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なぜ「ふるさと製造業」は強いのか
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1 豊かさを間違えた人間

『なぜ「ふるさと製造業」は強いのか』
[著]山田日登志 [発行]PHP研究所


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先進国が病んでいる


 先進国が病んでいる。資本主義、民主主義の行きすぎが、先進国を病ませている。とりわけ、資本主義・民主主義を牽引し続けねばならないアメリカと日本が、国の借金で身動きがとれなくなっている。

 ソ連崩壊後、世界はアメリカを中心に回るものと人々は信じていた。そのアメリカが、今では世界の人々から批判を浴びている。世界一の債務国となり、ドル紙幣の増刷でその力をなんとか保っているのが今のアメリカだ。国民の自由を守るという強い意志と、あのケネディ大統領が発した「国のために何ができるか」を忘れ、自由主義を世界に広めようと、軍事力=近代兵器と信じて、ベトナム、アフガニスタン、イラクと戦った結果であり、自由の名のもと、金融システムの野放図な巨大化を許してきた結果である。

 わが日本は、もっとたいへんである。

 戦後の苦しさの中で、アメリカの援助を受け、資本を受け入れ、技術を学び、日夜を忘れて働き続け、少しばかり豊かになったのを思い上がってしまった。

 国土が狭く、地下資源もないわが日本では、懸命に働く他に道はないと誰もが知っていたはずが、リゾート法とゆとり教育が「働くことの尊さ」を国民からすっかり忘れさせてしまった。二大政党は、国とは国民のためにサービスする機関と唱えて税収を忘れ、ばら撒きを続けた。役人も、止めるどころか国民を支援すると言いつのってさらにばら撒きを進め、今や世界一の借金国となって、気づいてみれば国民一人当たり一〇〇〇万円の借金で国の体裁を保っている。

 豊かさとは、経済成長によって勝ち取るものであると世界の首脳が信じるようになってしまった。

 ものも金もない時代に、経済的豊かさを勝ち取ることは、人より余計に働き、人に感謝され、人から恵みをもらえることであった。

 子供も強制労働なくしては食にもありつけない時代があったが、少しばかりの貯えができれば今度はその金を使って機械を買い、人を雇って知恵で稼ぐ人間が出てくる。資本主義の勃興である。金と人を自由に使えるようになった者こそが権力を勝ち取り、ますます人をコントロールする。一種の独裁だ。彼らが地域をまとめ、国をつくった。そして、その力を世界中に広めようとしたのが植民地主義である。地球の奪い合いが戦争という手段になり、この経済と権力の闘争が多くの犠牲を生んだ。

 世界は平和であれと国際機関ができるようになったが、話し合いで解決できることはわずかであり、また、話し合いさえも権力と経済力競争の結果であることが明らかになると、今度は援助で弱小国を取り込む囲い込み競争である。

 アメリカも中国も強く望んでのことではないはずだが、両国の世界制覇競争に、今、世界中が巻き込まれようとしている。

 経済競争は、世界の人々の欲するものを共通化させ、金さえ出せば誰でも手にとれる製品で世界を席巻した者のみが勝者として生き残る社会をつくり出した。今や世界は企業ばかりか国を挙げての戦いの渦中にある。

 この競争を支えるのが市場だ。市場の創造こそ、この戦いの勝者が最も欲するものである。市場の担い手は市民だが、金がなければものは買えない。そこで市民の欲求が政治に向けられる。民主主義社会とは、この市民の欲求に素早く応えるか否かで票を勝ち取る社会でもある。

 こうして国債の大量発行に行き着いた。国債こそ、最も簡単に市民の欲求に応える手段であると政治家が決めた結果である。

 かくして、現在の豊かさが未来の借金で達せられる国々が先進国と呼ばれるようになってしまった。

 世界の最後の秩序づくりが、話し合いで解決するのか。それはどの国の犠牲によって成り立つことになるのか。今、それが決められようとしている。

楽をしてはトヨタ自動車のようになれない


 私は、トヨタ生産方式の創始者であり、トヨタ自動車工業の副社長を務められた大野耐一先生から、その哲学を学び、わが人生をその研究に生きてきたと自負している。

 大野先生が発せられた「徹底的なムダの廃除(「排除」ではだめだと言われた)と人の知恵を活かす」ことを、現場の人々と一緒になって現場を使って研究し、その成果をよろこび合い、現場を活性化して、携わった企業の業績に大きな影響を与えてきた。

 一人の実践者にすぎない私が世界の経済について言挙げするなどおかしな話だが、改善の実践を通して数百にも及ぶ企業とつきあってきた、止むに止まれぬ気持ちからである。経済的な豊かさを追い求めた結果が今日の日本であり、世界であるからには、豊かさとは何かを問い直さずして国も企業も成り立たない。

 トヨタ生産方式は、ひ弱だったトヨタ自動車工業がアメリカの三大自動車メーカーに立ち向かい、凌駕するまでの苦闘の中から生まれてきた方式であることを忘れてはならない。

 しかるに、今日、大量に出版されているトヨタ本を見るに、人はその手法のみに目を奪われ、楽をしてトヨタ自動車のように成長できる教科書と受け止めているのではないか、会社の利益は、トヨタ生産方式を理解すれば達成できるかのような錯覚に陥っているのではないかと思われてならない。

 これでは、あまりにも大野耐一先生が気の毒のように思える。

 トヨタ自動車のあの快進撃は、決して一朝一夕になされたものではない。社員一人ひとりの血の(にじ)むような努力と、その伝承がもたらしたものだ。少しはゆとりを持ちたいなどというわずかな油断、わずかな慢心が、どんな結果をもたらすか、歴史が証明してくれている。それを戒めとして誰よりも心しているのは、他ならぬトヨタの古参幹部だろう。

 私は、トヨタ生産方式とは、働くよろこびを現場の人々に伝える方式だと信じている。強い現場なくして良い製品は生まれない。人々が末永く使い、製品の味わいに深い愛着を持てるようなものをつくることこそ、製造業の本懐であり、現場で働く者のよろこびにつながるのである。

 分業から生み出す標準品で、豊かになった世界の人々の心をつなぎ止めていくのは難しい。ヒット商品が次々に生まれては泡のように消え、捨てられる時代である。あたかもゴミをつくるために存在するかのような今の製造業のあり方を続けるなら、ものづくりの場が働く意欲もよろこびもない職場になっていくのは当然の結果である。

 現場で働くことのよろこびなくして、豊かさは生まれない。アメリカが戦いで負けていくのも地上戦である。アメリカは、ベトナムとの地上戦に敗れて撤退した。現場の一人ひとりの気迫と力が、強大なアメリカの軍事力を跳ね返したのである。
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