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スポーツの世界は学歴社会
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第3章 スポーツ指導者に学歴や学校歴は必要か

『スポーツの世界は学歴社会』
[著]橘木俊詔 [著] 齋藤隆志 [発行]PHP研究所


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 スポーツ指導者になるために学歴は重要か?

選手時代の実績がなければ監督にはなれない


 第1章で、スポーツ選手にとって学歴や学校歴がどんな意味をもつのかを統計的に分析した。では、スポーツ指導者になれるかどうかに、学歴や学校歴はどう影響するのだろうか。

 ここでは、スポーツ指導者として、おもに監督やコーチを取り上げているが、本来、スポーツ指導者というのはもっと幅広い概念である。たとえば、日本野球連盟やJFAが加盟している日本体育協会が公認するスポーツ指導者には、次にあげる9種類がある。

 スポーツリーダー

 競技別指導者

 スポーツドクター

 アスレティックトレーナー

 スポーツ栄養士

 フィットネストレーナー

 スポーツプログラマー

 ジュニアスポーツ指導員

 マネジメント指導者

 これを見ると、スポーツ指導者といっても、実際には多様な仕事を行う人びとが含まれていることがわかる。もちろん、学校の体育教師もスポーツ指導者である。

 近年、多くの大学がスポーツ系の学部を新設したり、スポーツ選手を優遇したりしている。しかし、卒業後にプロ選手となる学生はごく少数で、スポーツ指導者になるケースが多い。実際、大学の案内などに、「スポーツ指導者の養成を目的としている」と明記されているところもある。

 ただ、医師の資格が必要なスポーツドクターや、教員免許が必要な体育教師など一部を除けば、スポーツ指導者になるには大卒の資格は必ずしも必要ではない。とくに、スポーツ指導者のなかで花形といえるプロスポーツの監督やコーチになるには、一部の例を除いて、学歴よりも選手時代に優れた実績を残していることが必須である。

 プロ野球の場合、スター選手が、コーチや2軍監督といった指導者としての経験をほとんど積まずに、いきなり1軍の監督になるケースがよく見られるが、その理由としては、次の2つが考えられる。

 興行的に指導者としての実力よりも人気を重視している。

 現役時代に優れた実績を残した人のいうことなら、指導を受ける選手が素直に受け入れる可能性が高い。

 とはいえ、指導者としての実力が不足していれば、チームの成績が低下する危険性もある。いくら人気者の監督がチームを率いていても、熱狂的なファンが多い一部のチームを除けば、弱小チームの試合を見にくる観客は多くないだろう。

 また、については、よく「名選手は名指導者にあらず」といわれるように、選手としての実力と指導者としての実力が一致するとはかぎらない。

 では、海外のスポーツはどうだろうか。たとえば、メジャーリーグでは、「選手と指導者の才能は別物」とはっきり認識されているようだ。

 Webサイト「sportsnavi」に掲載されているコラム、「『元二流』『元スター』」(2011年7月19日)のなかで、筆者の菊田康彦氏は、現在のメジャーリーグの監督20人のうち、スター選手だったといえるのはオールスターゲームに出場した経験のある5人にすぎない、と指摘する。そして、ほとんどがメジャーでは控え選手として現役を終えており、さらに8人はメジャーでのプレー経験すらない、というデータをあげて、「メジャーでは選手としての実績は監督への登用にほとんど関係がない」と結論づけている。

 そして、若いうちに選手としての力量に見切りをつけ、指導者となるために実績を積んできた例として、ロイヤルズの監督を務めたトレイ・ヒルマン(元・日本ハム監督)や、現在、オリオールズの監督でヤンキースやダイヤモンドバックス、レンジャーズの監督を歴任したバック・ショーウォルターを紹介している。ちなみに、ヒルマン監督はテキサス大学アーリントン校、ショーウォルター監督はミシシッピ州立大学の出身である。

 それでは、具体的に、スポーツ指導者にはどのような能力が求められるのだろうか。

スポーツ指導者と企業の管理職の類似点


 スポーツ指導者のなかでも、監督やコーチは、企業でいえば管理職といっていいだろう。チームのオーナーやGM(ゼネラルマネージャー)から指名され、与えられた戦力のもとで、練習では選手のスキル向上のために指導し、試合では作戦を立てたり、選手起用についての意思決定を行ったりする。

 つまり、集団のメンバーの育成や、目標達成に向けてさまざまな意思決定を行う点で、ビジネスにおける管理職と共通しているといえる。

 監督はまた、戦力の増強などについて、オーナーやGM、フロントと交渉したり、選手やコーチとのあいだに立って中間管理職としての仕事をこなしたりする必要がある(やや極端な例といえるが、2003年に巨人の原辰徳(たつのり)監督が辞任したさい、巨人のオーナーであった渡邉恒雄が「読売グループ内の人事異動だ」と発言したのは記憶に新しい)。そのため、スポーツ指導者になるには、ある程度、ビジネスの世界でも通用する能力を身につけておかなければならない。

 たとえば、ドイツサッカー協会公認プロサッカーコーチである湯浅健二氏は、その著『サッカー監督という仕事』(新潮文庫)のなかで、サッカー監督のもっとも重要な素質として、「知識と経験に裏打ちされたパーソナリティ」をあげている。そして、コーチング法や戦術といったサッカー個別のものから、スポーツ生理学、解剖学、栄養学、心理学などスポーツ全般に必要な知識、経済学、社会学などにいたる広範な学問を取り上げ、監督はそれらの「理論と実践的ノウハウを融合させることで成果につなげなければなら」ず、そのためには「柔軟な理解力が決定的に大事な要素」だとしている。

 この点でも、監督やコーチという職業が企業における管理職に近い存在であるといえそうだ。

 大阪大学社会経済研究所の大竹文雄助教授と大日康史(おおくさやすし)助教授(いずれも当時)は、監督と選手を上司と部下の関係になぞらえつつ、プロ野球監督の能力の特性を調べた結果を紹介している(「プロ野球『名監督とチーム』」、「週刊東洋経済」1992年10月3日号、東洋経済新報社)。

 具体的には、計量経済学の手法を用いて、同じような戦力のチームを率いると仮定した場合、監督とチームの組み合わせはチームの成績に影響を与えないことを証明したのである。これが何を意味するかというと、優秀な監督は、ある特定のチームを率いたから優秀な成績を収めたのではなく、別のチームを率いても優秀な成績を収めることができる、ということだ。

 私たちが専門とする労働経済学では、仕事をするうえでの能力を、次の2つに分けて考えることがある。

 他社でも通用する一般的能力

 自社でしか通用しない企業特殊能力

 これを見ると、監督には、の能力が重要だということがわかる。

 さらに、大竹、大日の両氏は、監督初体験者の推定年俸が、就任後、どう推移するかについても調べている。それによると、就任直後の3年間は人によってばらつきが大きいものの、3年を過ぎて就任している監督の年俸のばらつきは小さくなると指摘している。これは、監督という仕事は経験させてみないと生産性を判断することができない、ということを示しているという。

 すなわち、現役時代の成績から生産性を予測することはできない、ということであり、名選手が名監督になるとはかぎらないことを示しているといえる。これはプロ野球だけでなく、ほかのスポーツでも同じことがいえるだろう。

管理職になるには名門大学卒業が有利?


 では、管理職としての能力は、学歴と関係があるのだろうか。ここではまず、スポーツにかぎらず、一般的な仕事について考えてみよう。

 やや古いデータだが、一橋大学大学院の大橋勇雄教授(現・中央大学ビジネススクール教授)が1995年に発表した「会社のなかの学歴社会」(橘木俊詔・連合総合生活開発研究所編『「昇進」の経済学』東洋経済新報社)によれば、1993年に実施したアンケート調査の結果、上場企業や非上場の大手損害保険会社、生命保険会社の会社役員2246人のうち、じつに約9割が大卒以上であった。
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