の格差がつくとは考えにくい。高卒でも実力さえあれば、高収入を得ることができる。

 大学に進んだ場合、コストのなかで大きな比率を占める学費が免除される可能性もあるが、プロの世界で成功して得られる高収入にくらべれば微々(びび)たるものだろう。それより、プロにならなかった場合、大学進学によって失われる所得のほうが大きいかもしれない。

 シグナリング理論についても、大学に進学した場合、高校卒業時点ではプロとして通用しなかったというレッテルを貼られることにもなりかねず、かえって逆効果かもしれない。

 これらをまとめると、コスト・ベネフィット分析からすれば、高校卒業の時点でプロで通用する見通しが立っているのなら、大学へ行く必要はなさそうに思える。ただ、才能ある選手であっても、ケガなどによって途中で挫折する可能性はある。

 また、プロで成功したとしても、第2の人生において、より幅広い選択肢を確保することは重要である。引退したあと、そのスポーツと直接かかわりのない仕事につく場合を考えると、一般人と同じように、先にあげた人的資本理論やシグナリング理論の説明が当てはまるケースが出てくる。

 こうした理由から、高校卒業時点でプロで通用すると思われる選手が、大学に進学することはよくある。大学進学が引退後の進路を広げるかどうかについては、第4章で検討する。

「狭き門」と化す企業スポーツ


 ところで、高校卒業時点でプロとして通用する見込みがなくても、大学ではなく企業スポーツに入るという選択肢もある。

 この場合、プロで成功したときほどの報酬は得られないが、社会人としての報酬は手に入るし、企業スポーツからプロ入りという道もある。これがうまくいかなくても、選手を引退したあと、その企業で働ける場合もある。

 ただし、日本ではバブル経済崩壊後、企業の“リストラ”(不採算事業や部署の縮小にともなう人員削減)が進み、名門企業のスポーツチームが次々と解散に追い込まれている。たとえば野球では、プロにも人材を輩出していた名門、熊谷組やプリンスホテル、バレーボールでは日立製作所、ラグビーでは新日本製鐵釜石が有名である。

 トヨタ自動車の荻野勝彦人事部担当部長(当時)がまとめた「企業スポーツと人事労務管理」(「日本労働研究雑誌」2007年7月号、労働政策研究・研修機構)によれば、1991年から2006年3月末までに306の企業スポーツチームが撤退したという。

 しかも、非常に皮肉なことに、チームが名門、強豪であるほど、リストラの対象にされやすいという。名門・強豪チームは世間から注目されており、その廃部は企業のリストラや「株主重視」にかける熱意をPRするのにうってつけだからである。そして、景気が回復したとしても、チーム再開を考えている企業は3パーセントにすぎないというアンケート結果が紹介されている。

 したがって、長期にわたるデフレと低成長が続く日本では、今後、企業スポーツが復権していくことは困難な状況にあるといえる。つまり、「企業スポーツに進む」という選択肢は、以前よりとりづらくなるだろう。
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